29話 災害との遭遇
「……」
そこはヘルヘイムの中層。
周囲を見渡せば魔物だらけで死臭や腐敗臭、なんとも言えない死の匂いが漂っていた。
ロギアはそこの地面に突き刺さっていた。
「グギャアアア」
「グロオオオォォ」
「ヒヒヒヒヒヒッ」
地上に比べて魔素濃度が濃いここでは魔物が次々と生まれてくる。
『ウルセェ』
次の瞬間には魔物の首から上は地面に落ちていた。
『…くそみてぇな場所だなァ』
気分がわりぃ。
ロギアは空中に浮かぶと、道なき道を漂った。
上がり、下がり…右へと左へと…
そうしてたどり着いた場所は…
大きな魔法陣が刻まれた部屋だった。
その魔法陣に刀身で触れ…魔素を流す。
『認証しました。どうぞお入りください』
機械質な声が響き視界が変わる。
そこは…
満開に咲いた花畑だった。
ヘルヘイムの中層から下層の間のどこかに存在する、特別な場所。
そこには
数えきれないほどの墓があった。
そのほとんどは見事な装飾が施され、墓を守るように花畑が咲いていた。
ロギアは空中を漂い、ある一つの墓の前で止まった。
それは他のものよりも一回り小さくできている
そこには
【バールノストレア】
そう書かれていた。
『…3000年ぶりグレぇかァ?だいぶ空いちまったなァ』
生きていた頃を最後、この場には一度も来ていない。
『テメェらにこの手で花を渡せねぇのがひどく残念でならねェ』
剣となったこの体では…何もできることはない。
『…今回は当たりだァ。オマエらの意思はちゃんと俺様が継いでる。いずれ果たすからよォ』
ーーー心配しねぇで眠ってろーーー
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
暗闇にだいぶ目が慣れ、雷がなくても少し先までなら視認できるようになった。
それとこの洞窟には光苔のようなものが生えておりまぁまぁ視界を確保できていた。
そんな中エクスは広い洞窟の天井に足をブッ刺して静止していた。
エクスの目下にはさまざまな魔物がいたからだ。
(うわぁ、あれランクlVのカルキースじゃん。あっちにはキメラもいる…)
中にはランクl、ランクllの魔物もいるが…上位ランクの餌になっていた。
(…ギガントパスだ…!!)
それは大きな三つ目の巨人。
過去に地上に現れたランクVllの災厄で街を一つ壊滅させるほどの力を持つという。
珍しい魔物でもあり地上には生息していないと言われている。
ズシン
ズシン
と何者にも興味を持たず、足下にいる魔物たちを潰しながら歩いていた。
(うわぁ)
ランクが僕よりも高い魔物も潰されている。
まさに圧倒的な強者。
ギガントパスはエクスの下を通り過ぎる直前。
動きを止めた。
(……気づかれた?)
そう思うが、少し違った。
ギガントパスは三つ目をぐりぐりと色々な方向へ向け始めた。
全ての目が違う方向を向く様は気色悪過ぎて悪寒が走る。
ギガントパスは何かを探していた。
それはきっと
人間。
ギガントパスの唯一の好物。
街を破壊した時も人間を大量に食べるためだったと言われている。
それだけ大好きな人間の匂いを微かに感じ取ったこの巨人はそれを必死に探しているのだ。
しかし、エクスがばれることはまずない。
一つ、暗すぎるこの場所は、魔物も当てはまる。
暗視なんてものを持っていたら別だが、ここにいるほとんどの魔物は嗅覚や聴覚で動いている。
二つ、天井からギガントパスまで20mは距離がある。
三つ、ギガントパスが真下にいるため。
油断はしない。
いつでもすぐに逃げられるように雷装雷魔の準備をする。
エクスの心は少し揺れ動いていた。
ランクVllという格上が目下にいる。
気づかれれば逃げれるかどうか怪しい。
戦いとなって果たして勝てるかどうか。
それはほぼ不可能に近い。
ロギアもこの前言っていた。
あの黒い竜は普通1000回やっても勝てないと。
逃げることは恥だ。
しかし逃げなきゃいけない場面は必ず来る。
でも逃げたくないなら
『まず気づかれるなァ』
『そうすりゃあ逃げなくて済むだろォ?』
(そうだ。そのままあっちへ行け)
ギガントパスはでかい足を前へと進め始めた。
(いいぞ。いい子だ)
ズシンッ……ズシンッ
その歩く音が小さくなっていき…聞こえなくなるまでエクスは警戒を怠らない。
………
(…ふぅ)
また強い魔物が出てくるかもしれない。
「慎重に…」
同じことはもう繰り返さない。
雷装雷魔を起動し、壁を移動していく。
落ちそうになれば壁に足をブッ刺し、また走り出す。
その繰り返し。
今はロギアを探すことが第一。
戦いたい欲求はあるが、剣がないと意味がない。
(…すごい)
それに改めて感じる、自分のスピード。
ランクが上がったことに半信半疑だったが…魔力の質も維持も身体能力も…何もかも上がっている。
(本当にランクが上がったんだ…)
あれだけ夢見た、焦がれたランクl
それを竜との戦いですっ飛ばし、ランクlllにまでなった。
できることが広がったことがあまりにも嬉しく、どうしてもスピードを抑えられなかった。
もっと速く
まだいける
そうして加速していくエクスは一筋の雷となる。
(速い…!速すぎる…ッ!!)
もしもそこに人がいれば、その人は首を傾げるだろう。
雷が横に走っているという現象に。
(ははっ!楽しいっ!気持ちがいい!!)
誰も反応するものはいない。
もしもこれがランクXだったら?
どこまで速いのだろう。
世界の反対側まで一瞬で行けてしまうのだろうか。
この速度から繰り出される攻撃はどんな破壊力を見せてくれるのだろうか。
ーーーワクワクが止まらない
目前で壁の一部が鋭い牙を何本も生やした。
それは擬態系魔物、ミミック。
どんな場所でも姿を擬態させ獲物がやってくるのを待つランクlllの魔物。
「…邪魔だッ!」
それは一瞬の出来事。
エクスはそのスピードを殺すことはせずミミックを踏んづけてさらに加速する。
「ぷぎゃ…っ…」
情けない声を最後に絶命したミミック。
もう能無しではない。
いるのは、牙を生やした獰猛な存在。
(もう止まってなんてやるもんかッ!誰よりも速くッ!ランクXにッ!!)
ーーー最速の剣士に
☆☆☆☆☆→★★★★★
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