初ダンジョン
この小説をご覧いただきありがとうございます。
初めての作品なので、読みづらいところやわかりにくいところなど多々あるかと思いますが、頑張って続けたいです。
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よろしくお願いいたします。WAKYO
翌日、オレ達は朝からダンジョンに潜っている。
今は4階層への階段を降りているところだ。
初ダンジョンにも関わらず、なぜこれほどすんなり来ているのかというと……理由は簡単。3階層までは魔物が一切出なかったからだ。ははは。
ま、厳密には階層主は出たけどね。ワサビが瞬殺してくれたのでどんな魔物だったのかすら知らないだけでさ。
エリーの話では、まだ比較的若いダンジョンでギルドによるランク付けが終わっていないらしい。5,6階層までは比較的攻略が進んでいるが、8階層以降が少しも進んでいないとのことだ。
理由は明確で、まだ知名度が低く高ランクの冒険者が来ていないからだ。ギルドでは冒険者の意見を参考に、場合によっては高ランク冒険者に呼びかけを行う予定だという。
一応デフォードの見立てでは最低Cランクとのことだ。
ということなので一応警戒をしつつ進んではいるのだが……どうもオレを避けるように魔物たちが移動しているような気がする。
ただ、多分それは低ランクの魔物だけだと思う。このあたりはDランク以下の小物しか出ないらしいからな。
ギルドで買ってきた攻略本によると、4階層からCランクの魔物が出るらしいので、そろそろ遭遇する頃かと期待して……いたところに、やっと近づいてくる気配を感じた。
正面からドスンドスンと歩くオークに遭遇した。ノーマルのオークでもCランクらしい。つまり魔石持ちだろう。
あ、ワサビ、とりあえずオレが戦ってみたいからお前は手出さないでくれな。
『はーい!』
ちゃんと魔物と戦うのは初めてだけど……多分なんとかなるだろ。鑑定スキルは持っていないがなんとなく勝てそうな気がする。
オークはイメージ通りの豚面だ。身体は成人男性より一回り大きいくらい、なのでオレより結構大きい。
筋肉というか脂肪がすごいな。でも意外とすばやいらしい。でこぼこした岩の塊みたいなこん棒を軽々と振り回してくる。
当たったら痛いでは済まなそうなやつだ。
「ブォオオオ!」
ようやくオレに気づいたらしいな。大きな声で威嚇しながら向かってくる。
たしかに速い。あっという間に目の前に来ると、こん棒を振り上げる!……が、オレの方が速いな。オレはかわしつつ、姿勢を低くしてオークの足を薙ぎ払う。
「ぶぎゃ!!」
顔からいったか。豚面に鼻血だ。
オレは剣を構えて一気に詰め寄ると、オークが構えたこん棒を振り下ろすより先に、がら空きの胴体を一刀両断した。オークは、あっさりと崩れ落ちる。
うん、やっぱりこの程度なら楽勝だ。
外と異なり、ダンジョンで倒した魔物は死ぬと煙のように消えてしまう。ドロップ品があれば魔石も含めてその場に残るので非常に楽だ。
Cランクだろうか、小ぶりな魔石だがまあよし、次いこう。
少し進むと、またすぐに魔物が現れた。今度はオークが2体か。
ワサビ、じゃあ今度はお前な。
『やったー!ワサビがんばるー!』
ぴょんぴょんと跳ねながらひるむことなく2体のオークに向かっていく。
さあて、2体同時にどう戦うかな。
オークはワサビに気づくとこん棒を構えた。もう1体は槍をもっているな……後衛のつもりか少し後ろに控える。
ワサビがひと際大きく跳ねたかと思うと、天井にぶつかってそのまま手前のオークの脳天にぶつかった。跳弾か。鈍い音と共に、ぐぎゃっという短い叫び声が響き、どうっと崩れ落ちる。
そのままの勢いで今度は壁にあたり、跳ね返って槍を構えるオークの横面を弾き飛ばしていた。2体目のあっさりとその場に倒れる。
やっていることは単純だが、とんでもないスピードなので威力もすさまじい。なんかスマホのゲームでこんなのあったな。
一瞬のことだったが、どっちのオークも首の骨が折れて即死したようだ。煙となって消える。
おお!ワサビやるなあ。
もしかしたらこれも魔石の効果だろうか、攻撃力もスピードも半端ない。単純な肉弾戦闘でも十分戦えるようだ。
オークの他にはゴブリンロードとコボルトキングなどのCランクがぞろぞろ出たが、いずれも1,2体で出没したので楽なものだ。
その後も順調に魔物を狩り続け、少し早いが小腹が空いたところで切り上げた。帰りは帰還の石で入口まで一瞬で戻ることができる。
便利だが、使い捨てなのと、次はまた一階からになってしまうのが少々難点だ。
ギルドにいくと、比較的早めの時間のせいかまだそれほど混み合っていない。買取窓口も今なら空いているようだ。ジョンベルが笑顔で迎えてくれる。
「お、アルゼリオスか、お疲れさん。調子はどうだい?」
ぼちぼちですかねー買取お願いしますよ。
魔石はワサビに与えたいのでそれ以外のドロップ品を買取してもらった。数はそこそこで金貨2枚と少しの銀貨が戻ってきた。
続けてエリーのところへ。
「あら、アルゼリオス君、ダンジョンどうだった?」
「おかげさまで順調です。それよりエリーさんに相談なんですが……」
オレは例の鑑定機のことを聞いてみた。新型に買い替えたということなのでもしかしたら旧型の方を安く売ってくれないかと思ったのだ。
「鑑定機の魔道具を?
うーん、売りものじゃないんだけど……いいわ。ギルマスに聞いてきてあげる!」
エリーは奥へ行くと早速交渉してくれているようだ。うまく話してくれたかな?
「おまたせー。いいって!」
おお!
ダメもとだったけどまさかOKもらえるとは!
「王都まで行けば買えるんだけど、今欲しいってことなら型落ちだし金貨10枚でいいって。
それで大丈夫?」
また船代が遠ざかるがやむを得ないか。随分安くしてくれてるみたいだし。
オレは金貨をエリーに渡して鑑定機を受け取った。
「壊れてはいないけど、もし壊れてもうちでは直せないから気をつけてね」
保証はなしってことね。そりゃそうだよな。
オレは宿に戻るなり鑑定機を取り出した。魔石の魔力はまだ十分だからしばらく使えるとのことだ。よしさっそく。
「えと、手を乗せるだけだったな……」
手を乗せるといつものようにふわりと電流のようなものを感じる。と同時に鑑定機がぽうっと光る。
文字が出てきたな。
【名前】アルゼリオス
【種族】人間
【性別】男
【年齢】15歳
【職業】魔物使い、冒険者、商人、旅人
【称号】なし
【加護】該当無
【体力】150
【魔力】10
【すばやさ】120
【知力】20
【攻撃力】200
【耐久力】100
【スキル】魔物使役
【戦闘力】280
やっぱりあれだけ魔物を倒したのにステータスが変わってないな。もしかしてオレって全然成長しないの?
それはそうと、気になるのはワサビだよ、ワサビ。
「ワサビ、ちょっとこれに乗ってくれ」
オレが言うと、ワサビは鞄から出てきてぴょこんと鑑定機に乗った。手じゃなくてもちゃんと測定できるんだろうか。
ワサビが一瞬ぴくんぴくんと動いた。鑑定機がぽうっと光る。いけるか!?
おー出た出た!よかった、ちゃんと鑑定できるじゃん。
【名前】ワサビ
【種族】スライム
【性別】不明
【年齢】不明
【職業】魔物
【称号】なし
【加護】土
【体力】250
【魔力】130
【すばやさ】220
【知力】10
【攻撃力】300
【耐久力】400
【スキル】空間魔法
【特技】生活魔法、生薬生成
【戦闘力】555
うーん、戦闘力がぞろ目だ。しかもオレの倍くらいある。
まあ、それはどうでもいいか。
えーとスキルは……空間魔法だったのか!収納もそれに関連しているってことかな。
特技ってのもあるな。生活魔法って……あ、温めたり冷やしたりしてたもんな。攻撃魔法とは違うってことだな、多分。
生薬生成って…もしかして薬草とか作れたり?これってすごいんじゃ?
よーし、ではここからが実験だ。魔石を取り込んだらどう変化するか。今日は結構あるぞ。30個くらいあるけど全部いっちゃうか。
オレはワサビに手持ちの魔石を全部取り込ませた。そして再度鑑定!
【名前】ワサビ
【種族】スライム
【性別】不明
【年齢】不明
【職業】魔物
【称号】なし
【加護】土
【体力】450
【魔力】330
【すばやさ】520
【知力】60
【攻撃力】450
【耐久力】600
【スキル】空間魔法
【特技】生活魔法、生薬生成
【戦闘力】778
お、すごい増えた!めっちゃすごい!ぞろ目が崩れたのはちょっと痛いが……いやそれはいいか。
というか知力まで抜かれちゃったよ。オレってばスライムより知力低いのか!
ワサビ、1足す1はなんだ?
『アル様、1足す1は2に決まってるでしょー』
おお!しゃべりが流ちょうになってるうえに計算できてる!
やっぱり魔石がワサビの成長に必要なエネルギーなんだな!これは明日からも頑張って魔石をどんどん集めるぞ!
『アル様、ワサビなにか大切なこと忘れてる気がするんだけど……』
ん?大切なこと?
なんだろうなぁ……あ、魔石をたくさん取り込んで知力があがったら思い出せるかも!
『じゃあ、ワサビもっともっと頑張って魔物倒すー!』
よしよし、明日からも頑張ろうな!
というか、生薬生成ってのがすごく気になる。これを試してみたい。
ワサビ、生薬生成って特技があるみたいだけど、これわかるか?
『えーっとね、薬草とかから、お薬を作れるみたい。
収納してる材料で作れるのはね-、体力回復薬と魔力回復薬と毒消し薬だよー』
そりゃいい!やってみてくれ
『はーい!』
いい返事の後、ぽうっと淡い光を発し始める。
しばらくして光が消えたかと思うと、ワサビは出来上がった薬をポロポロと吐き出した。
3種類、形が少しずつ違うようだ。わかりやすくていいね。
それぞれ20粒程度できたようだ。
鑑定機に乗せると、結果が表示された。こんなものでも鑑定できるんだな。
【名前】命の丸薬(小)
【効果】体力を30%回復する
【備考】苦みが強いが魔力を含んでいてすぐに効果がでる
試しにポーションを乗せてみる。
【名前】ポーション(低質)
【効果】体力を15%回復する
【備考】フルーティで飲みやすいが効きはにぶい
おー。丸薬の方が優れてるな。かさばらないし、ポーションは必要ないな。苦いのはちょっとマイナスだけど、子供でもない限り問題ないだろ。
丸薬(小)ってことは中とか大もあるのかな?
『えっとね、あるけど材料が少し違うみたいでできなかったの。でもこの小の丸薬ならまだまだたくさん作れるよー』
そういうことか。でもまあこれでも充分だし、今度ギルドの買取にでも出してみるかな。明日からもしばらくダンジョンだし、効果も試してみよう。
翌日からオレはワサビとともにダンジョンに潜り続けた。冒険者がいるときは鞄に隠れてもらい、それ以外は自由にさせる。
ワサビも慣れたものなので見つかることもない。
魔石は優先的にワサビに渡して、それ以外のドロップ品は収納しておく。
そんなこんなで、ここ一週間ほどひたすらダンジョンに潜っているのだが、オレはその後も全く成長しないようだった。
ただ、戦いに慣れてきたので短時間で戦闘を終わらせられるようにはなっている。相手の動きをある程度予測できるようにもなってきた気がする。
4,5階層でCランクの敵をメインに戦っているが、苦戦することもないのでもうそろそろ下の階に進んでもいいかもしれないな。
オレとは違ってワサビは魔石を取り込んでどんどん強化している。とはいえ、ここで手に入るCランクの低い魔石では上がりにくくなってきているようだ。
もう少し強い魔物の魔石を与えたいところだ。
またそろそろドロップ品が貯まってきたので、一旦ギルドの買取に行くことにした。
「お、一週間ぶりくらいか?てか、ずっとダンジョンか?ハマってるなあ」
ジョンベルさんがニヤリと笑う。が、次の瞬間にはオレが麻袋から出したドロップ品の山に目を丸くしていた。
「……おいおい、こんなにか?」
ダンジョンの魔物は基本、何かをドロップする。一つの時もあれば複数落とすこともある。
多くの場合は武器、防具、装飾品の素材になる爪や牙や毛皮など。階層主の場合は武器や防具そのものを出すことも珍しくないらしい。
そのほか魔物の種類によっては食料になる肉を落とすこともあり、結構旨いんだと。やっぱり魔石はそれらドロップ品に加えてCランク以上で必ず落とすようだ。
あれから散々試したところ、ワサビの収納には限界がないらしい。どれだけでも入るので、かなりため込んでから持ち込んでいる。
ちなみに肉と魔石は売らずにとっておくことにしている。
「ええ、お願いします。あと3袋ほどあります」
オレの言葉にジョンベルさんがため息をつく。
「えーとな、じゃあ、一旦袋に戻して……奥の倉庫に頼む。
ここで店広げられたんじゃ、他のやつらの邪魔になっちまうからな」
ジョンベルは買取窓口を若い職員につかせて、ギルド裏手にある倉庫に案内してくれた。
魔物も捌いたりするらしく、かなり巨大な台や解体用の刃物などがいたるところに置いてある。見たことのない大型の魔道具もいくつかおいてあるな。
「んじゃ、この台に出してくれ。
あと、量が多い時は直接こっちでいいからな」
ジョンベルさんが指さしたのはキングサイズのベッドみたいに大きな作業台だ。
ワサビに麻袋を全部出してもらう。
「おいおいどっから出したんだ今?」
え?ああ、ワサビの収納の話聞いてないのか。
「このスライム、空間魔法のスキル持ちなんで収納スキルと同じようなものが使えるんですよ」
「まじか……。商人だったらそれだけで一生食っていけるぞ」
確かにそうだろうな。時間経過もないし、移動手段さえ整えば一人で物流の常識を変えられるスキルだ。
オレは麻袋の中身をテーブルの上にどんどん出していく。余裕かと思ったが、結構ぎりだった。
量はあるが、高価なものはないと思う。
「分かった、ちょっと時間くれ。明日までには金額出しとくから」
「ありがとうございます。あと、こんなものは買取できますか?」
オレは例の丸薬を見せる。
「お、これは丸薬か!もちろん買取は可能だぜ。
というか大歓迎だ。ポーションと違ってかさばらないし、魔力を込めて作ってあるから即効性なんだよ。
冒険者にも人気だし、あるだけ買うから全部おいてってくれ」
人気商品とはいいことを聞いた。これだけでも結構な利益が期待できるな。
「それじゃ、明日また来ますから」
「おう、任しておけ。
よしお前ら、仕事だ!」
ジョンベルの声に若い職員がぞろぞろと集まってくる。これから仕分けやら鑑定やらの作業に入るんだろう。お世話になります。
さてと、この後はどうするかな。
どうするワサビ?まだ時間も早いし、もう少しダンジョンに潜るか?
『うん、いこー!』
ワサビも乗り気だ。オレよりダンジョンを楽しみしているかもしれない。
鑑定機で確認した感じだとワサビの能力は攻撃に特化したものではないが、自分なりに色々試行錯誤しているのが見て取れる。
さっきなど、収納で大量に取り込んだ石などを散弾のように吐き出す攻撃もかなりの威力だった。それに魔石による強化で肉弾戦でもかなりいけるようになった。
オレの成長はずっと足踏み状態だが、ワサビの成長が著しいのでもう少し深い階層に潜ってみようと思う。
あと、ワサビの空間属性による特技の収納はとてつもなく便利だ。
少し前に知ったのだが、草原を歩きながらも素材になるものをどんどん拾い集めてストックしているらしい。
最初は丸薬(小)だけだったが、あちこちで拾い集めたおかげで材料がそろったらしく丸薬(中)もできるようになった。
さっきの買取に混ぜておいたので見積結果が楽しみだ。
そんなこんなでダンジョン6階層。ここは毒持ちがいるらしいので敬遠していたが、毒消しの丸薬もあるし、ワサビも戦闘力もかなり上がってきたのでいけるかなと思う。
しばらく散策してみるが、ゴブリンやオークなどは出ずに、ヘビ系とか蟲系が多いみたいだ。ワサビの石つぶて攻撃がかなり有効でオレが手を出すまでもない感じだ。
ドロップ品はヘビ皮とかクモの糸みたいなものが多い。何に使うんだか分からないが一応何でも拾っておく。
このフロアもCランクが多いみたいだ。魔石が変わり映えしない。B以上になるときれいな色だったり大きかったりするからすぐわかるらしい。
このダンジョンは各フロアの大きさは同じで正方形に近い形をしており、どこかに階層主がいる。階層主を倒すと下の階への階段が現れる仕組みだ。
半分ほどのエリアの探索が終わった頃だろうか、少し休憩しようかと近くの壁に手をついた瞬間、壁がぐるりと回転して別の部屋に倒れ込んでしまった。
しかも、その拍子に転んで足首をひねってしまった。手も擦り剥いて血が出ている。何かの罠だったのか?災難だなこりゃ。
『アル様、大丈夫ー?』
ワサビが慌ててぴょんぴょんと飛びついてくる。
あ、ああ……なんとか。でも足ひねっちゃったな……。
言いかけて、丸薬の存在を思い出して、さっそく口に放り込んでみる。
に……苦い!備考に書いてある通り確かに苦い。が、まあなんとか飲み込んでみる。
身体中にぴりりと弱い電流が流れるような感覚……と同時に、足の痛みが完全に引いている。手の傷も綺麗になくなっていた。
おお!ワサビの薬、めっちゃ効くぞ!
『やったー。わーい!』
ワサビはぴょんぴょんと跳ねまわる。
と、ふと異様な雰囲気にオレ達は一瞬固まる。周りに無数の数えきれないほどの魔物の気配を感じた。
これまでの部屋に比べて薄暗くて気づかなかったんだな。ついつい、眼に頼りすぎていたようだ。
……まさか、モンスターハウスか!
オレは慌てて立ち上がり、壁を背にする。
ワサビはとっさに俺たちの周りにぐるりと火をつける。どうやら手持ちの素材で可燃性のものを撒いて火魔法で防御壁にしたのだ。
フレイムウォール的なあれだ。さすがワサビ。
魔物たちが一瞬ひるむのがわかった。
ワサビ、石つぶてだ!
『はーい!』
ワサビはぴょんぴょんと跳ねながら大量の石つぶてで敵を蹴散らしていく。
オレもようやく目が慣れてきたようだ。敵はデススネークやデススコーピオンも群れだな。的が小さいから散弾のようなワサビの攻撃はかなり有効だ。
石つぶてをかいくぐって近づく魔物をオレが剣で切りつけていく。
数は多いがそれほど強い敵ではない。ワサビのとっさの判断で火の壁を作ってくれたので先手を取ることができた。
時間はかかったが、100体以上の魔物を完全に殲滅することに成功。生き残りがいないのを確認すると、ワサビはぴょんぴょんと跳ねながらドロップ品をどんどん回収する。
よし片付いたな……と言いかけて、オレは誰かの視線を感じて立ち止まる。
まだ部屋には何者かの気配が残っていた。魔物ではないなにかだ。
「誰かいるのか!」
オレの声に、ふっと、目の前に4人の冒険者が姿を見せた。なにもないところから現れたのでびっくりした。ワサビは慌てて鞄にもぐりこむ。
「認識阻害の魔法をかけてたのに……よくわかったな。
はぁ……はぁ」
パーティのリーダーらしき男が言った。口調からかなりの疲労感が伝わる。
そういえばじいちゃんに聞いたな。斥候のスキルで認識阻害という魔法があるという話を。それで今まで気づかなかったんだな。
「オレ達も同じようにモンスターハウスの罠にかかってな。
メンバーが毒を食らっちまって、慌てて身を隠したんだ。
すきを見てなんとか逃げようと出口を探していたら、今度はお前たちが入ってきて……というわけさ」
先客がいたのか。空間を捻じ曲げて作られるモンスターハウスは色々な部屋からつながっているらしいからな。6階からは罠が増えるとあったのをすっかり忘れていた。
冒険者たちをみると、4人ともかなり怪我をしているようだ。無理がたたったな。
「オレはパーティのリーダーをしているゲイルだ。欲をかいて奥まで来すぎてしまったようだ。すまないがポーションと毒消しがあれば譲ってほしい。もちろん金は払う」
ゲイルが頭を下げる。まあこうなるとリーダーの責任だもんな。
ポーションはないが、丸薬ならたくさんある。オレは麻袋から丸薬を取り出してゲイルに渡してやった。
「丸薬か!こいつは助かる。安いポーションよりよほど効果があるからな」
4人は丸薬を飲むとすっかり元気になったようで笑顔が戻っている。毒消しもしっかり効いたようでなによりだ。
リーダーのゲイルが戦士であとは斥候のリュウ、魔法使いのメル、神官のジェイドの4人パーティらしい。Cランクにあがったばかりで少し油断があったという。
たしかに6階層から急に難易度があがってくる感じだし、初めてなら仕方ない。
買ったものではないし、丸薬のお礼は不要と伝えたらやたら恐縮していた。みんな20代でオレよりずっと年上なんだから遠慮しなくてもいいんだけど。
「にしても…さっきのスライムだよな?すごい動きしてたの。
というかスライムと一緒に戦っていたよな?どういうことなんだ?」
あ、やっぱり見られてたのね。
「ええ、まあ。ワサビ、出てきていいよ」
オレが言うとワサビは鞄から出てぴょこんと肩に乗った。
「可愛い!!」
メルが目をキラキラさせる。
オレは当たりさわりのないところだけかいつまんで説明した。まあギルドにも言ってあるし、さして問題ないだろう。
「なるほどなぁ。俺らもまあそれなりに冒険しているがまったくもって初めてだな。
こんな不思議なスライム……なのか?」
「まだまだ知らないことは多いんだなぁ」
「ほんとよねぇ」
などと口々に感想を漏らす。
「にしても、まだ15歳ってことはつい最近冒険者になったばっかりだろ?
なのにあの動きはすごいな!」
今度はオレの話みたいだ。
ワサビが強いからなんとかなってるだけなんだけどね。
「スライムがすごいのはもちろんだが、お前さんもすごかったって!
オレにはわかるんだよ、絶対もっと上にいくやつだって!」
ゲイルが力説すると他の3人もうんうんと頷く。
いやだって全然成長していないんだけどなぁ。まあこれ以上の反論は不要かな。
「じゃあそろそろオレ達はもう少し探索しますので」
もう大丈夫かなと、オレは話を切り上げる。
4人は今日のところは町に戻って装備や所持品を整え直すようだ。その方がいいな。
「おう、本当にありがとうな!応援してるからがんばるんだぞ!」
「ダンジョン踏破、期待してるぞ!」
なんだかめっちゃ期待されてるし。小銭稼ぐだけで別にいいんだけどなぁ。
頑張りますね、と苦笑いして部屋を後にする。
さてと、この階層もあと少しだし、先に行くか!
『うん、いこいこー』
ワサビもノリノリだ。たしか階層主はジャイアントデススネーク3体だったかな。
まあ段々オレもダンジョン潜るのが楽しくなってきているのは確かなんだけどね。じいちゃんもこうやってどっぷりとハマっていったのかもしれないな……。
ちょっとしたハプニングと出会いを経て、オレ達は6階層クリアを目指してさらに進む。
5階層までは単体で出現していた階層主も、6階層となると複数個体で登場するようだ。オレ達は6階層の主のいる部屋の扉を開けた。
とぐろを巻いたジャイアントデススネーク3体がオレ達を補足すると、巨大な鎌首をもたげる。
こいつは想像以上にでかい。デススネークはせいぜい太さ30センチ、長さが3メートルほどだったが、こいつは太さも長さもその3倍はありそうだ。
そいつが3体か。
これはなかなか厄介な相手だな。ちなみに階層主の部屋は入ると自動的に扉が消えてしまい出られなくなる。階層主を倒す以外にこの部屋を出るすべはないのだ。
オレは戦っても成長しないし、手持ちの魔石ではワサビはもう強化ができないところまできている。つまり完全に戦力としては頭打ちだ。
少し前に貯めた金で町で手に入る一番強い装備に変えている。つまり、この階層主に勝てないようならある意味これ以上の探索は無意味だ。
ジャイアントデススネークは長い舌をチロチロとしながらこちらの様子をうかがっている。こちらのターンということで良さそうだな。
オレは剣を構えたまま、ワサビに声をかける。
ワサビ、目を狙え。
『はーい!』
ジャイアントデススネークは口を開くと大きな牙で威嚇してくる。だが、ワサビはひるむことなく素早い動きで左右に飛び跳ねながら距離を詰めていく。
ひと際大きくジャンプすると同時に、緑色の液体をジャイアントデススネークの目に向かって吐き出した。
「シャアアアアア!!」
一体の目に見事に命中、ジャイアントデススネークはのたうち回っている。なんの液体なんだろうか?
『やったー。ワサビ特性の猛毒だよー。イヒヒ』
生薬生成って毒も作れるんだね。そいつを液体化させてぶっかけたと。なるほど。
毒を食らった1体がもがいて暴れまわるので他の2体が動きづらそうだ。オレはすきを見て回り込んで胴体を両断する。
ぐちゃぐちゃに絡まっているのでどれがどれなのかさっぱり分からないので、手当たり次第に切りつけていく。
溢れだす体液を全身に浴びてしまうが構いはしない。たしか毒はなかったはずだし、万一に備えて毒消しと命の丸薬を一つずつ口に含んでいる。
ジャイアントデススネークがのたうち回り、振り回されたしっぽをモロにくらって吹き飛ばされる。壁に強打するが、予め口に含めていた丸薬ですぐに回復する。
1体が力尽きて崩れ落ち、煙となって消え失せる。すきをみてワサビは2体目にも毒を食らわせる。と、同時に3体目に拳大の石を勢いよく飛ばす。開いていた大きな口から後頭部まで貫通して即死したようだ。
2体目が消え去り、ようやく部屋がすっきりしてきた。
オレはとにかく一所に留まらないように動き続け、胴体を切りつける。ワサビも同じように石つぶてを容赦なく連射して、終了。3体目も煙となってきれいに消え去った。
振り返ればものの数分で制圧完了だった。腕や足を見る限り大きな傷も出血もない。一応念のため口に含んでいた毒消しの丸薬も飲んでおいた。うん、やっぱり苦い。
あたりに散らばったドロップ品をワサビがぴょんぴょんと回収して回る。魔石と皮と牙、それに血の入った壺などだった。
魔石はこれまでのものより一回り大きく鮮やかな模様がついている。
「おーー!Bランクの魔石か!」
さっそくワサビに食べさせてみる。
『美味し―!』
ワサビがひと際強く光を放つ。よしよし、さすがBランクだな。
さて、鑑定結果はどんなものかな。
鑑定結果
【名前】ワサビ
【種族】スライム
【性別】不明
【年齢】不明
【職業】魔物
【称号】なし
【加護】土
【体力】850
【魔力】530
【すばやさ】720
【知力】100
【攻撃力】850
【耐久力】700
【スキル】空間魔法
【特技】生活魔法、生薬生成
【戦闘力】987
おーかなり伸びたな。こりゃ明日も頭打ちになるまで周回するか。階層主は時間経過で復活するからね。
にしてもオレも結構頑張ったな。なんかすごい身体が軽いというか、力がみなぎるというか調子がよかったな。
もしかして成長してたりして。
念のためやっとくか。
【名前】アルゼリオス
【種族】人間
【性別】男
【年齢】15
【職業】魔物使い、冒険者、商人、旅人
【称号】なし
【加護】該当無
【体力】150
【魔力】10
【すばやさ】120
【知力】20
【攻撃力】200
【耐久力】100
【スキル】魔物使役
【戦闘力】280
「か、変わってない……」
この手ごたえは何だったんだ?
おっかしいなぁ……絶対変化会ったと思ったんだけど。まあいいかあ。
調子もいいしもう少し探索したいところだけど、多分もう夕方くらいだろうなぁ。ギルドにも今日行くって言ってあるし一旦戻るか。
オレは帰還の石を使ってダンジョン入口に戻った。