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相棒と世界最強  作者: だんちょー
2/43

2話 勝負を受けた

 



 それは

 ーーーー英雄の話ーーーー


 世界にはね、たーっくさん強い人がいるんだ。

 その人たちは強くなろうと毎日毎日もがいてもがいて…目に見えないものに手を伸ばすの。

 それを手にできるのはほんの一握り。

 でもね?そんな努力を嘲笑うかのように『英雄』は現れるんだよね。


 ぼくちゃんが憧れてるドラゴンを倒した冒険者はね?


 ーーーー偽物なんだよーーーー


 あれぐらいならちょっと上手く努力すれば辿り着けるの。


 ーー世界ってね、すごく広いの。色んな人がいて、みんな強くなろうともがいてる。

 だけど本物には何も勝てないの。


 ーー矛も盾も名声も地位もお金もなーんにも勝てやしないの。


 私の知ってる本物はみんなすごいことができるんだよ?

 大男は大地を裂き、可憐な女性は太陽の如き熱を生み出し、青年は雷を操り、ある老婆は山を消滅させる。


 信じがたい話だったし憧れを偽物呼ばわりされた僕は腹がたったけど……この話をするゼロお姉さんはどこか大人びていて雰囲気がいつもと違くて……本物が本当にいたらいいなと思った。


 僕は今日で10歳になる。

 この村での誕生日なんてみんなからおめでとうを言われるだけの普段とそんなに変わらない日。

 僕はいつも通り剣を振るし、ゼロお姉さんはいびきをかいて寝るし隣のおじいちゃんは野糞をする。

 だけど10歳は。


 ーーー特別な日が始まる1日目ーーー


 この世界は10歳の誕生日になると恩恵を得ることができる。

 急に魔法が使えたり、マッチョになれたり剣の達人になれるとかそういうものではなく、、、


 ーーー努力で掴み取る恩恵ーーー


 を得ることができる。


 いつ起こるのかそれは誰にもわからない。



 だけど、ほとんどの人は【ランクI】になることすらできないらしい。


 その理由はわから「『綴り書』だろうねぇ…」


 振り返るとゼロお姉さんがニマニマ顔をして立っていた。


「つずりしょ?」


「あ!考えてることあたっちゃった?ぷぷぅ…!ぼくちゃんわかりやすいんだから〜♪」


 スネに木刀を振るが躱されてしまった。

 何度も何度も振るが一向に当たらなかった。


「うりうりぃ〜」


 こんな態度だけど最近少し気づいた。

 …意外と…ほんのちょっと…認めたくないけど…僕よりちょっと強いんだと。


 ……本当にちょっと。


 疲労で仰向けに倒れた僕の頬を尖った爪でぶすぶす突き刺してくるが、満足気な顔をしたゼロお姉さんは綴り書について話をしてくれた。


 綴り書っていうのはね、世界に存在する妖精さんが認めた強者の名前とその偉業が書かれている本のこと。妖精さんが認めるぐらいの偉業を達成するとか新しい発見をするとか、、認めさえすればどんな内容でも綴り書にのるんだよ?……この本はね、一度読み始めたら止められないぐらいすごい話が書かれてるんだよ。ある勇者の物語だったり英雄が誕生した物語…他にも天変地異を起こした剣士の物語とかもある。全てが実話で……この前の英雄の話は覚えてる?英雄は神様が決めた人のことを言うの。つまり、この本に載ってる人が


 ーーー本物なのーーー


 満面の笑みで言い切るその姿に、どこか誇らしさが伺えた。そしてその話を聞いた僕は……

 今までで一番興奮していた。


「う…うぉおおおおっ!!!」


 頑張る!!絶対に強くなるんだ!!!


「…だけどね、これを読んじゃうと先に行ける人と行けない人で分かれちゃうんだよ」


 ーーその憧れが、一つ目のきっかけになってしまうから




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「ふふ……ぼくちゃんは純粋でかわいいなぁ…!だけど…」


 っ!!


 ゼロが腕を振ったと同時に10mほど離れたところにある木が真っ二つに割れた。

 そしてそこから現れたのは、おじいちゃんだった。


「……綴り書はどの村にも一冊はあるはずなんだけどなぁ?どうしてこの村にはないのかな?」


 それはいつものゼロお姉さんではなくどこか強者の風格を纏っていた。


「…あまり…あの子にちょっかいをかけるでないわい…」


「私の質問は無視?怒っちゃうよ?」


 そう言ったゼロの周囲は徐々に光り輝いていく。


「…その若さで大したもんじゃい。じゃが…」


 おじいちゃんは歩いてゼロに近づいていく。まるで日常の散歩のように。

 少し違ったのは魔力の可視化。さらには魔力を固定し属性変換を加えていること。


「…っ!? 魔装…使えるんだぁ……」


 ーーー魔装ーーー

 それは可視化した魔力を固定し属性を付与する高等技術。ランクVll以上でないとあまりの負荷に体が壊れてしまう。最強の矛であり盾。


「ん〜、、お互い無事じゃ済まなそうだからね、今日は帰るよ。だけどどうして…本がないの?」


 綴り書がないのはルール違反なのだ。

 村や集落、人がいるところには必ず一冊はないといけないというこの世界でのルールがある。綴り書は言わば世界の妖精たちの導きと言っていい。

 子供のうちに必ず読むものだし大人たちも綴り書の次なる本物が現れるのをいまか今かと待っている。それだけ根強い文化として浸透しているのだ。


「…何が綴り書だ。大人はええが…子供には呪いでしかない。そんなもの必要ないじゃろう」


「君はまるでわかってない。あれがあるから、あれを読むから…」


 ーー『本物』が生まれるんだよーー


 その時見せたゼロの表情はまるで悪魔のようだったという。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 この村には灯りなんてものはないから自分で火を起こさないと夜道を歩くことはできない。子供の僕は火を起こすのは難しいから日が沈んだら寝て登ったら起きる毎日を過ごしている。

 大きな街に行けば魔道具というものがあり夜道でもとても明るいそう。


 今日も朝日が昇ってすぐに鍛錬を始める。


 強くなる方法は自分で考えた。あってるのか、強くなってるのか、不安になることもあるけどこんな村じゃ誰も強くなる方法なんて知らないから。


 唯一、村外の人が一人いるけど…


「ぐがぁ……ぐがぁ………うへへ…」


 半裸で酒瓶片手に雑魚寝していた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 お昼を過ぎたあたりで一度水浴びをしに川へと向かう。

 だが、その途中で僕は足を止めた。


「やぁっ!…はっ!!」


「ほれほれ〜」


 気合の入った声と間延びした声……ゼロお姉さんとメリルだ。





 少し前、


「今日からメリルは私の弟子にする!」


「…は?」


 唐突に言われた言葉に何も言えず、ただ疑問しかでなかった。

 第一ゼロお姉さんの弟子って何?

 女性らしさをなくす訓練?

 それともだらしなさを鍛える訓練?


 何を教えられるんだろうと言ったら剣術だって言うんだ。


 …いつもだらしない酒飲みのゼロお姉さんが?

 修行してる二人の姿を想像しようとしたけどまったく想像できず、意図せずとも鼻で笑ってしまった。


「はい!隙ありっ!」


 そう言ってカンチョーしてくる姿からはまったく想像できない。というかメリルのことは好きじゃないけど、心配になるレベルでこの人の弟子はダメな気がする。


「ふふっ、余裕だねぇ?私の弟子よ?1ヶ月もしたらぼくちゃんに勝てちゃうんだからね!」


 そんなわけない。


 三年だ。毎日かかさずに剣を振ってきたし、それなりに様になってきている。

 落ちてくる木の葉を切ることだってできるし…そりゃあ対人戦の経験はないけど負ける気はまったくしなかった。


「それだけ自信があるなら一ヶ月後勝負してみるぅ?まぁ、勝てる気がないなら降参でいいけど?」


 この言葉にはさすがにカチンときた。




 僕が目指すのは強さ。

 誰よりも、世界で一番、どんな敵をも砕く矛。


 それの第一歩がメリルを打ち負かすこと。

 今まで嫉妬してきた。そのせいで距離を置いていた。

 それで後ろめたさがあったけどこれを機に払拭できたらと思い、


「やるよ」


 勝負を受けた。


 メリルに絶対に勝つ。


 そう心に誓いを立てた。


「んじゃそういうことで〜」


 そういって楽しそうにスキップする姿はとても剣を教えれる人には見えなかった。


 少しの安堵と焦燥が入り混じった感情を払拭するため剣を片手に素振りを始める。


「…っくっさ!!」


「…ゆびをかぐな!!」





☆☆☆☆☆→★★★★★


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