イルカとの戯れ
それからまた少し経った日の夕方。愛とるかは海に出かけた。お昼にはそれなりに人がいる砂浜も夕方となると人気がなかった。夕焼けが綺麗で二人は砂浜に座って空と海とを眺めていた。一瞬海に黒い影がよぎった。なんだろうと思っているとまたよぎった。
「ねぇ、お姉ちゃんあれって…」
「うん。イルカだね。」
「鳴き声も聞こえるね。なんか近づいてきてない?」
二人が立ち上がってみるとたくさんのイルカたちがこっちに向かって泳いできていた。
愛が(お姉ちゃんが倒れた時もこうやってイルカたちがきてくれたな)と思っていると、るかがふいに
「一緒に遊ぼうって言っているわ」と言った。
「なんでイルカたちの言っていることがわかるの?」と愛がきくと、るかは
「なんでかわからない。でも確かにそう言っているの。」と答えた。
二人がイルカたちに近づくとイルカたちは二人の周りをくるくる泳ぎ始め、二匹のイルカが二人を背中に乗せてくれて海を泳ぎ始めた。残りのイルカたちもそれについて泳ぐ。二人はとても楽しくて時間が過ぎるのを忘れていたけど、イルカたちは二人を砂浜の近くまで送ってくれて
[お母さんとお父さんに怒られないように急いで帰るんだよ。]と言って帰っていった。
二人はイルカたちの姿が見えなくなるまで並んで海を見つめていた。
帰り道、歩きながら愛はぽつりと呟いた。
「あの本を読んでイルカと遊べたら楽しいだろうなと思っていたけど、まさか本当になるなんて。名前も同じだしあれは魔法の本なのかな。それとも今起こったことが夢なのかな。」
月日は流れ、るかは高校生、愛は中学生になった。るかは頭がよかったので隣町の偏差値の高い高校に進学した。家から遠いこともあり、家にいる時間が減った。愛は明るい性格だったので、放課後や休日は友達と遊びに出かけることが多かった。前のようにるかと海に行きたいと思ったことは何度もあったが勉強で忙しそうな姉の邪魔はできないと思い、我慢していた。友達と遊んだり勉強したり恋をしたりするうちに愛はイルカたちのことを忘れていった。