21話 狂気
『利き腕を持ってかれるとはなァ…同情するぜェ?…気分は最ッッ高だけどなァ!?』
はしゃぎながらもエクスの出血部分の止血を魔法で施し、命に別状がないようにする。
竜はその間にも歩み寄って、気絶した人の前で立ち止まり、捕食…をする前に匂いを嗅いだ。
スンスンッ
全身の匂いを嗅ぎ、竜は首を少し傾げた。
嫌な匂いが一切しない。
捕食をすること。
それこそがこの竜の本能。
しかし、同時に
この人間は食べてはいけないという本能も芽生えていた。
どうしてかはわからない。
ただ、
食べてはいけない。
竜はさっきまで捕食していた全てを吐き出した。
ボトボトと垂れてくる赤色に染まった肉片。
その中から竜は一つの腕を取り出し…倒れた人間の前へと置いた。
しばらく観察を続け、やはり食べてはいけないと本能が警鐘を鳴らしてくる。
竜は近くにいる人間を爪で串刺しにして観察をする。
「た…たすけ…」
バクッ
やっぱりこいつらは食べれる。
なら
捕食を再開しよう。
竜はエクスを置いて周囲の人間を蹂躙し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『いい食いっぷりだなァ!!』
ロギアは竜の捕食姿を見てはしゃいでいた。
『血がすげぇ!一面赤黒くなってるぞォ!昔を思い出すなァ?』
ロギアがいた時代。
それは至る所で大規模な戦いが起き、地獄のような光景が日常茶飯事だった時のこと。
大陸の大地は赤黒く変色し腐敗臭や焦げた匂いが漂うような時代。
そんな時代で生きていたからか、ロギアの常識は少しずれている。
『もっとだァ!その薄汚れた人間どもを喰え!!喰い殺せ!!ヒヒャヒャヒャ!!いィ〜い子だァ!ハウスゥ!!なんつって!!ギヒャヒャヒャ!』
完全にこの場を楽しんでいた。
断末魔すら心地よい音色で、これで飯10杯は食える。
「…ゃ…だ…ッ…!く…来るなぁ!!」
冒険者の叫びは誰に届くこともなく…虚しく頭を食われ絶命した。
「?」
周囲に人がいなくなり…竜は沼地に入った。
『おォ??そっちにゃァ何にもねぇぞ?あっちだァ!あっち行けェ!』
そう言ってロギアが刀身を向けた先は街の方向。
もしエクスが起きていたら引っ叩いていたことが想像に難くない。
竜は姿勢を低くし…沼のぷくぷく泡が吹いているところを見ていた。
待つこと数分。
ちょこっと何かが頭を出した瞬間、それは竜の爪に刺さり、陸に持ち上がった。
『…同業者かよォォォオ!!おいッ!白髪ちびすけェ!お前の飯、あの駄竜に喰われちまうぞォ!?』
鞘におさまったままエクスの頬をペチペチ…
バチバチするロギア。
どんどん右頬は腫れていき、
「…いてぇわ…ッ!!」
エクスは剣を地面に叩きつけて起きた。
どうしてか目のないロギアと目が合ったような気がして、誰を地面に叩きつけたのかを、覚めてすぐの頭でも理解した。
「…ごめん」
『もう片手も捨ててこい』
「…!?」
ーーー片手
その単語に身体中に汗が浮かび、恐る恐る腕を確認するが…やっぱりもうなかった。
それはそうだ。
自分の目の前に、とれた腕が置いてあるのだから。
「…う…ぅ…!」
夢ならよかった。
まだ始まったばかりで、ロギアという変な剣にも出会い、古代魔法も覚え、ようやく強くなる方法が見つかったのに、それはすぐに崩れてしまった。
そこに佇む漆黒の竜によって。
黒い竜はその場から一歩も動こうとしない。
先ほどまでの殺気はなんだったのか、
心当たりがあるとすればロギアが何らかの方法で止めてくれているのだろうと思う。
しかし今更遅い。
身体欠損
それはエクスにとって絶望的な状況。
ロギアにとってはよくある話。
むしろ今の時代はよくもまぁこれだけ五体満足なやつらがいるぐらいだ。
昔なら片手の剣士
片足の剣士
盲目の魔法使い
などざらにいた。
しかし今の時代では欠陥品でしかない。
これじゃ、何年、何十年修行をすればまともに剣を振れるようになり、その先へ行けるのかわからない。
「…血はロギアが止めてくれたんだよね?…ありがとう」
絶望的でお先は真っ暗。
何もかも捨てて投げ出したい。
しかし人としての矜持だけは捨てたくない。
捨ててしまえば、僕もごみのような人間になってしまうから。
「笑えるね」
『あァ?』
「みてよこれ。僕の腕があそこにある。変だよね」
はははと笑うエクスをロギアは頭がおかしくなったのだと思った。
誰よりも強さへの執着が凄かったこいつが腕を無くして笑っている。
気がおかしくなったと誰もが思う。
エクスはゆっくりと立ち上がると腕があるところへ歩き出した。
それをロギアも黒い竜も静かに眺めている。
数秒、数分が過ぎただろうか。
それはいきなりの出来事。
この場にいるロギアと、黒い竜は悪寒を感じ、威嚇をし始めた。
「グルアアアァァ!!!」
『…ちびすけェ?』
「…く……」
エクスはぶつぶつと何かを言っていた。
「く…れ…」
『あァ?』
「くれ」
『…何を言ってや…!?!?!?』
ロギアはみた。
ーーー狂気に染まったエクスの顔を
ーーーその荒ぶった嵐のような闘争心を
「腕がなくなったのは今でも悲しいし辛い。もう剣は振れないと恐怖してる。今も、まだ震えてる。でも………」
顔を上げたエクスの表情は、清々しいほどの笑顔。
恐怖よりも好奇心が勝ってしまったのだ。
そんな人間を、人々は戦闘狂と呼ぶ。
「…お前に腕はやる。だけどお前も僕に何か渡せ」
なんだその理不尽は。
ロギアもびっくりな発言をしていた。
「お前が僕に払うものはもう決めたんだ。大したことじゃない。決して成し遂げれないことじゃない。僕ならできる」
まるで暗示をかけているような、自分を鼓舞する発言。
「お前の」
ーーーー強さ、肉体、そしてその命
「僕が喰らう」
ゾワッ
この場にいる誰もがエクスの狂気にあてられすくみ上がる。
それは竜をも威嚇するほどの濃い心の強さ。
ロギアですら一瞬ゾワッとしたぐらいだ。
『…ヒヒャヒャヒャ!!!おいちびすけェ!!お前は俺様以上の傑物だァ!!誰だァ?こんなやつに火つけたのはァ!!歴史上で一番イカれてるぜェ!?』
能無しで竜を威嚇できるほどの胆力。
それは才能や努力では決して辿り着けない。
元々備わっている…いや、壊れている要素。
エクスは過去に見ないほど、壊れている。
しかしロギアにとってそれは僥倖。
常識を外れているとかそういうのではなく、ただ強さへの執着、
それ一点がずば抜けてすごい。
その執着は
ーーー悪魔を宿らせる
最高の素体。
そして才能。
ロギアは笑いを堪えられない。
口を結んでも漏れてしまう。
本当にこいつは
天使の天敵になる。
「…殺す」
不意に聞こえたこの場に似つかわしくない綺麗な声。
竜の先に1人の少女が剣を持って迫っていた。
☆☆☆☆☆→★★★★★
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