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王都へ

この小説をご覧いただきありがとうございます。


初めての作品なので、読みづらいところやわかりにくいところなど多々あるかと思いますが、頑張って続けたいです。


ブックマーク登録や評価をいただけますと励みになります。


よろしくお願いいたします。WAKYO

 ギルドに行くと、ジョンベルが待ちくたびれた、という顔で待っていた。

 当然のように裏の倉庫に行くように促される。


「今日も随分粘ってたみたいだな。

 ……で、どこまで行ってんだ?」


「あ、6階層の主をさっき倒したところです」


 オレの言葉にジョンベルがふーーっと深いため息をついた。


「……おいおい。おいおいおいおいおい。

 6階層はジャイアントデススネークだったよな?Bランクじゃねーか。

 お前さんまだDランクだろ?」


 ……そういえば自分のランクは気にしていなかったな。

 どうすればいいんだっけか。


「5階層の主を倒したらとりあえずギルマスに鑑定してもらってランクアップしてもらってだなぁ。

 ……て、まあそれはエリーにでも聞いてくれや」


 ジョンベルがあきれ顔で言う。

 なんかその反応、オレがめっちゃこまったちゃんみたいなんだけど。


「まあ、まず昨日の買取分だ」


 目の前に重そうな袋がドンッと置かれる。


 おそるおそる確認すると、中には金貨がどっさり入っていた。さすがにこれはびっくりだ。


 ええ!……多くないかこれ?


「素材はひとつひとつはたしかに高価なものはなかったが、とにかく数が多かったからな。

 ……あとは丸薬だ。(中)まであるとはなぁ。あれはかなり高価なんだぞ」


 そうだったのか。ゲイルたちも確かにそんなこと言ってたな。

 ドロップ品はオワサビがサクサク拾い集めてくれるからそれだけでも相当楽させてもらっているな。


「ということでちょうど金貨100枚だ。端数は切り上げておまけしてある。

 ……で?どうせ今日もあるんだよな?」


 ため息交じりに言う。


 ははは。よくご存じで。


 まあまあ、と言いつつ今日の分をどさっと出した。昨日ほどの量ではないが、階層が上がったので全く別物が作業台に並ぶ。


 オレもそれなりだと思うが、ワサビは特に鼻が利く。

 魔物の群れをすぐに見つけて最短でエンカウントしてくれるので、他の冒険者と比べても稼ぐスピードが段違いなのだろう。


「こりゃまた結構な量だな……お前さん、ホントに大したやつだな。

 間違いない、こりゃすごいことだ。

 ま……また明日来いや」


 ジョンベルは感心しつつ、また残業だな、なんて独り言をつぶやく。オレは気を利かせて聞こえなかったふりをしておいた。


 気休めだと思いつつ、慌てませんから、と伝えたのだが、明日にするとその次の分がまた来るだろうが!と言われた。


 ……おっしゃる通り。


 ということで、ランクアップの件もあるし、エリーのところに顔を出しておくか。


「……え?6階層の階層主を倒した?」


 エリーもジョンベルと似たような反応だった。この2人はいつも似ているなと思う。結構気が合うんじゃないだろうか?


「もう、アル君たら……ちゃんと報告してよね」


 潜り始めて一か月も経っていないのに驚異的な早さなんだと。まあワサビがいい働きしてくれるからな。


「それはそうなのかもだけど……で、ああ、ランクをね。うん、そうね。

 とりあえず鑑定させてもらうわね」


【名前】アルゼリオス

【種族】人間

【性別】男

【年齢】15

【職業】魔物使い、冒険者、商人、旅人

【称号】なし

【加護】該当無

【体力】150

【魔力】10

【すばやさ】120

【知力】20

【攻撃力】200

【耐久力】100

【スキル】該当無

【戦闘力】280


 うん、変化なしね。


「うん、変化なしね」


 こだまか。


「ステータスはともかく、クエストの達成率、ダンジョンの踏破状況からみてBランクでもいいくらいだと思うんだけど、ギルマスが生憎と不在なのよね。

 まあ私の独断でCランクにはしておくわ。あとはデフォードさんが戻ってから指示を仰ぐから」


 そういえば王都にいってるんだっけ。

 魔物使いについて何かわかるといいんだけどなぁ。


「アル君、まだしばらくこの町にいるんでしょ?」


「実は頼んでいた船にキャンセルが出たとかで少し早まりました。

 急ですが、10日後の船で王都に行きます。

 借家の期限はまだなんですが、そっちはもう引き払おうかと思ってます」


 まあ払った金額も知れてるしね。今の手持ちの金貨からすれば。ははは。


「え!そうなの?

 10日だとぎりぎりかなぁ……。

 その時によって違うんだけど、長い時は結構長いこと行ってるからねぇ」


 もしかしたら行き違いになってしまうかもしれないという。

 しかし船も今を逃せばまたいつになるか分からないからなぁ。


 王都で話をしてくれているなら、行き違いになっても王都のギルドにいけばなんとかなるだろう。

 オレの方はもうしばらくダンジョン周回しつつ、旅の準備をすすめるか。


ーー


 結局ギルマスはオレが出発する日までに戻ってこなかった。

 残念ではあるがやむを得ない。この機会を逃すと次の船は1ヶ月以上先になるのは間違いないし。


 借りていた家もきれいに片づけて引き払ったし、顔見知りになった店の人や冒険者たちにもあいさつも済ませたおいた。


 ダンジョンは今日までの10日間で結局7階層の主まで倒したが、8階層目以降は同時に出る魔物の数がかなり多くなってきたので踏破は断念した。

 さすがに数が増えるとオレとワサビだけでさばききれなくなってきたのだ。


 少しだけ心残りだが無理は禁物。ダンジョン踏破が主たる目的ではないので優先順位は低めだ。


 エリーの話の通り、片田舎ということに加え高ランクに指定されていないことから、踏破できそうな力のあるパーティーはまだ訪れていないということのようだ。


 踏破にはまだしばらく時間がかかるみたいなので、できることならオレが戻るまで未踏破のままだったらいいな、なんて思ってしまう。


 なんでも初踏破だと通常のドロップ品のほかに宝箱が出るという話だし。


 それにやっぱりダンジョン初踏破って気持ちよさそうじゃないか。一度くらいね。


 さて、それはともかく……ダンジョンに潜り続けたオレといえば、前回鑑定から一切の成長は見られなかった。


 やはり通常とは成長の速度というか、仕組みそのものが違うことだけは間違いないようだ。


 この辺りも王都でなんらか手がかりがあればいいのだけど。


 ま、ギルマスが戻らなかったので当分ワサビは鞄で我慢してもらわないとな。オレは鞄の上から軽くポンポンとした。


『ワサビはここでも大丈夫だよー』


 念話が返ってくる。お利口で助かるよ、ホントに。


 さてと、船が港に入ってきたな。


 ジョゼ村に定期的にくる船よりずっと大きい商船だ。毎日1便だが王都まで5日以上かかるらしいので、5隻以上で順次運航しているってことかな。


 この商船も客船と異なり、荷物を優先しているので乗客の数はさほど多くない。

 まあ冷静に考えればわかることだが、どう考えても人よりも荷物を運んだ方がよほど金になる。


 この世界は陸路の輸送網があまり発達していないみたいだしな。


 荷物は食事も娯楽も必要ないし、なにより文句を言わないからな。ぎゅうぎゅう詰めでも置けるスペースさえあれば何も問題はないのだ。


 さて……降りてくる客をひとしきり確認していたが、ギルマスの姿はなかった。もしやと思ったがそう都合よくはいかないらしいな。


 まあもしかしたら、想定以上に会議が長引いていて、オレが王都に着いてもまだいるかも知れないしな。


 荷物の積み下ろしはまだ続いているが乗客の下船は完全に終わったらしい。乗船の準備が整ったと船員が大声を上げている。


 さて、乗り込むか。という、その時だった。


「アルくーーん!」


「おーい!アルゼリオスーー!」


 エリーとジョンベルが手を振りながら走ってくるのが見えた。

 え?わざわざ見送りに来てくれたの?


「何言ってるのよ、当たり前でしょ。可愛い弟の旅立ちだもん!」


「水臭いじゃねーか。最近はお前さん専属の買取担当だったんだからな。わはは」


 2人が口々に言う。なんだかうれしいな。ちょっと涙が出そうになるよ。


 ん?そういえば、ちょっと2人並ぶといい感じに……というかなんか距離近くないか?もしかして?


 ……まあ、いっか。最後に2人に会えてよかったよ。


「王都に行ったら何をするの?

 用事が済んだら戻ってくるのよね?」


 エリーが言うと、間髪入れずにジョンベルが口をはさむ。


「そんなわけねーよ、こいつはそんなタマじゃねーよ。

 絶対すげーことをやるやつだ!すんなり帰ってくるわけないさ」


「そりゃわたしだってアル君はすごいって思うわよー!

 でもすげーことってなによ?」


 思いがけないエリーの突込みにジョンベルが言葉に詰まる。


「うぅ……すげーことはすげーことだ!

 想像できないくらいすげーことなんだろ!だからすげーってんだよ!」


 もはや意味が分からない。2人であれこれと好き勝手に言っているが、そんなに過度に期待されても困るって。ワサビがすごいだけなんだからね。


 とりあえず王都で魔物使いとか、ワサビみたいな特殊なスライムのことを調べるのが当面の目的かな。

 あとはその結果次第では他の大陸も見てみたいなって感じ。


「他の大陸にも行くってことか。そりゃ……長旅になるな」


「そうね……身体に気を付けてね。

 私たちは多分ずっとこの町にいるから、近くに来たら必ず寄ってね」


「身体は昔から丈夫なんで大丈夫です。

 きっと美味しいお土産を買って帰ってきますよ」


 いい町だったな……そう思う。

 ほんの2ヶ月足らずだったが色々なことを学んだ。


 エリーはちょっと涙ぐんでくれているみたいだ。ジョンベルはちょっと照れ臭そうに笑っている。


 ふと、ジョゼ村のミーナのことを思い出した。


 小さい頃はジョダと3人で一緒によく遊んでたっけ。5歳上だからか、やたらお姉さんぶって世話を焼いたり口うるさかったりしてたな。


 森に入るようになってからはあんまり遊ぶこともなくなって、段々話す回数も減っちゃって。村を出るときもろくに離せなかったな……。


 いつか戻るときにはきっと結婚して子供が生まれてたりするんだろうか。相手はジョダだったりして……想像してオレはぷっと笑ってしまった。


 エリー達が怪訝そうな顔をするが、なんでもないと首を振る。


 「じゃ、いきます!」


 オレは2人に手を振って船に乗り込んだ。


 もういいですよと言ったのだが、結局船が出航し姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。


 いい人たちだったな。


 ポツリとつぶやくと、鞄の中からワサビが念話で返してくる。


『そうだね、アル様!』


 さて、部屋に行くか。でかい船だが貨物メインというだけあって客室数はたった30しかないらしい。


 今回キャンセル待ちで取ったのは貴族向けのものらしく、上から2番目のそれなりに豪華な部屋だった。


 当初の想定よりは高くついたが、ダンジョン周回のドロップ品売却で得た金貨はすでに300枚を超えていたので全然問題ない。


 食事は料金に含まれている。食堂に食べに行くか、頼んでおけば決まった時間に部屋まで持ってきてくれるので、オレはもちろん部屋食を選択。


 宿屋とは比べ物にならないくらい広く豪華な客室で、ワサビと贅沢な船旅が始まった。


 ……のだが。今日は出航して2日目。


 食っちゃ寝だけではさすがに暇だな。


 ここしばらくはダンジョン周回で戦ってばかりいたからな。突然身体を動かさない日が続くと精神的にきついものがある。


 部屋は豪華といっても、客船というわけではないので、娯楽的な施設はない。あくまで商船だからな。


 ということで、とにかく暇だ。


「暇だな、ワサビ」


『暇だね、アル様』


 初日は船内の探索というか探検をして時間をつぶしたのだが、2日目ともなるとさすがにやることがない。


 ワサビの能力の検証もここ最近は目新しい発見もなくちょっと飽きてきている。


 ちなみに客室には窓はないので外の景色を見たければ甲板に出るしかない。


 ずっと部屋にいると時間の感覚はなくなってくるので、運ばれてくる食事で判断するようになった。


 もしそのうち食事の間隔を変えられていても気づかないかもしれない。知らない間に昼夜逆転させられたり……なんてことはないだろうが。


 さっき夕食を食べたのでそろそろ寝る時間かな。


 寝るか、ワサビ。


『そだね、アル様』


 夏が終わりつつ、秋が近づいている、そんな時期。まだ若干寝苦しいがそんなときはワサビがいい感じにヒンヤリして気持ちいい。

 

 オレは右と左にワサビのヒンヤリを感じながらすやすや。


 ……って何で右にも左にもいるんだ!


 おかしいだろうが!


 がばっと起きて確認する。どっちにも確かにワサビがいる。


 おいおいどうなってる。なんで2匹に増えてるんだよ。


 ……ワサビ、カンテラつけてくれ。


『むにゅむにゃ…なにぃぃ…?』


 寝ぼけているようだが、しばらくしてカンテラに火が付いた。


 ……ありがと。

 って、何お前?


 ワサビとオレを挟んで反対にいたのは紫色のスライムだ。ぴょんぴょんと跳ねている。まるでワサビの紫バージョン。


 どうやらこいつがカンテラに火をつけてくれたらしい。


『あれーー?なにこの子?』


 ワサビがようやく覚醒したのか、現状を理解しようとしている。


 お前、分裂したのか?


『そんなことしてなーいー』


 まず最初に湧いた疑問だったがそうではないようだ。


 足元に蓋のようなものが落ちている。板にたくさんの穴が開いている……これって天井近くにある換気口の蓋か?


 分裂したんじゃないなら、この穴から入ってきたってことか。


 ネズミでも来ると困るので蓋はとりあえず戻しておく。


 さて、問題はこのスライムだ。どうしたものかと考えていると、ぴょこんとオレの腕に飛び込んでくる。


 うーん、ワサビ再来か。なんか可愛いな。


 ……というか今度は紫か。どうなってるんだよこれ。


「もしかして」


 オレは鞄から麻袋を取り出した。いくつか低質の魔石が入っている。ワサビにはもう効果がないので使い道もなく貯めていたものだ。


 適当に20個ほど紫色のスライムに渡してみる。


 やっぱり思った通り食べている。……こいつもか。


『アルさまーおいしー』


 てか紫スライムが何でオレの名前知ってるんだよ。と、突っ込むとワサビが答える。


『なんか、記憶が共有されたみたいー』


 よくわからないがそういうことみたいだ。

 効果があるならまあ惜しむ必要はないか。持っている魔石をまとめて豪快に食べさせてやった。


 紫色のスライムがピカピカと光りまくっている。


 ……よし、鑑定。


鑑定結果

【名前】無

【種族】スライム

【性別】不明

【年齢】不明

【職業】魔物

【称号】なし

【加護】火

【体力】350

【魔力】430

【すばやさ】220

【知力】50

【攻撃力】250

【耐久力】300

【スキル】闇魔法

【特技】隠密、探索

【戦闘力】456



 ワサビと似たような特殊個体のようだが、加護は闇なんだな。そして闇魔法のスキル持ちと。


 一応聞くが、お前も付いてくるのか?


『アル様についていくー』


 ワサビ、どう思う


『いいよー』


 かるっ!!


 しゃーないかあ。となると、とりあえず名前か。

 緑がワサビときたら紫はやっぱり……。


 よし、お前はショーユな。


 回らない寿司屋でむらさきといったら醤油のことだと聞いたことがある。


 行ったことはないんだけどな。回らない寿司屋、生きているうちに行きたかった……。


 あ、今も生きているけどこっちの世界には寿司屋は期待できないだろうからね。


『ショーユー、ショーユー―!

名前うれしー!』


 ショーユがぴょんぴょんと跳ねまわる。ワサビもなぜか一緒に跳ねまわる。


 見た目ほど音はしないのでまあいいけど、ちょっと落ち着いてくれよ、何時だと思ってんだよ。オレも知らないけど多分夜中だよ。


 でもこいつもやっぱり魔石で成長するのか。加護が違うと色も変わるってことか?


 つーか、ほんとはこういうスライムって多いんじゃないのか?


 シーレイドでは知られていないだけで王都に行ったらめっちゃ一杯いたりして。なんかそんな気がしてきたな。


 で、闇魔法か。ちょっと火力不足な気がしてたし、パーティのレベルアップにはいいかもだけど一旦どんな魔法なんだろうか。


 いやいや、待て待て。そこまで戦力増強することもないか。オレは世界制覇が目的じゃないし魔王倒そうってわけでもないし。ちょっと世界を見て回るだけなんだからな。


『アルさま、ショーユってどういういみー?』


 結構流ちょうに話せるようになったショーユが聞く。意味も分からんと喜んでたんかい!てかまあ知らなくて当然だけど。


『ワサビも、ワサビも気になってたー!』


 あ、えーと、意味……か?


 ショーユは、オレが前世で一番愛した調味料だ!ちなみに二番目は味噌だがな。

 そしてショーユにワサビをたっぷりいれて食べるマグロは最高なんだよ!


 とりあえずそのまま言ってみた。オレはマグロが好きだ。多分どんな食べ物よりも好きだ。この世界でもしも食べられるならそこに住んでもいい、ジョゼ村の皆には悪いが。


 それくらい好きだ。


『ふーん、そうなんだー。

 ねーねーワサビー、ぜんせってなにー?』


 今度はワサビに聞いている。オレの説明が分かりにくかったのだろうか。


『ショーユにはまだ難しいよねー。前世っていうのは生まれる前の人生のことだよー』


『じゃあさ、じゃあさ、ちょーみりょーってなになに?』


『えっとね、塩とか胡椒みたいに料理に味つけるやつ!だよねーアル様?』


 お、おお、そうだな。ワサビは賢いな。


 あれ?共有されるって言ってたのに、なんでもワサビが知っててショーユが知らないんだ?いや違うな。


 知力が低いせいで共有された情報の理解が追い付いていないのかも知れないな。低いといっても魔石で強化したからオレよりも高いはずなんだけど……。


『わーい、わーい!』『わーい、わーい!』


 2人ともぴょんぴょんして飛び跳ねる。なんか2人で盛り上がってるな。ほんわかしてしまう……が、もう夜中。いや明け方か?もうわかんねえ。


 とりあえず寝るぞ!


『はーい!』『わかったー!』


 うーん、これでいいのかな?


 まあいいか。とりあえずもう少しだけ寝かせてくれな……。けどとりあえず明日からはショーユの能力の検証だな。ちょっとワクワクするオレだった。


--


 まさか2体目のスライムと遭遇するとはねぇ……。

 出航した翌日にいきなりのイベント発生だったがその後はすんなりだったな。


 今日は3日目、晴天と穏やかな風に恵まれ、のんびりとした船旅を楽しんでいる。


 ショーユはというと、すっかりワサビになついてずっと後ろを追っかけている。


 ワサビの方も可愛い妹でもできたかのように、かいがいしくあれこれと教えている。


 ちなみに性別があるのかどうかは不明だけど。


 時間だけはたっぷりあったので、ショーユにこれまでのことを色々と聞いてみた。

 ワサビと同じで以前の記憶ははっきりしていないようだが、この船が王都で停泊しているときに荷物と一緒に紛れ込んだらしい。


 ワサビも同じだが、最初の魔石を食べる前からすでに、かすかにだが自我のようなものはあったらしい。

 ただ知力の低さもあって能動的に行動することはできず、お腹がすいたら食べる。食べたら移動する。


 思い出したように何かを探して移動する、という具合。2人とも一体何を探していたんだろうな?


 共通しているのは、魔石を取り込むことで頭の中の靄のようなものが晴れていき、思考することができるようになること。

 同時に自分のスキルを理解して、特技を使えるようになったのだという。


 それにしても緑色のスライムに紫色のスライムか。この調子でさらに増えたりするんだろうか。そもそもなんでオレの行く先々に特殊なスライムが現れるのか。


 謎は深まるばかりだな。


 ひとまず疑問点をまず整理しておくか。現時点で気になること、王都で調べるべきこと。


1.こいつらは本当に特殊なスライムなのか?


 シーレイドのギルマスが魔法を使うスライムなど見たことも聞いたこともない、と言っていたな。ダンジョンで会った冒険者のパーティも同じような反応だったし、これは間違いないだろうな。

 今でも、特殊なスライムのことは誰にも知られていないのか、あるいは誰かは知っていたりするのか。


2.魔物使いという職業はなんなのか?


 これは王都に行ったからと言ってわかるかどうか疑問だが、やっぱりギルドに行くしかないだろうな。ギルマスがまだ王都にいてくれると話が早いのだが……行き違いになっていた場合、誰に話せばいいのだろうか?

 話が通じるといいんだけど。


3.オレの成長はどういう仕組みなのか?


 鑑定機で調べた限りでは、戦闘では全く成長していないようだ。

 旅に出る前より強くなっていると感じているのだがステータスには反映されていない。法則性が全く分からない。

 こういった事例があるのかどうか調べてみたい。


 これらの疑問の答えはいくら考えても仮説の域を出ないので、やはりそれなりに知識を持った人の助言が欲しいところだ。


 あるいは図書館で文献を頼りに調べるというのも手かもしれない。


 となると、まずは冒険者ギルドでデフォードの名前を出して話を聞いてもらうか。

 それから図書館で調べ物をして……あ、まず宿の手配の方が先か。王都ともなると宿代も高そうだな。


 まあドロップ品の買取で随分金貨も貯まっているし、少しくらいのことなら大丈夫だと思うけど。


 なんて色々考えつつも、空き時間を利用してワサビとショーユのスキルや特技の検証を続けている。


 ワサビはこれまでの検証である程度能力が分かっているが、この船旅の間にも新たな発見があったので改めてまとめてみた。


 まずワサビのスキルは「空間魔法」。鑑定する前は商人たちのように収納というスキルを持っているのだろうと思ったが実際にはそうではなかった。


 空間魔法の中にはで商人たちが使う「収納」に相当する「亜空間収納魔法」があるらしい。これは知力が上がったワサビの自己分析結果で判明した。


 またこのスキルは成長をしているらしい、ということも分かった。


 以前よりも大きいサイズのものが収納可能となっているのを確認したから間違いない。ということは他のスキルや特技も伸びる可能性がある。


 空間魔法は戦闘に特化したものではないが、ワサビは事前に取り込んでおいたものを超高速で吐き出して攻撃するという独自のアレンジを行っている。


 そして成長するにつれて空間系の魔法をさらに覚える可能性があるという。これでまた魔石集めに精を出す必要が出てきたな。


 続いてショーユの方だが、スキル「闇魔法」が使える。


 スキルレベルが低いのか、直接的なダメージを与える系の魔法はまだ使えないらしい。


 今のところは敵を闇に包んで戦闘を回避したり、相手の攻撃を無効にするような間接的な魔法が主となるとのこと。


 それよりなにより気になったのは特技の「隠密」と「探索」だ。これは何気に非常に効果が高いものだと思う。


 検証の結果、隠密を使うと姿と気配を消すことができる。対象はショーユだけでなく、接触していれば別の個体も同様の効果を得られる。


 つまりショーユを肩に乗せたまま特技を使えば、ショーユだけではなくオレの気配も消してくれる。


 ただし物理的にショーユと離れてしまうと、その瞬間に元に戻ってしまうので注意が必要だ。


 そしてもう一つの特技である探索は、ショーユを中心に半径10kmほどの範囲でマップが表示され魔物の位置を特定することができる。もちろんこの10kmというのもおおよその体感だ。


 魔石によって知力を上げた結果、範囲は同じだが魔物が強さなどにより色分けされるようもなった。


 ワサビの収納や生薬生成も非常に便利でこれまで随分助かったが、ショーユの隠密と探索もこれから有効に使えるはずだ。


 というかどうやって使おうかワクワクが止まらない感じだ。


 ……だがさらに驚いたことがある。


 まだ検証中の域を出ないが、オレとスライムたちはスキルと特技の共有ができることがわかった。


 条件としては、オレとスライムの「魔力回路」を接続すること。構造を完全に理解しているわけではないので暫定で「魔力回路」と表現するが、ただ連れて歩くだけではダメで、意図的に対象のスライムを選択してカチッと接続するイメージ。


 すると、ワサビの亜空間収納やショーユの探索をオレも使うことができてしまう。


 ただし、あくまでもリソースはスライムなので、魔力を消費するのはスライムたちだ。威力もおそらくスライムたちの知力、魔力に依存すると思われる。


 では、オレは全くの消費なしかというとそうではない。スライムたちとの魔力回路の接続状態を維持する部分で魔力を消費するみたいだ。


 なので、無制限に使えるというものではない。スライムたちが自分の意志でスキルや特技を使うのであればこれまで通り魔力回路の接続は必要ない。


 あくまでオレが制御したい場合にのみ接続する。


 これが「魔物使役」の本当の使い方なのだろう。いままでは単純に連れて歩いていただけなのだ。


 ちなみに使役中はスライムたちはスリープモードに入ってしまう。


 最初にこれを発見したとき、スライムたちが動かなくなってしまいパニックした。


 接続を解除したらなにごともなかったかのように元に戻ったが何の説明もないので心臓に悪いと思う。


 だが魔物使いと魔物使役の可能性は計り知れないと思う。

 これまでは特に目的もなく淡々とダンジョンに潜って魔物を狩り、ドロップ品の売却をするだけだったが、湧き上がる興味を抑えきれなくなりつつある。


 正直、船上で暇を持て余してしまっている。

 王都の近くにダンジョンがあれば、すぐに行ってしまいそうだ。今はとりあえずこの無駄に暇な時間を使って、スライムたちの能力の検証を行っていかないとな。


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