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港町 シーレイド

この小説をご覧いただきありがとうございます。


初めての作品なので、読みづらいところやわかりにくいところなど多々あるかと思いますが、頑張って続けたいです。


ブックマーク登録や評価をいただけますと励みになります。


よろしくお願いいたします。WAKYO

 シーレイドに向けて出発したオレ達。天気もいいし足取りは軽い。歩いて4,5日だったか、まあのんびり行こう。


 ワサビは村を出るとすぐに鞄から出てきていつもの定位置、オレの肩に移動した。相変わらず器用なものだ。


 鞄の中で暇だったのか腹が減ったのかは分からないが、一緒に入れて置いた魔石を食べてしまったワサビは、その影響か魔法が使えるようになった。


 とはいってもすごい攻撃魔法ではなく、冷やしたり温めたり、あとは薪に火をつけるなんてことができるみたい。


 この旅の途中で時間を見つけて、もう少し検証するつもりだ。それもあって早々に村を出てきた。村の中では検証がやりづらいからな。


 あと目立った変化は……なんとなくコミュニケーションが最初より取りやすいというかわかりやすくなった気がする。

 

 元々ある程度こちらの言葉を理解はしているようだったが、今では自分の意思をこちらへ伝えようとする動きが見られるようになった。


 ただこれはオレが単純にワサビの感情の読み取りに慣れてきただけなのかもしれないけど。


 海沿いの街道は人の往来が多いからか、思ったより整備されている。馬車も通るんだから当たり前といえば当たり前だが、歩きやすいのは助かるな。


 街道の西は断崖絶壁でその向こうは海。東は例の森が広がっている。平坦でまっすぐな道ばかりではないので適度に休憩をはさみながら進んでいる。


 他の者は森には近寄らないよう街道をひたすら急ぐんだろうが、オレ達は森に入っては食べられそうな木の実やきのこをみつけて収穫。川があれば魚を捕り、よさげな木陰をみつけては昼寝をするって感じで気ままな旅を続けている。


 時折冒険者とすれ違うが、ソロはオレくらいのものだな。髪の毛のせいかやたらジロジロと見られるのがちょっと気になると言えば気になる。


 皆、大体が3~4人のパーティで、時には10人近いこともある。例のクエスト目当てなんだろうか。オークの集落となるとそこそこ人数いないと厳しいんだろうな。


 まあオレは全然興味ないしスルーだ。まあ目の前で誰かが魔物にでも襲われてるなら当然助けには入るけど、率先してオークの集落に攻め込む気はさらさらない。


 楽しく旅ができればそれでいいのだ。


 慣れてきたのか、人の気配を感じるとワサビもサッと身を隠せるようになった。下手をするとオレが気づくより早く察知するのでなかなかの優秀だ。


 人の気配がなくなるとまた元通り肩に移動。本当に器用なやつだ。


 道中、時間をみつけてはワサビが何をどこまでできるか検証している。薪を拾わせたり、湿っている枝があれば乾かしてもらったり。どのくらいの火をだせるのか、凍らせるほど冷やせるのか、などなど。


 多分ワサビが特殊個体なんだとは思うけど、水浴びしたいなと思うと川を見つけてくれるし、小腹がすいたなと言う頃に果物を見つけてくれる。


 ……正直言って、スライムにここまでのことができるとは驚きだ。


 オレの考えが読み取られているんじゃないかと思えてくる。そう考えるとちょっと怖い気もするが、旅が格段に楽になっているのは間違いないから深くは考えない。


 まだまだ試したいことは山ほどあったが、気づけばシーレイドに到着していた。ネルダ村を出て7日目の夕方だ。


 まあ寄り道も多かったしこんなところかな。


 あ……そういえばやっぱり道中魔物に遭遇することはなかったな。せっかくもらった毒消しも出番はなかったか。


 シーレイドの入口にもやはり門番がおり、入るために受付で銀貨一枚を払うことになった。まあ鉱石を売って得た銀貨が結構あるので余裕だけどね。


 門をくぐると、これまでとは比べ物にならないほど広い町だな。といってもオレが知っているのはジョゼ村とネルダ村だけなのだが。


 行き交う人の多さも比べ物にならないし、色んな職業の人がいるようだ。武装している人や豪華な服装、貴族らしき人。見るからに商人という風体のおじさん。


 あとは初めて見るが亜人がちらほらと混じっている。長い耳のエルフにずんぐりむっくりのひげ面のドワーフに獣耳の獣人……これがケモ耳というやつか。ちょっと触ってみたい気はするな。


 これまでは普通の人間しか見たことがなかったが……やっぱり異世界なんだな。


 なんだろう……割と普通に歩いているので、それほど人種差別とか奴隷とか異世界にありがちな設定はこの世界にはないのかもしれないな。まあ平和が一番だしいいことだ。


 広いとは言ってもあくまでこっちの世界での話。文明という点で発達しているかと言えばそういうわけではない。この町でも建物もせいぜい3階までだし、自動車なんてものもない。


 ただ村にはない街灯がちらほらとみられた。どうやら魔法を使った灯りのようだが、まだ薄暗いくらいの時間なので目立たないが、夜になると町を明るく彩るのだろう。


 小さいが教会もあった。ケガや病気を神の奇跡で直してくれるとじいちゃんに聞いたことがある。


 ここでいう神の奇跡と魔法が同じものなのかは知らないが、この世界では魔法がとても発達しているらしい。魔法とそれを応用した魔道具で色々なことができるので、医学や科学が発展する必要はないんだろうな。


 さて、この町でもワサビには鞄に入ってもらっている。魔物を連れているものは一人としていないのでやはり目を付けられる可能性が高そうだ。


 厄介ごとはごめんだ。慎重にいこう。


 初めての大きな町と人の多さにやや圧倒されたが、気を取り直してとりあえずギルドを探すことにする。


 ちなみにワサビには勝手に鞄の中のものを食べたりしないように言っておいた。きちんと言っておけばおそらく大丈夫だろう。


 初めて見るものが多く、めずらしさにあちらこちらで足を止めてしてしまったが、ほどなく目的のギルドに到着した。


 木製の看板には太陽の中に剣と盾の彫刻が施されており一目でそれとわかる。


 冒険者ギルドとは簡単に言うと冒険者の互助組織らしい。ゲームや小説で得た知識と大差ないのはじいちゃんの話で理解している。


 これまでの村にはなかったが、そこそこの規模の町には大体あるらしい。石造り二階建てのなかなか立派な建物だ。


 大きな扉を開けると、中の喧騒に一瞬ひるみそうになる。鼻をつく汗のにおいとすごい熱気にちょっとむせかる。

 広い建物だからすし詰めということはないが、すごい人の数に圧倒される。


 この時間はダンジョンから帰ってきた冒険者が多いのかな。入ってすぐのロビーにはいくつかの長椅子があり、冒険者達が待ち合わせをしたり情報交換をしているようだ。


 窓口は前世の市役所を思わせるつくりだ。総合受付と買取カウンターの2つがあるな。オレの場合ひとまずは総合受付でいいだろう。


 なかなかの混み具合だが実際に窓口に並んでいる者はそれほど多くない。どちらかというと買取のカウンターのほうが少し混んでいるくらいか。総合受付の方はそれほどでもないので早速列の最後尾に並んだ。


 冒険者ギルドというともう少し荒っぽい、粗野な冒険者達が初心者に絡んだり、そこかしこで小競り合いが起きているイメージだったが、予想に反して案外行儀よく並んでいるんだな。


 壁に大きな掲示板があるが、あれがいわゆるクエストの受付なのかな。掲示板に張り出されている羊皮紙を見て冒険者たちがあれやこれやと相談している姿が見られた。


 全身を鎧で固めた戦士や高価なローブに身を包む魔導士など、いかにもという冒険者たち。やや居心地の悪さを感じる中、順番が回ってきた。


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ!

 初めての方ですね」


 屈託のない笑顔が爽やかでとても快活な女性、というのが第一印象。長く艶のある栗色の髪を後ろで束ね、指定の制服だろうか、きっちり着こなしている。


「初めてなんですが、登録はこちらでいいですか?」


「はい、こちらで登録となります。

 ではまずギルドの説明からさせていただきますね!」


 受付嬢はエリーと言った。20代前半だろうか、若いがなかなかしっかりした説明でとてもわかりやすい。


 ちらりと後ろを見やるが、並んでいる様子もないので考えていた質問を一通り投げてみたが、いずれもよどみなく答えてくれた。


 簡単にまとめると。


 ギルドに所属するのには会費のようなものはないが、初回登録料、つまり登録証の発行に銀貨一枚がかかる。紛失や破損による再発行の場合も同額。


 期限の取り決めはないが、あまりに長期間なんのクエストも達成しないと失効する(この場合は再発行が必要)。達成できなくても、年に一回以上の情報更新を行えば失効することはない。


 ランクはGから始まり、最高ランクはSまで。


 ただしSランクはクエスト達成回数などの単純な条件ではないので非常に敷居が高く、この世界に数人しかいないらしいので通常はAランクを目指すことになる。


 まあ自分には縁のない世界かなと思う。いろいろ見て回るのが目的であって、ランクを上げることも世界最強になる必要もない。とりあえず身分証代わりになるようなのでカードがもられえばそれでいい。


 商人ギルドや魔術師ギルドなどもあり兼務も可能だがメリットがないのか、あまり例がないらしい。


 各ギルドにはギルドを預かる責任者、ギルドマスターがおり、Cランク以上になるにはギルドマスターの承認が必要らしい。


 逆にDランクまではクエストを一定数こなしておけば比較的簡単になれるようだ。クエストは常時募集している採取、採掘系と随時発生する討伐系がある。


 Cランク以上上げようと思うと、採取、採掘系だけではだめで、討伐系をいくつかクリアしておく必要があるという。


 町に危険が訪れた場合など突発的に発生する緊急招集系もあるらしい。ただこれはCランク以上の者のみが対象。


 なるほどね。


 まあ前世の知識がほぼ通じる内容なのですんなりと腹に落ちた。


 ギルドカードの発行には鑑定が必要という。これは鑑定機と呼ばれる魔道具でその人間の職業やスキルを測定し、ステータスを数値化するんだと。すごいね。


 盗みなどを働いていればすべて表示されるため、身元保証の一助にもなっているらしい。


「それでは鑑定作業に入りますね」


 エリーはそういうと部屋の奥から黒いボードを持ってきた。どうみてもただの黒板にしか見えないのだがとても、高価な魔道具なのだそうだ。


 手のひらを乗せるだけで現在の職業やスキル、ステータスの数値が表示されるらしい。それをカードに記憶させることでどの町のギルドでも情報を照会することができるということだ。


 促されるままに鑑定機に左手を乗せてみる。身体の中を弱い電流が流れるような違和感が一瞬。そして文字がずらずらと表示された。


鑑定結果

【名前】アルゼリオス

【種族】人間

【性別】男

【年齢】15

【職業】旅人、商人

【称号】無

【加護】該当無

【体力】150

【魔力】10

【すばやさ】120

【知力】20

【攻撃力】200

【耐久力】100

【スキル】該当無

【戦闘力】280


「あ……スキルはお持ちでないみたいですね……。

 あと、残念ながら加護もないみたいです……。

 どっちもない方はあまりいらっしゃらないんですが……えと、気を落とさないでくださいね。

 あ、でも、その他のステータスの数値は同年代の方の平均値より少し高いですし、この戦闘力でしたらCランクくらいまでなら行けると思います!」


 まああまり期待はしていなかったが、予想以上にさえない結果だ。あまり前例がないようで、なんだか慰められてしまった。


 ギルド登録は15歳の成人以降が原則だが、新規登録時の平均戦闘力は150くらいらしいので、2倍弱といったところか。


 魔物と実際に戦ったことはないが、簡単な討伐クエストくらいならなんとかなるようだ。


「再鑑定もできますが、この前魔石交換したばかりですし多分間違いないと思います」


 この魔道具も魔石で動くようだ。というか交換て、なんか電池みたいだな。


 鑑定結果を見た感じ、この世界にはゲームみたいなレベルがないらしい。そりゃまあそうか。


 戦闘力ってのは総合的に数値化しているのか?


「ステータスは訓練や戦闘によって徐々に上がっていきます。

 逆に怠けていると落ちていきますね。

 ランクの高い冒険者の方の話を聞く限り、比較的早い段階から他の方との差が顕著みたいで、同じだけの戦闘をこなしても上がり方が違ったりするみたいです」


 稼げるだけ稼いでしばらく悠々自適に暮らしている冒険者が、久しぶりに復帰しようと再鑑定したら、極端に数値が落ちているなんてこともあるらしい。


 高ランクのものは最初からある程度強く、鍛えれば鍛えただけ他のものより速い速度で成長するらしい。


 つまりこの鑑定では分からないが、成長に関する別の指標がありそれを元に、成長していくということか。しかもそれは個人ごとに異なると。


 エリーの話では、スキルの多くは生まれたときから最低一つはもっていて、中には3つ以上持っている人もいるらしい。過去には7つ所持していたという伝説級の英雄もいたらしいが相当レアな存在だと。


 持ってはいても発現しない場合もあるなどまだよくわからない部分でもあるらしい。


 ギルドに加入したり身分証を発行しようとすれば必然的に鑑定することになるが、生まれ育った町で一生過ごすような人はスキルの有無をしらないまま無意識に使っているケースもあるという。


 はっきりと「該当無」と書かれている以上、オレにはないんだろうな。


 再鑑定は不要でそのままで問題ないと伝えると、エリーがおやっという顔で首をひねる。


「該当無なんて表示だったかしら……。

 あ、滅多にいないのでちょっとうろ覚えで申し訳ありません。

 後ほどきちんと確認させていただきますが、一旦はこのままの登録としておきますね」


「わかりました。あともう少し聞きたいことがあるんですが……」


 さらに素人質問を繰り出してしまい、エリーの目は完全に出来の悪い弟を見る姉のそれになってきた。


 とりあえずスキルと職業についてもう少し詳しく聞いてみた。


「スキルは職業と密接な関係があります。

 どちらかというと、スキルが発現したらそれを生かす職に就く、という感じでしょうか。

 料理のスキルが発現すれば料理人に、交渉や鑑定といったスキルならば商人に、という具合ですね」


 スキルは持っていないが、オレの場合はじいちゃんの店を手伝っていたから商人、ここまで旅してきたから旅人という職業がついているわけか。


「剣や斧といった武器に特化したスキルをもてば剣士や戦士になるのが一般的ですね。もちろん絶対ではないですし、例外もあります。

 例えば、スキルはないけどその仕事を続けているうちに発現する、なんてこともあるとは聞いています」


 あとから発現するってこともあるのか。それはいいことを聞いた。


「これ、良かったら読んでみますか?本当は貸出禁止なんですけどね」


 エリーはこっそりと一冊の本を貸してくれた。ギルドで働く従業員に無償で貸与される本で、初心者の相談を受けられるようにさまざまな情報がまとめられているらしい。


 それだけではなく、新しい情報を見聞きするたびに書き足していったので、かなり参考になりそうだな。


 本を受け取るとお礼をいってギルドを後にした。


 とりあえず登録証は明日にはできるようなので、今日のところは日も暮れてきたし宿で休むことにした。


 先に部屋をとっておくのを忘れていたが、人の往来の多いシーレイドはさすがに宿屋も複数あったので、3軒目で無事部屋が確保できた。


 今晩は借りた本も読みたかったので、部屋で食べられるものを夕食に頼んだ。


 一階で料理を受け取って部屋に戻り、扉を閉めたとたんにワサビが鞄から顔を出した。ホントに賢いな。


 安い部屋を選んだので、前回の宿と同じくベッドに椅子に小さなテーブルがひとつずつの質素な作り。


 料理を置くとワサビはちゃっかり肩からテーブルに飛び移っている。早いね。


 本を片手に、ワサビと一緒に夕食をとり始める。適当にちぎっておいておくと勝手に食べているので手間はかからない。


 さて……と、最初のページは、ギルドの成り立ちからだな。


 冒険者ギルドの歴史、目的、規律、常識など冒険者目線とギルド側目線の両方から書いてくれてある。


 ある程度のことはじいちゃんに聞いてはいるが、基本的なことが漏れていたりするものだ。


「これは助かるな」


 次はギルドの買い取り制度、クエストに関しての注意事項など細々したことまで書かれている。買い取れる物の一覧もあるし、これは参考になる。


 ギルドでは魔獣の解体もやってくれるようだ。肉はもちろん、皮や牙、目玉、血などが色々な薬の材料になったりするので貴重なのだと。


 それがドラゴンともなれば捨てる部位は全くないらしい。


 だが解体はかなりの技術を要するので専門家に頼むのが一般的だ。その一番手っ取り早いのがギルドということのようだ。


 仮にギルドでも手に負えないような難しい解体の場合は、ギルドの伝手で探してくれるらしい。


 オレはソロだし、仮に討伐に行としても魔獣を持ち帰るのは難しいだろう。あまりお願いする機会はないかもしれないな。


 スキルに関しても書かれている。


 発見、申告されたものだけでスキルの種類は100以上に及ぶようだ。ジャンルに分けると、攻撃系、魔法系、補助系、その他の4種類。


 もしやと思って探してみたが、魔物を使役するとか魔物と会話するようなスキルは見当たらなかった。職業欄も見てみるがこの世界にはテイマー自体が存在しないようだ。


 いわゆるテイマーの使うテイムのようなスキルが発現したことで、スライムを使役したのかと思ったがそうじゃないみたい。


 この世界の人はなんらかスキルを持ってるらしいのに、転生してきたオレには特別なスキルなしか。なんか不公平な感じするな……まあいいんだけど。


 というかむしろワサビの方を鑑定してみたいくらいだ。


 オレはワサビをツンツンと突いてみる。相変わらずプルプルのゼリーみたいで気持ちいい。


 そういえば職業はどうなんだろう。


 たしか「旅人、商人」となっていた。称号は「無」。これらはどういうことだろう。パラパラと読み進める。


 職業については概ね予想の範疇でおどろくような話もがっかりするような内容もない。よくある異世界ものの職業そのままだ。


 旅をすれば旅人、取引したり店を開けば商人、剣で戦えば剣士となる。自分の振る舞いによって自動的に増えたり減ったりするようで同時に複数持つことも珍しくないようだ。


 まあ旅人のままで特に問題はなさそうだし、冒険者ギルドの登録も済ませたのでそのうち冒険者にでもなるのだろう。


 称号についても簡単にしか書いていないが、職業と同様でおのれの振る舞いによって得たり変わったりして、ものによって恩恵を得られることがあるらしい。


 まあこちらについても、あまり気にしなくてもいいか。


 さらに読み進める。他の町の情報が色々記載されている。


 宿屋の料金だったり評判だったり。

 店の情報のところには美味しい甘味なんかがメモされている。


 冒険者におみやげをねだったりするんだろうか。それとも異動とかで別の町のギルドに行くことでもあるのかもしれないな。


 まあこんなところか。オレはそっと本を閉じた。


 ワサビは…寝てるのか全く動かない。起こさないようにベッドに移し、横になる。


 明日はギルドカードを取りに行って……それから……と考えるうちに、オレは深い眠りについていた。


--


 夜中まで本を読んでいたせいで寝過ごしてしまった。

 やや遅めの朝食を済ませた後でギルドに向かった。


「あ、アルゼリオス君!」


 オレの顔を見るなりエリーが手を振ってくれる。昨日たくさん話したせいか、随分とフランクな感じだ。


 今日は他の冒険者が少ないというのもあるか。皆それぞれダンジョンやクエストに出かけたんだろう。


「これ、ありがとうございました。すごく参考になりました」


「役に立てたならよかったわ!

 そうだ、アルゼリオス君、登録証できてるわよ」


 エリーが引き出しからカードを取り出す。


 顔写真のない運転免許証的なカードだ。

 ランクはG。これで町や村に入るときに税金がかからないな。


 さっそく船に乗って王都に……って、船にはどうやって乗るんだろう。


「船?……それはなかなか大変よ」


 王都への船は1日1便出ているが、どちらかというと荷物メインのため定員は少ないらしい。逆に渡航希望者は多く、かなり先の便まで予約が埋まっているのだそうだ。


 ということは……。


「港にいくと渡航受付所があるから聞いてみるといいけど、多分一か月くらい先まで埋まってるんじゃないかなぁ。

 少し前に他の冒険者さんがそんな話をしていたから」


 がーん。シーレイドに来ればいいのだと思っていたがそんな簡単ではなかったか。


 しかも王都への渡航費は金貨10枚だと。船の代金がそこまで高いとは……想定外の出費だ。じいちゃんがいくらか残してくれていたお金を全部はたいても全然足りないな。


「この町もいいところよ。のんびりしていったら?」


 エリーは笑顔で言ってくれるが、そうなるとここで船を待つ間の生活の基盤を考えないといけない。


 とりあえずは鉱石の売却か。ギルドでも買取してくれるって話だったな。


「鉱石?ああそれならギルドが多分一番高値で買い取るわよ」


 エリーの話では道具屋、武器屋、鍛冶屋など買取窓口はいくつかあるがギルドが一番安全で高額だという。


 すぐとなりの買取窓口に移動。担当者は変わるが、エリーは暇なのか立ち会ってくれるようだ。


「買取担当のジョンベルだ。よろしくな」


 渋い感じのおじさんが軽く手を挙げる。筋肉もなかなかのものだが、いたるところに古傷がある。若干足を引きずっている様子から見て、冒険者からの転職組だろうか。


 オレはさっそく鞄に残っていた鉱石をすべて取り出した。鞄のワサビをみられないように注意しながら。


 えーと……よしよし、今度は減ってないな。


「これで全部か?ちょっと待っててくれよな」


 ジョンベルは鉱石を大きさ順、種類順に並べていく。重さを図る魔道具で一つずつ調べていく。メガネの様な魔道具?も使ってあれこれ調べて……ようやく終わったらしい。


「そうだな、全部で金貨5枚と銀貨50枚ってとこだな。

 最初だしおまけで金貨6枚でどうだ?」


 ネルダ村の道具屋でも最初だしとか言われたけど、最初っておまけするのが当たり前なのかな。まあ思ったよりは高かったのでオレは了承する。


 金貨6枚を受け取る。が、手持ちと合わせても船代にはまだ足りないか。まあ仕方ない。

 不意に、ジョンベルはオレの顔をまじまじと見て言った。


「アルゼリオスっていったか、お前さんはここいらじゃ珍しい黒髪だな。

 イースティリアの出身かい?」


 村でも見なかったが、たしかにここまでくる道で黒髪は見当たらなかったな。イースティリアというのは初めて聞く名前だがどこの国だろうか。


「そうそう、わたしも気になってた。肌もすっごく白いのよね!

 最初私女の子かと思っちゃったわよ、可愛い顔しているから」


 エリーも相乗りしてくる。やめてくださいよ、男ですよ、男。


「いえ、南のジョゼ村です。

 そのイースティリアというのは?」


「おっと違ったのか。にしても漁村育ちには見えないなぁ」


 確かにね。毎日のように漁に出ていたが肌の色はオレだけ白いままだった。


「イースティリアというのはこの中央大陸の東にある大陸の国さ。

 その国は皆、黒い髪に黒い瞳だと聞いた。

 まあ俺も実際に行ったことはないんだがな」


 黒髪が珍しいのは知っていたが、それが当たり前の国があるとは初耳だ。じいちゃんにも東の大陸のことは聞いていたが、イースティリアという国については覚えがない。


 まあじいちゃんとてすべての国を回ったわけではないだろうし、知らないこともあるだろう。


「わたしもイースティリアに行ってみたいんだよねー。

 お魚が美味しいらしいし、この国にはない味付けの料理がたくさんあるって話なのよ」


 エリーはまだ見ぬ異国の地とその美味に想いを馳せるようにうっとりとした表情だ。だが、たしかに今の会話だけでもそこは一度行ってみたいところではある。


 2人にお礼を言ってギルドを後にする。とりあえず港に行って船の状況を聞かないとな。


 船着き場のすぐ近くにある渡航受付所で聞いたところ、エリーの話通り船は一か月先まで埋まっていた。

 キャンセル待ちもできるが、前払いなので現時点ではそれすらできない。


 ……となると、船代を稼ぐ期間プラス一か月が最低でもかかることになる。長期間の滞在となると宿代もばかにならない。


 そんな話をしていると、受付所の人が借家の話を押してくれた。どうやらこの町は広いからか、空き家が多いらしい。宿屋は連泊割引もあるが、空き家の紹介もしてくれるらしい。


 早速宿屋に戻ってその日のうちに紹介してもらい、借家を借りることに決めた。

 

 宿も部屋を一か月まとめて借りれば結構割安にはなるが、借家とそれほどの差はなかった。借家ならワサビものびのびできるかと思ったのだ。


 借家の場合は月単位の契約であることと、掃除や洗濯、料理のすべてを自分で行う必要があるが、村でもやってきたことなのでなんとかなるかと思う。


 家も決まったし、あとは生活にかかるお金と船代を稼ぐだけだ。ということで金策のためのクエストをエリーに相談することにした。


 ギルドは冒険者の互助組織なのでこういった相談事も結構持ち掛けられるらしい。


 金策のためにしばらく町にとどまることを話したら、エリーがなぜか少し嬉しそうにしていた。


「まずは簡単なクエストから始めるのが基本ね。

 無難なところはポーションの材料になる薬草採取。

 ポーションの需要はすごく高いからいつでも大歓迎よ」


 薬草は常時無制限に買取しているらしく、群生しているところを見つけられると結構いいお金になるという。


 エリーがこっそりとおすすめのポイントを耳打ちしてくれた。


 よし、じゃあさっそくそこに行ってみよう。オレの言葉にワサビがもぞもぞと鞄から出てきて肩に移った。やっぱり外の方がいいみたいだ。さ、行くか。


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