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納骨堂のヴィオラ・ダ・ガンバ

作者: 黒実 音子

甲虫の死骸と、死んだ肝臓の様な苔類(ヘパティカス)の顆粒が

堆積物となり、惨めに積もっている。

そんな汚れた白い石灰岩(カリーサ)の地下墓地に

ヴィオラ・ダ・ガンバが置かれている。


おお!! 最早、誰にも弾かれる事が無い

かつての栄光の木片(パリージョ)よ!!

お前の主人もまた

絨毯(ダーメ)甲虫(スタ)工房(リウム)の奏でる

終焉の解体の音を聴きながら

お前と共に、色の無い時間を

この納骨堂で過ごしている。


ああ!! 墓地を徘徊する(ポタモン)達が

古いラテン語で囁く。


MORTIS CONSOLATIONEM


今となっては全てが白い石の密室で語られる。

若い愚かさも、

喪失の哀しみも、

血気盛んな功名心も、

その心臓の音を止め、死者となったのだ。


楽器は、奏者によって奏でられない事で、

初めて完璧な音楽を奏でている。

それは天上(ミゼ)調(レーレ)べだ!!


ああ!! 死者の楽器の上を

甲虫が這い、そして語る。


MORTIS CONSOLATIONEM


それと、肥えた黒い蟇蛙(ロスポ)・・

迷い込んで死んだ獣の乾いた毛皮・・


巻かれた羊の臓物は、

遥か昔に朽ちて、

その残骸が時を語る・・


(この(ガット)も昔は

草原で踊っていたろうに・・)


人は静寂の中で・・

すなわち喪失の果てに

ここまで完璧な演奏を成し得るのか?

ならば、生きる事、命とは

歪な雑音に過ぎぬ。


そう、(ポタモン)達が囁く。


遠くへ行ってしまった想い人、

お前の音を聴いてくれた少年、

無力故に救えなかった人々、

皆、死んだ。

今では誰もが石牢の中だ。

ここでは命の音すら嘲りに変わる。


しかし、それでも

朽ちたヴィオラ・ダ・ガンバよ。

お前はあの音にこだわるのだ。

生きる騒音、

失った痛み、

お前達を捨てた者の懺悔と哀しみ・・


どんなに乾いた藻類(ラビリンチュラ)達が夢を解体しようと、

全てが浄化され木漏れ日になろうと、

天上の栄光の音をより高貴に引き立たせるものは

あれらの愚鈍な心臓の音だ。


野放図に伸びた木が剪定され、研磨され、

辛うじて理性のあの形に留められ、

神の姿に焦がれ、

神の姿を真似、

そして崩壊していく・・

我々の血を遠心沈殿するあの音なのだ。

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