41話 あだ名は耳くそ
エクスがヘルヘイムで修行を始めて4ヶ月ほどの頃、とある都市近辺では魔物の大氾濫が起きていた。
魔物は基本的に魔素のあるところならどこにでも現れる。
しかし街や都市には魔物避けの結界が必ずしかれているため中に出ることはない。
今回起きた大氾濫は魔物の異常発生のことを言い、
そして
緊急依頼が国から発令された。
“大氾濫の鎮圧”
条件
ランク Vl以下
しかしこの依頼を受けるものはあまりにも少ない。
なぜなら、
ーーーランク Vl以下で大氾濫を鎮圧することはほぼ不可能だから
大氾濫は魔物の異常発生でそのランクは基本的に l V以下。しかしその中に必ずl Vでは収まらない魔物が一体いる。
“災害級魔物”
街や都市を滅ぼす力を持ったランク Vl以上の魔物だ。
これをランク Vl以下で討伐することなど…幸運が起きないと無理だ。
シャリンッ……シャリンッ…
依頼が貼ってあるギルドに鈴の音を鳴らした男が入ってきた。
シャリンッ……シャリンッ……
それは長い髪を結んでいる紐から鳴っていた。
歩くたびに鳴るその音はどこか不思議な音色をしていて、皆の注目が集まった。
金の長髪を揺らし依頼ボードの前に立つと…
「俺の舞台じゃねぇか!これやるぞ!!」
そう言い放ち、紙を破って男は出て行こうとするが…それを止める者がいた。
「おいおい。勝手に人様のギルドに入ってきて挨拶もねぇのか?しかも依頼を取ってくんじゃねぇよ…オマエどこのもんだ?」
それは極当たり前の反応。
ギルドに所属していないものがいきなり自分たちのホームに入り、依頼をかっさらおうとしているのだ。
金髪の男はにこりと笑い、
「俺の前に立つ度胸は認めてやろう。しかし、実力が足らん」
おもむろに手を動かし、立ち塞がった男の腹に添える。
「テメェ何触っ……ぶへぇぇ!!」
男は急に吹き飛ばされギルドの壁を壊して崩れ落ちた。
皆、一斉に戦闘態勢に切り替わるが…
「はははははっ!いいぞぉ!!やるならこいッ!相手してやろう!」
悪気など微塵もない。
この男は、自分が世界の中心だと本気で思っている。
自分こそがこの世界の主役だと思っている。
それはどこまでも傲慢な考え。
しかしその自信は実力の裏付けでもあり…その男は、
ーーー・・・一度たりとも負けたことがない
(姉以外に限る)
事実、
「はーっはっはぁ!!!こんなものか!!その程度ならば俺の前に立つな!はーっはっはぁ!!」
一斉に襲いかかってくるランクlllを一薙で沈めていた。
その筋肉、瞬発力、柔軟性、どれも天才と言えるほどの持ち主。
その者の名は・・・ヴィルリグト
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「【悪纏魔装】」
魔物が蔓延る空間で人の声を発するのは長く伸びた白髪を自由に遊ばせている白い悪魔。
その右手には…黒と赤のゴツゴツとした腕が生えていた。
その手には黒一色の剣。
『だいぶ形になったなァ!維持も1日中出来るようになったし申し分ねぇ!』
「うん……【大地の権能】」
迫り来る数十体の魔物を地面から岩の棘を生やし撃退する。
さらに
「【雷剣】」
右手に漆黒の剣、ロギア
左手に雷装雷魔の剣
それはもはや異次元の強さ。
魔物の間を一瞬で駆け抜け二刀で斬り伏せていく姿。
さらに途中、背後から迫るランクlllの魔物を…頭を掴み、地面に叩きつけて絶命させるほどの怪力。
雷が見えたところにはもう人の姿はなく、そこにいる魔物は絶命している。
まさに雷速。
バチィィッ!
数十m離れたところに移動したエクス。
完全に周囲の魔物を殲滅し、雷をしまった。
『…キモいぐらい強くなったなァ』
「キモいとか言うな!誰のせいでこうなったと思ってる!」
思い出すのはこの半年間。
『できねぇ、無理だァ、諦めるゥ、一つでも弱音吐いたらち○こ落とす』
その脅しから始まった修行の数々。
魔力を自覚し容量を増やす修行。
これは地味だった。
毎日座って、自分の体にある魔力溜まりを……魔臓にある魔力を自覚するだけ。10日ほどでなんとなくわかったが、それを動かすのが大変だった。
どうしても動かない。
空気中の魔素はあんなにも簡単に動いてくれるのに自分の魔力は反抗期なのかびくともしなかった。
『テメェ浮いてる魔素はキモいほど動かせんのになんで自分のはできねぇんだ頭おかしいのかクソザコドーテーがァ!』
辛辣な言葉が飛んでくるが
「イエッサー!」
一度歯向かって体中斬られてからはこの掛け声をするようになった。
それからまた10日ほど立っても一向に僕の魔力は動かせない。
『斬るかァ?』
何をとは言わないがキレているロギアが斬るものは一つしかないだろう。
「本気でやってます!まじで!でも動かないんです!」
『テメェこんなことで枷外して叫ぶんじゃねぇよ!』
これが人生2回目の枷外しだった。
それからロギアに言われたのはとんでもない一言だった。
『オマエ、今までどうやって生活してきたんだァ?テメェの内蔵魔力耳っカスほどしかねぇぞ』
そりゃ動かないわけだ。
そこから僕の名前は耳くそになった。
『おい耳くそォ。テメェの耳くその容量と吸収率を上げる修行にシフトするぞォ♪』
いつも鳴っていた警鐘が、この時は爆音で鳴り始めたんだ。
そこから地獄は始まった。
古代魔法は空気中の魔素を直接魔法にする。
現代魔法は空気中の魔素を体内の魔臓という器官で魔力に変換し魔法を発動する。
とても汚い字で説明されたこの理論
『まずは魔力容量を増やすために耳くそにはハンパじゃねぇ魔素を取り込んでもらう』
「ふぁい」
『今からやんのはァ…』
ーーーー悪魔秘伝の針治療だァ♪
☆☆☆☆☆→★★★★★
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