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ジョゼ村

この小説をご覧いただきありがとうございます。

初めての作品なので、読みづらいところやわかりにくいところなど多々あるかと思いますが、頑張って続けたいです。

ブックマーク登録や評価をいただけますと励みになります。

よろしくお願いいたします。WAKYO

 この世界には5つの大陸が存在する。中でも中央に位置するこの大陸には、面積のおよそ半分を占めるほど巨大な樹海が大地を覆っていた。


 死の森とも呼ばれるその樹海には、危険な獣や魔獣が至る所に巣を作っており、立ち入る者達の命を容赦なく奪い去っていく。


 生半可な装備や覚悟では決して越えることはかなわない。それが中央大陸に住むすべての者の共通認識だ。


 そんな死の森の南に、ジョゼ村という小さな漁村があった。


 中央大陸のほぼ全土を治めるセントール王国から独立した、人口わずか100人ほどの小さな集落である。


 決して裕福な村ではないが、南に広がる海は波が緩やかで魚介類の水揚げ量も多く、食うに困ることはない。


 塩分を多く含む土壌は農作物の栽培には適さないが、穀物類や野菜などは月に一度、海路でやってくる定期便で賄うことができた。


 村民のほとんどが魚に関わる仕事に従事し、店らしい店と言えば道具屋と宿屋だけ。


 これといった特徴のないのんびりした田舎の漁村だ。


 そんなジョダ村で今朝早くにジョゼリオという老人が息を引き取った。正確な年齢は誰も分からないが齢90をゆうに過ぎているという。


 若かりし頃は冒険者として世界を回って勇名をはせ、村に戻ってからは曾祖父から続く村で唯一の道具屋を継いだ。


 だが安穏とした暮らしとは程遠く、波乱の人生は続いた。


 当時、自治区である商業都市アイリスを除き、残りはこのジョダ村を含めすべてセントールの領土に含まれていた。


 しかし、深い森に阻まれたこの村は王都との往来が困難である。任期制で地方領主の使いが代官として村に駐在していたが、不自由な暮らしに不満を抱く者も少なくなかった。


 いつしか募る不満は村民たちに向けられ、圧政を強いる者が現れた。一気に関係の悪化した代官と村民の対立は深まり、トラブルが頻発する。


 ジョゼリオが村に戻ったのはそんな頃だった。


 責任感が服を着て歩いているような男ジョゼリオは、村の異変に気づくなりすぐに行動に移した。


 代官の不満と村民の訴えを真摯に受け止め、両者が満足できる結果としてセントール王国へ赴き、ジョダ村の独立を直訴したのだ。

 

 不可能とも思えるその行動だったが、時代はジョゼリオに味方した。


 長きに渡る平和と世界的な封建制度の崩壊、そして農奴解放の流れを受けて、20年分の年貢先払いを条件に領地解放されることとなったのだ。


 ジョゼリオは実質的な交渉の窓口となり、5年の歳月をかけて村の独立を実現してみせた。


 世界を見てきたその知識は海よりも深く、常に正しい方向に村民たちを導き、この村を生涯にわたって支え続けた……そんな男だ。


 だれもが等しく彼の死を悼み、悲しみの声を上げた。


 だが、悲しみとは裏腹に村ではジョゼリオを見送るべく盛大な宴が催された。年に一度の豊漁を祈る祭事に勝るとも劣らない規模だ。


 ケガや病に苦しんでの死ではないし、なにより嘆き悲しまれて送られるのは彼も望まない。そう思ってことだった。




 ジョゼリオにはアルゼリオスという名の孫がいた。


 奇しくも今日で15歳になる。


 しっとりと濡れたように艶のある黒髪と夜の闇を閉じ込めたような瞳の色は、村の者とは明らかに違う。そして漁村育ちと思えないほど白い肌が髪の色も相まって際立っていた。


 アルゼリオスはこの村で15年間ジョゼリオの孫として育てられたが、本当の孫ではない。ジョゼリオはそのことを一度も口にしなかったが、彼は知っていた。


 なぜなら、アルゼリオスは自身がこの世界に生まれ落ちたその瞬間から今日までの記憶を正確に覚えているからだ。


 もっと言えば前世からの記憶を持ったまま、この世界に転生したのだから……。


 こことは違う世界、地球と言う星の日本という小さな国でごく普通の中学生、前島勇一は15歳の誕生日の前日、不運な事故で命を落とした。


 だが、死を実感するのと同時に、この世界で産声を上げていた。


 勇一は自分の身に何が起きたのかすぐにわからなかった。


 何の説明もないまま、この世界に産み落とされたのだ。死んだことも、生まれ変わったことも理解できずただただ混乱していた。


 声を出そうにも出てくるのは泣き声だけだった。


 起き上がるどころか、手足もろくに動かせない。目もほとんど見えない。漠然とした不安と恐怖。とにかくなんとかしなければと、思いっきり大きな声で泣きわめいたのだ。


 どかどかと響く足音に続いて、扉が開く音と頬を撫でる風を感じた。誰かが近づく気配に、身を固くする勇一。次の瞬間、無重力空間に投げ出されたような感覚に陥った。




 これは誰だ?誰かに抱きかかえられた?


 なんで目が見えないんだ?身体もろくに動かせないじゃないか!どうなっているんだよ!


 あ……少し、見えてきた。


 老人?こんな老人がオレを抱っこしてるのか?


 え?何を言っている?分からない……。英語とも違う、聞いたことない言葉だ。




 赤子を見た瞬間、ジョゼリオは、おおっと言葉にならない声を上げた。何度も何度も何かを叫んでいたが、それは勇一の知らない言葉であり、その意味はまるで分からなかったのだ。


 意識ははっきりしていた。事故に遭う直前までの記憶もしっかり残っている。だが自分は赤ん坊の姿で、目の前の老人は訳の分からない言葉で一所懸命話しかけてくる。


 そして、唐突に悟った。


 全く別の世界に転生してしまったのだと。




 その時のことももちろん鮮明に覚えている。この世界の言葉を話せるようになった今となっては、ジョゼリオが口走っていたことも正しく理解できた。


 あの時、ジョゼリオは……


『おお!神よ!子供のいないこの私に赤子を授けていただきありがとうございます!

 ……きっと、私の生涯をかけて、立派に育てて見せます!』


と言っていた。一言一句違わないはずだ。



 道具屋の納屋に、ある日突然現れた赤子。知らされた村の者達も驚きを隠せない様子だった。


 だが、これまで見たこともない漆黒の髪と透き通るような白い肌に、誰もがある種の神々しさを感じ、自然と受け入れていた。


 ジョゼリオは赤子にアルゼリオスと名づけた。子のいないジョゼリオに、養護を申し出るものもいたが頑として譲らず、自分の孫として育てることを宣言した。


 それから村の子供たちと同じように育てられ、ごく普通に成長していく自分自身に、勇一はそれで良いと考えていた。正直、幸福な前世ではなかった。


 両親を事故で一度に亡くし、15歳の誕生日を目前に自分自身も事故に巻き込まれたのだ。


 元の世界に戻りたいとも、生き返りたいとも少しも思わなかった。


 新しい人生を与えてくれた神と、自分を受け入れてくれたジョゼリオと村人への感謝しかなかった。


 アルゼリオスとしての人生を受け入れるため、言葉を話せるようになった後も前世の記憶のことは誰にも言わなかった。それを思わせるような言動にも気を配り、ごく普通の村人としてジョゼリオの孫として生きることにした。


 だが、5歳を超えたあたりから、少しだが他の子供たちとの差が出始めた。いや、気づいたといったほうが正確かもしれない。


 一番の違いは、とにかく丈夫だった。病気どころか、熱を出すこともない。そして物覚えがよく、一度聞いただけで多くのことができた。


 同じことをやらせてもやはり頭一つ抜けているアルゼリオスに、次第に村のものは一目置くようになっていく。


 10歳になる頃には、ジョゼリオによる読み書きや算術などの座学をすべて終わらせ、剣術や魔物の知識、冒険に必要なサバイバル術の指導に移った。


 理解の早いアルゼリオスへの指導は、80歳をとうに超えるジョゼリオのやる気を漲らせ、さらに若々しくさせていくように見えた。


 そして、流れるように月日は流れ、今日、アルゼリオスは15歳の誕生日を迎えたのだ。


 アルゼリオスには知らされていなかったが、今日のこの宴は、村を挙げての成人の祝いだったのだ。


 そしてこの日から、勇一……いやアルゼリオスの運命の輪が回り始めることとなる……。


少し直しました。

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