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クエスト

この小説をご覧いただきありがとうございます。


初めての作品なので、読みづらいところやわかりにくいところなど多々あるかと思いますが、頑張って続けたいです。


ブックマーク登録や評価をいただけますと励みになります。


よろしくお願いいたします。WAKYO

 王都に行くために船に乗ろうとしたオレ達だが、予想外に高い船代に出鼻をくじかれることになった。 


 やむを得ず金策に走ることになったが、手っ取り早いのはギルドのクエストらしい。

 別に冒険者を生業にするつもりはないんだけど……他にこれと言うアイデアもないし、やってみるか。


 ということで初クエストに選んだのはギルドの受付嬢、エリーのすすめで薬草採取。初心者の誰もが通る道らしい。


 北門を出て東に少し進むと例の森へと続く平原が広がっている。平原はかなりの広さになるが、森に入る少し手前あたりで目的の薬草がよく見つかるらしい。


 行き過ぎると森に入ってしまうのでくれぐれも気を付けて、と念押しされた。いや今まで何度も入ったことがあるんだけどな。


 ギルドでもソロで森に入ることは推奨していないみたいだし、黙っておこっと。


 さて……目の前に広がる平原の広さに早くも少し心が折れかける。ここでポツリポツリ生えているであろう薬草を探すのはなかなかの苦行だ。


 歩きまわるだけでは全然見つけられないので、少し進んではしゃがんで確認。また少し歩いてはしゃがんで確認、を繰り返す。


 夕方近くになってやっと1本見つけることができた。だがその周りをいくら探してみても同じ薬草は生えていない。どうやら先客が取り残しただけのようだ。


 しばらく粘ってみるが結局初日はこの1本で時間切れ。買取は1本からできるようだが、クエストとしては薬草10本が達成条件となる。


 手の中の薬草を眺める。さすがにこれだけで持っていくのもちょっと恥ずかしいので明日も引き続き探すことにするか。


 だが……摘んだはいいがこのままじゃしなびてしまうだろう。傷めずに保管できればいいのだがどうしたものか……。


 と考えていると、肩にいたワサビがぴょんと手のひらの薬草に飛び移る。すると薬草がつるりとワサビの中に吸い込まれていく。


 あ、ちょっと!何で食べちゃうんだよ!


 慌ててワサビを持ち上げるが、もうそこには薬草は残っていない。


 しかし次の瞬間、ワサビはぴょんと地面に飛び降りると、ぷっと吐き出した。さっきの薬草だ。食べたわけじゃなかったのか……。


 ん……もしかして収納してくれてたのか?


 ワサビはぴょんぴょんと跳ねる。そうだと言っているみたいだ。


 食べるだけじゃなくて、アイテムを収納しておけるのか?もう一度やってみて。


 オレが言うと、ワサビは薬草を取り込んだり吐き出したり繰り返して見せる。薬草は少しも傷んだ様子はない。


 しばらくしまっておくことはできるか?


 ワサビはぴょんぴょんと跳ねる。なんかよくわからないができるみたいだ。便利魔法的なものを使えるようになったのは知っていたが、こんなこともできるようになっていたんだな。


 じゃ、頼むよ。

 明日はたくさんこれを見つけたいんだ。協力してくれ。


 ワサビはぴょんぴょんと嬉しそうに2度跳ねるとオレの肩に戻った。


--


 次の日は日の出とともに起床。早々に朝食を済ませるとオレ達はさっそく採取に向かう。


 昨日見つけたあたりはさんざん探したからな。また別のところをと考えていると、ワサビが肩から飛び降りて、勝手にぴょんぴょんと跳ねていってしまう。


 あれ?ちょっと、どこいくんだ?オレは慌ててワサビの後を追いかけていく。


 平原を抜けて森に入ってしまう。おいおい、オレが怒られるじゃねーか。


 そんなことはお構いなしにワサビはさらに奥へ奥へとすすんでいく。道なき道をしばらく進んでいくと、少し開けたところでワサビが立ち止まった。ぴょんぴょん跳ねる。


 これは……すごい。


 見渡す限り一面に、探していた薬草が生い茂っている。逆に雑草の方が少ないくらいかもしれない。


 ここまであると取り切れないくらいだな。

 ……というか取りきる必要はないか。今後のために、少しは残しておかないとな。


 それにしても良く見つけたな。匂いでもわかるんだろうか。


 じゃあさっそくとるか。貴重な薬草を踏みつけないように、気を付けてないとな。


 どこから採ろうかと見回していると、ワサビが薬草の上をいつにないスピードでぴょんぴょんと跳ねていく。ワサビが通った後をみてオレはギョッとする。


 まるで掃除機のCMのように、きれいに薬草が刈り取られている。


 ……収穫してくれてるのか?


 オレは茫然とワサビがぴょんぴょんと弾んでいるのを眺めている。


 ひとしきり取り終えたのか、オレの前まで戻ってきて、一気に薬草を吐き出した。あっという間に抱えきれないほど大量の薬草の山が目の前に積みあがる。


 こ、こんなにあったのか……?


 どうやらオレに見せるために出してくれたらしい。ワサビは全ての薬草を取り込んで、何事もなかったかのように涼しい顔で……顔はないが、オレの肩にぴょんと飛び移る。


 ホントにすごいな。もうオレがやることなくなっちゃったよ。


 オレがつぶやくと、嬉しそうに肩の上でぴょんぴょんと跳ねて見せる。


 とりあえず戻ってギルドに報告だな。


--

 

 町に戻ると、まず先に道具屋で麻袋を買った。大中小とあるがよくわからないのでとりあえず中にしたが、広げてみると案外でかいな……まあいいか。


 さすがに全部出したら怪しまれるかな?

 最初だし、この麻袋に入るだけにしておこう。


 ワサビはぴょんぴょんと跳ねると、麻袋にサラサラと薬草を吐き出していく。ほんとに器用なやつだな。


 オレは麻袋の口を縛ると、わきに抱えてギルドに向かった。


 クエストの場合は直接買取窓口ではなくまずは達成報告が先らしい。

 ということでエリーのところに並ぶ。空いているのですぐに順番が回ってきた。


「アル君、お疲れ様!

 どうだった?たくさん取れたかな?

 最初は難しかったかなーー?」


 最初だし無理だったろうなと思ったのか、うふふっとからかい気味に言う。


 オレが麻袋を開けて見せると、エリーは中を見て目を丸くする。

 

「こ、こんなに?

 すごい量じゃない!」


 やっぱり多かったか。多分まだこの10倍くらいワサビが持ってると思うけど。


「なんかたまたま……。クエストは完了でいいですか?」


「あ……あ、ええ、もちろん!

 買取の方はジョンベルさんに出してね」


 麻袋の中身にジョンベルもエリーと同じ反応を見せる。あまりたくさん一度にもっていくと怪しまれるかもな。次から気をつけよっと。


 10本1束で銅貨20枚の報酬だが数えてもらったら500束ほどあったようだ。これだけで金貨1枚になるとは想像以上だ。


 採取系クエスト1回の報酬で金貨が出ることはまずないらしい。


 ものの1時間で金貨1枚ならかなりお得だ。というかあと10枚分くらいあるけどさすがに目立つから今度にしておくか。


 とりあえず3ヶ月分の借家代がたった1日で稼げてしまったな。


 そしてさらに採取系クエスト50回クリアに相当するのでFランクに上がるらしい。若干だがクエストの選択の幅も広がるみたいだ。


 それにしても魔法も使えるし薬草も探せる。

 あとなんだかよくわからないが身体の中にアイテムをため込むことができるみたいだし、ワサビの能力はいまだに未知数で非常に興味深い。


 鑑定をしてみたいけど使ったらワサビのことがバレてしまうしなぁ。


 エリーの話では鑑定機自体は珍しいものではないらしく、王都に行けば魔道具店に売っているという話だ。


 図書館でスライムについて調べるのと、できれば鑑定機も買いたいな。のんびりするつもりで村を出たのにやりたいことばかり増えていく。


 鑑定機、高いんだろうなぁ……。


「普通に買ったら多分金貨100枚はくだらないと思うわよ」


 ……遠い。頑張って稼ぐしかないな。


 効率よく稼ぐにはなにがいいんだろうか……。


「Dランクまであがると割のいい討伐系のクエストが多いから、まずはこのままランクアップを目指してみたら?」


 うーーん。オレの目的は世界を旅することなのだが、旅するのにもお金がかかるし、お金を稼ぐにはクエストが手っ取り早く、そのクエストを達成するにはオレ自身のランクを上げる必要があるということになって……これでいいんだろうか?


 近道のつもりが随分遠回りをしている気分になってくる。だが他に手がない以上やるしかないかぁ……。


 翌日からエリーのすすめでいくつか見繕ってもらった採取系クエストを始めた。


 やはりワサビはひとつ渡すだけで同じものを探すのが得意なようだ。最初の1個を見つけるのにはやっぱりそれなりに時間がかかるが、そのあとはワサビに任せておけば楽勝だ。


 オレ達は順調にクエストをこなしながら、怪しまれない程度の量を提出して報酬をもらうというルーチンを繰り返していく。


 ……と、何日かして疑問がわく。


 ワサビって……どれだけため込めるんだ?


 まさか無限にということはないだろうけど……でもあきらかに身体の体積よりも多く収納しているし……もしかして亜空間につながってるとか?


 となるともしかして時間の経過もなかったりして……。よし、実験してみるか。


 ワサビの前に、熱々のお湯の入った桶を置いてみる。


 よし、これは収納できるかな?


 お湯は問題なく収納。


 次は川でつかまえた魚。当然もう死んでいる。


 これもあっさり収納。


 では、ついさっき捕まえて水を張った桶に入れてある生きている魚。


 ……無理か。


 とりあえず生きているものはダメ、死んでいれば取り込めるみたいだな。

 あとは大きさは…テーブルは入る。ベッドは…無理。うーん、違いがわからん。


 小一時間あれこれ試してみて、最後にお湯の入った桶を取り出してみる。


 おお、熱い!


 1時間は経っているはずなのに入れたときと同じくらい熱いということは、やはり収納している間は時間経過していないようだ。


 つまり、品質の劣化がないということになる。


 ……なんだこれ、めちゃくちゃすごい便利スキルじゃないか。


 これってエリーに借りた本にある「収納」というスキルのようだな。全く同じかどうかはわからないが、大体このスキルを持つものは商人になるようだ。


 そりゃどう考えても商人向きのスキルだよな。いつでも新鮮な魚が食べられるし、キンキンに冷えたエールとか熱々の料理がいつでも取り出せるなんて最高じゃないか!


 これはまだまだ検証の余地がありそうだな……。魔物に詳しい人、いないかなぁ。色々聞いてみたいんだけど。


--


 あれからオレ達は順調に採取系クエストをこなして20日が経過し、Eランクを経てようやくDランクに昇格した。


 Dランクになると討伐系に行けるようになる。といってもゴブリン一体とかそんなレベル。初めてだけど多分大丈夫だろう。


 というか、いまだに魔物に遭遇していないんだけどなんでだろうか。採取系クエストで幾度となく森にも入っている。ソロでの立ち入りは止められているのであくまでこっそりとだが。


 エリーの話では草原も林もそれなりに魔物がいるということだ。未だに魔物と遭遇していないことを伝えたらかなりびっくりされたから本当みたいだ。


 ということでDランクにあがって初めてのクエスト。


 西のはずれの岩山でゴブリンの確認情報が寄せられた。住み着いているのであれば集落になる前に殲滅する、というのが今回のクエスト。


 ゴブリンはスライムに次ぐ最弱モンスターのイメージだが数が多くなると、とても危険らしい。


 なので、Dランクとしてはゴブリンが単体ならば討伐、2体以上の集団ならギルドに報告してクエストランクをアップしてもらうことになる。


 オレは装備を整えて、といってもいつもの短剣に革の胸当てくらいだが……ゴブリンが見つかったという岩山へと向かった。


 目的の岩山は町を出て西に30分ほど歩いたところだ。町からも近いので確かに集落になってしまっては住人に危害が及ぶ可能性がある。


 ゴブリンと聞くと初心者向けの脆弱な魔物と思われがちだが、集団になると武器や防具が装備したり、場合によっては罠や魔法などを使うようになるらしい。


 村の近くに巣を作ると、ひそかに女を攫って繁殖し数を増やす。勢力を十分整えると村に夜襲をかけるらしい。小さな村ではひとたまりもなく、なすすべもなく滅びてしまうという。


 そんなじいちゃんの言葉を思い出していた。


 目撃情報の上がっている岩山にはそれらしい岩穴が2,3あった。広さによるが、どれかに住み着いているかもしれない。


 どれから調べようかと中の様子を伺っていると、突然ワサビが肩から飛び降りてぴょんぴょんと跳ねて裂け目のひとつに入っていってしまった。


 ……おいおい、またか。


 オレが小声で止めるのもきかずにどんどん行ってしまうので、慌てて後を追いかける。


 分かれ道もなく奥へ行ったところで、少し広いところに出た。そこにワサビの姿と、ワサビに向き合う形で一体のモンスターが対峙しているのが見えた。


 お、これがゴブリンなのか?


 オレよりも頭一つ分小さいが、筋肉はかなりついていて強そうに見える。


 手には鉄製のこん棒を握りしめ、2本角の兜に鉄の胸当てまでしている。兜の下にはみるからに醜悪な顔が下卑た薄笑いを浮かべている。


 濃い緑色の体色を見る限りゴブリンで間違いなさそうだが、スライムに次ぐ最弱モンスターにはとても見えないが……。


 ワサビとゴブリンは少しの間にらみ合ったままだったが、その均衡を崩したのはゴブリンだった。


 意外なほど素早い動きでワサビとの距離を詰めたかと思うと、振り上げたこん棒を勢いよく振り下ろした。


 だが、ワサビはそれ以上に素早い動きでこん棒を避ける。空振りしたこん棒は勢いよく地面を強打し、ゴブリンは思わず顔をしかめる。


 次の瞬間、ワサビはゴブリンの顔に飛びつき、張り付いた。顔いっぱいに薄く広がって、鼻と口を覆っている。


「!……!!」


 口も塞がれているので声は出ない。なんとか引きはがそうとするが、いくら引っ張ってもワサビははがれそうもない。手をじたばたさせるゴブリン。


 やがて膝をがっくりと付いて地面にどさっと倒れた。


 窒息させたようだ。絶対にこんな死に方だけは嫌だな……と思う。


 動かなくなったのを確認するとワサビはゴブリンから離れてオレの肩に戻ってきた。


 ワサビを守らないとと思ったのだが、動きも早かったし、もしかしたらオレより強いかも知れない。……というか間違いなくそうだ。


 辺りを見渡すが他に魔物の気配はないようだ。


 まだ奥に行けるようなので、一応警戒しつつ進んでいくと、かすかに奥の方に光が見える。さらに進むと、外に出た。


 突き当たるのかと思ったがそうではなかった。もしかしたらさっきのゴブリン以外はこっちから逃げたのかも知れない。


 まあとりあえずクエストは達成ということでいいよな?


 ゴブリンの死骸から証拠になるもの、身体の一部分を持ち帰る必要がある。


 手や足は骨もあるので面倒だな……となると耳だろうか。


 正直抵抗はあるが、短剣を取り出して耳をジョリジョリっと切り取っていく。


 あとは、心臓のあたりに魔石があるとかいう話だからそれも取り出しておく。


 ……結構血だらけになってしまった。


「気持ち悪い……」


 とつぶやくと、ワサビが魔法で水をぴゅーっと出してくれた。ジャブジャブっと…これはいいな、すっかりきれいになった。


 魔石はきれいな飴玉……いやビー玉みたいな感じかな。


 そういえばワサビが前に食べてたのも魔石だったな。


 こんな石が食べたいのかな……とワサビを見ると、目をキラキラさせているような感じでぴょんぴょんと跳ねている。


「いいよ、ほら」


 手の平に乗せて近づけると、ワサビが嬉しそうにぴょん、と乗った。


 音もなく取り込まれて、少しずつ小さくなっていくのが見える。ものの数秒できれいに見えなくなった。


 ワサビがぽうっと淡い光を放つ。


『オ…オ…』


 そのとき不意に頭に声が響いた。


 まさか…ワサビか?


 手の中のワサビをまじまじと眺める。


 今……しゃべったのか?


『オイ……シ……』


 おい…し?おいしい?今、美味しいっていったのか?魔石を取り込んだワサビが明らかに今までと違う。魔石で身体に変化が起きているのだろうか。


 だがその後、何度話しかけてもそれ以上は聞こえなかった。


 もっと魔石があればもしかして話せるようになったりするんだろうか……。


 しばらく様子を見ていたが、いつものワサビと変わりはないようなのでオレは一旦クエストの報告を兼ねてギルドに向かうことにした。


 早速エリーに聞いてみる。


「……魔石がほしいって?」


 エリーが理解できないという顔で首をひねる。そんなにおかしなことなのか?


「魔石を売りたいならわかるけど、欲しいっていうのが分からないわね。

 あれは武器や防具に組み込んだり魔道具の動力源にはなるけどそれ以上の効果はないんだけど……」


 なるほどそういうことか。オレは魔道具作るようなスキルもってないから。


「まあ欲しいなら多少は融通できるけど、結構高価なのよね。

 あとはCランク以上、例えばゴブリンキングくらいの魔物なら持ってるはずよ」


 え?ゴブリン……キング?


「ええ。普通のゴブリンじゃだめよ。

 全く魔力の蓄積がされてないから魔石も生成されないみたい」


 おかしいな。さっきのはちゃんと魔石があったが……。

 もしかしてあれはゴブリンじゃなかったのか?


 オレは切り取ってきたゴブリンの耳をエリーに見せた。


「ああ、例のクエストね。うまくいった……え?ちょっとみせて!」

 

 オレの手からひったくるようにゴブリンの耳を取り上げた。長い溜息をついて、エリーが言った。


「この大きさと形は間違いなくゴブリンキングね。

 もしかしたらゴブリンが2,3匹いるかも……という話だったけど、キングがいたってことはもう集落になってたはず。ということは2,30匹はいたでしょ?」


 いやキング1匹だったけど。どういうことだろう?


「キングだけ……?そんなことあるのかしら?

 だとしても、ゴブリンとゴブリンキングは全く別物の強さよ。良く倒せたわね……」


 どうりで強そうだったわけだ……。


 エリーの話だとゴブリンはゴブリンキングより二回りほど小さく筋肉もほとんどついていない。武器も棒切れくらいしかもっていないらしいので、やはり別物のようだ。


 でもなんでキングが一体だけあそこにいたのだろうか。


 ……というかワサビって、Cランクモンスターより強かったのか。


 その後色々と話を聞いた後で討伐報酬の支払いとなった。


 キングが単独でいたのはエリーも引っかかったようだが、状況的には集落の殲滅ということでクエスト達成に加えてゴブリンキングの討伐報酬ということになった。


 2つ合わせて金貨5枚。手持ちと合わせれば船代に届くが、せっかくなので魔石を買えるだけ買ってみることにした。


 借家も借りたばかりだし、もう少しいるつもりだからな。


 オレ達は宿屋に戻ると、さっそく買ってきた魔石を出してみる。


 ゴブリンキングの魔石と似たようなものを全部で10個買うことができた。これ以上のサイズだと一つで金貨10枚以上になるということだったので今回は手が出せなかった。


 実験というわけではないが、1つずつワサビに食べさせてみることにした。


 1つ目…ぽわっと光るが見た感じ、変化なし。2つ目も同じ。


 今度は一度に3つ同時に渡してみる。


 ……おお、ちょっと光が強い気がするが……どうだ?


 ワサビはぴょんぴょんと跳ねている。


『アル……サ……マ』


 頭の中にさっきのような声が響く。今度はもっとはっきりしている。


 おお……聞こえる。

 もしかして、アルさまって言ってるのか?


 当たったみたいで、ワサビはよほど嬉しいのか部屋中をぴょんぴょんと跳ねまわる。


「ワサビ、残り全部いいぞ!」


 そういうと、ベッドに戻ってきて残りの魔石を一気に取り込んだ。


 一瞬だが、さっきより強い光を放つ。


『アルさま、これ、おいし…い』


 おおお……すごい!ワサビ、しゃべれてるぞ!


 発声器官がないからか音声にはならないで頭の中に直接聞こえてくる感じだが、さっきまでと違って明らかに言葉として認識できた。


 やはり魔石を取り込むことで、ワサビの中でなんらかの変化が起きているようだ。


 通じることがよほどうれしいのか、すごい勢いで部屋中を跳ねまわっている。階下に響いたりはしないだろうがそのへんでちょっと落ち着いてほしい。


 ワサビ、嬉しいのはわかったけど、ちょっと落ち着こうか。

 ……言葉わかるか?


『うん、わかるー。アルさま、わかるー。わーい!』


 ワサビがぴょんぴょんと跳ねながら飛びついてくる。


 改めてすごいな、ワサビは。一体何が起きているのかさっぱりだが、とにかくすごいことだと思う。


 腕の中のワサビをしげしげとみつめるが、やはり見た目の変化は見られない。手の平サイズの、ぷにぷにのゼリーにしか思えない。


 ただ、アクション的にはぴょんぴょんと跳ねるかプルプルと震えるだけだがそれが感情によって微妙に違う動きになっている気はする。


 早かったり遅かったり、強かったり弱かったり。表現力というか…。それがここへきて会話……いや念話か?できるまでになったのだ。


 もっと魔石を与えたらどんなことになるのだろうか。いや、他のスライムはそもそもどうなんだろう。


 ワサビ、他のスライムと話すことはできるのか?


『すらいむは、はなしたり、できないよー』


 いやいや、お前しゃべってるじゃないか!

 他のスライムはみたことあるか?


『あるよー。森にはたくさんいたよー』


 やっぱり森にもいるんだな。見たことないけど。

 オレと一緒にいたときは全く見なかったよな?なんでだろう


『えーっとね、なんでかわからないけどね、みんなにげちゃうの』


 ……どういうことだ。逃げている?

 逃げるって……もしかしてお前が特別なスライムだからなのか?


 ワサビはプルプルと震える。首を振っているようだ。


『ちがうよー、アルさまから、みんなにげてるの』


 もしかしてとは思っていたが、スライムが……いや、魔物がオレから逃げているってことなのか?


 たしかに昔からオレだけは魔物に襲われたりしないので不思議に思っていた。

 みんな不思議がっていたな。ジョダにもお前と一緒だと安心だって言われて……。そういうことなのか?


 お前は、なんで逃げなかった?


『えーと、えーと…こわくないからー』


 これが本当だとすると、もしかしたらオレのスキルだったりするのか?


 でもゴブリンキングは……どうして?もしかしてランクが高いから?ランクの低いモンスターを寄せ付けない……ゲームにある聖水とか魔除け的な効果でもあるのだろうか?


 ワサビの言葉はなにか重要なヒントのようだが、答えとまではいえないのかもしれない。


 翌日、また空いている時間を見計らってギルドに行ってみた。エリーに鑑定機の話をすると……。


「あ、そういえばアルゼリオス君の鑑定結果をギルマスに伝えたら、型が古いからかもしれないって。

 丁度最新型が昨日届いてるから再鑑定してみましょ!」


 エリーは真新しい鑑定機を木箱から出して見せてくれた。前のに比べると一回り大きくなった気がするがこれが最新型なんだろうか。見かけは別に変わりないな。


「じゃ、もう一回やってみるね、前と一緒でここに手を置いて」


鑑定結果

【名前】アルゼリオス

【種族】人間

【性別】男

【年齢】15歳

【職業】魔物使い、冒険者、商人、旅人

【称号】なし

【加護】該当無

【体力】150

【魔力】10

【すばやさ】120

【知力】20

【攻撃力】200

【耐久力】100

【スキル】魔物使役

【戦闘力】280



「魔物使い?初めて聞く職業が増えてるわ!

 ……というか、スキル発現してるじゃない!

 なによ魔物使役って!?」


 エリーは興奮気味に、ちょっと待ってて、と鑑定機を手に奥の部屋に引っ込んでしまった。奥で何事か話している声が聞こえるが、さすがに扉の向こうの音までは拾えない。


 ほどなくして初めて見る男性を引き連れて戻ってきた。


 年の頃は40くらいだろうか、かなり大柄で精悍な顔つきだ。只者ではないのは間違いない。


「ギルマスのデフォードだ。よろしくな」


 ……ギルマス。やっぱりさすがの貫禄だ。


「アルゼリオスです。お世話になってます」


「ギルマスに聞いてみたけど、魔物使いという職業も魔物使役のスキルも初めて聞いたって。ただ、少し前に定義情報の更新だかなんだかで新しい鑑定機が届いたらしいの。

 来週、王都にあるギルド本部で会合があるみたいだから、そこで聞いてきてくれるって」


 ギルマスでも聞いたことなかったんだな……例の本にもそんな記載なかったし、世の中には知らないことがまだたくさんあるということだろう。


 定義情報ってなんだ?


「あ、鑑定機の中に持っている情報のことで、新しい情報が増えたときに書き換えするんだって。私もよくわかってないんだけどね、あはは」


「魔獣使役ってことは、やっぱり魔獣に命令できたりするんだろうな。

 お前さん、アルゼリオス……だっけか、心当たりはあるのか?」


 ずばり直球だな。まあ今更隠しても仕方ないかな。


「えーと、実はスライムを一匹連れています」


「スライム…だと?」


 デフォードもエリーも目を丸くする。


「ワサビ、出てきていいぞ」


 オレが声をかけると、すぐ横に置いておいた鞄からひょっこりと顔を出す。といっても顔も身体も一緒なのでほぼ全身出ているんだけど。


 テーブルにぴょこんと乗る。


「おいおい……まじかよ。

 つーか、なんでこのスライム…緑色なんだ?」


 やっぱりまず色からしておかしいのか。

 でも最初からこの色だったんだよね。


「特殊個体なんだろうが……いやそもそもスライムの特殊個体なんているのか?」


 色んな方向からまじまじと眺めながらぶつぶつつぶやいている。


「使役って、具体的にはなにができるの?というかどうやって指示するの?」


 エリーがもっともらしい疑問を口にする。

 

 うーん、具体的にといわれても色々できるからなぁ。頼めば大体のことはやってくれるんだよね。


 オレの言葉にデフォードとエリーがいやいやと首を振る。


「まてまて、だってスライムだろ?会話なんてできるわけないだろ!」


 会話というか、念話だけどね。なあ、ワサビ。


『うん、そうだねーアルさまー』


 しばらくの沈黙の後、デフォードはようやく口を開いた。


「冒険者として世界中を20年回り…引退してギルドに勤めて15年。

 緑色のスライムも初めてだが、会話するスライムなんてな……」


 なんかかっこいい顔で遠くを見ている……。無理やり納得しようとしているのか。

オレはこれまでのいきさつをかいつまんで説明する。


 魔物使いという職業が通るのであれば、今後ワサビを無理に隠す必要もないかと思ってのことだ。


 念話?できることや収納できること、魔法が使えること、ゴブリンキングを瞬殺したことなどなど。


 瞬殺はオーバーかな、2,3分はかかったか。


 2人は時々首をひねったりうなづいたりしながらも、一応最後まで聞いてくれた。


「……なるほど、魔石を食べてしゃべれるように。そして魔法まで使えるって?

 古代竜くらいの知能だと会話が成立すると聞いたことはあるが、スライムがなぁ……。

 全く聞いたことない話だが、お前さんがそういうならそうなんだろうなぁ」


「わたしもギルドで働き始めて今年で15年になりますけど……初めて聞きましたね」


 勤め始めて15年?若く見えるけど実は結構……。

 ……なんて考えていたら、エリーにジロリと睨まれた。


 いや、ベテランさんだなって思っただけなんだけど。


「ふむ……。話は分かった。スライムならまあ害もないし問題ないだろう。

 ただ今後強力な魔物を使役して町の中に入れるつもりなら……さすがに許可は厳しいんじゃないかな。

 魔物使いという職業も魔物使役というスキルもおそらく前代未聞だ。近々ある王都のギルドの会合で聞いてみるつもりだ。

 それまでの間……この話はオレに預けてくれや」


 デフォードは力強くそういってオレの肩をポンポンとたたく。もちろんワサビが乗っていない方の肩だ。


 ワサビが仲間になったのも成り行きみたいな感じだし、他の魔物を増やすつもりはないけどな。


「今はそうでも、この先は分からんだろう。

 それこそまた成り行きというやつがまたあるかもしれん」


 そりゃまそうだな。


「でも、スライムもこうしてみると可愛いよね」


 エリーはワサビを指でツンツンしている。ワサビは特に嫌がる様子もなくされるがままだ。


「あ、とりあえずギルドカードは上書きしておくね」


 そういうとオレのカードを鑑定機にはめ込んでなにか操作をしている。うーん、ワサビを調べてみたいがやっぱり無理だろうなぁ。


 とりあえず当面は魔石を集めるというのが目標になるかな。この先のワサビの変化が気になるし。


「それにしても、魔石にそんな使い道があるとは思わなかったわね。

 いい魔石が入ったらとりあえず確保しておいてあげるわ」


 おお、それは助かる。あとは魔石を買うためのお金を貯めないとな。

 

「稼ぎたいなら、ダンジョンという手もあるわよ。

 この町の北に最近見つかったダンジョンで、割と高価なドロップ品出るらしいから。買取で結構稼げるって評判よ」


 ダンジョンか。試しに行ってみてもいいかな。


「5,6階層あたりまではそれほど強いモンスターも出ないって話。

 でも、それより深くなるとまだ情報が少ないから気を付けないとダメよ」


 すっかりお姉さん口調のエリーに念押しされる。


 ギルドでは初心者向けにダンジョン攻略本的なものを販売しているとのことなので、さっそく買って帰ってきた。


 この世界のダンジョンは生き物のようにとらえられている。突然発生し、成長する。魔物を生み出し、迷宮をどんどん拡大していく。


 宝箱で冒険者を呼び込み、捕らえ、取り込んでさらに成長する。領主は自分の領地にダンジョンが発生すると、ダンジョンコアの破壊をギルドに依頼する。


 大きくなって手が付けられなくなると、増えすぎた魔物が地上に出てくることがあるかららしい。

 冒険者たちはダンジョン最深部にある核を破壊して、ダンジョンの成長を止めるんだと。つまりなくなりはしないんだな。


 ダンジョンは古くなればなるほど大きく、複雑で、高難度の存在となる。いかに早く崩壊させるかがカギということだ。


 町の北のダンジョンも発見されてから日が浅く、まだ踏破はされていない。浅い階層はランクの低い魔物が多いらしいので魔石を狙うなら5,6階層らしい。Dランクからダンジョンは入ることが許可されるので問題はない。


 このダンジョンは未踏破なのでどこまでの深さなのか不明。5,6階層までと言われているがそれが中階層なのか低階層なのかも分からないらしい。


 やっぱり魔物を使役する職業ってのはこの世界にはないのかなぁ。

 

『しえきってなにー?』


 あ、えーと、ワサビみたいな魔物を仲間にするってことだな。


『ふうーん』


 とりあえず物は試し、明日はダンジョンに行ってみよう。 

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