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TAMTAM 〜十二使徒連続殺人事件〜  作者: かの翔吾
CHAPTER 2 +++小ヤコブ+++ Jacobus Alphaei
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Ⅲ・5月8日


 告別式の翌日、課長の古村(こむら)に深々と頭を下げた。恩師の告別式に参列するため、早退した事、その()びと礼をまだ言っていなかった。


「気の毒だったな」


 下げた頭に降った、課長のその一言がやけに軽く思えて、詫びと礼に留める事ができず、気が付けば課長に食い下がっていた。改めて深々と下げた頭は、田邑春夫の死の真相について、何らかの形で捜査をしたいという、依頼に伴うものだ。そんな依頼は受け付けられるはずがない事は、重々承知していたが、軽く引き下がる訳にはいかない。


 腰の角度を気にして、更に深く頭を下げる。姿勢を変えず、何度も食い下がってはみたが、課長の返事が変わる事はなかった。


「所轄が違う」


 一蹴(いっしゅう)する一言。しつこく頭を下げれば下げる程、その顔は呆れたものに変わっていく。


「おい、山﨑。お前何かやらかしたのか?」


 ソファにだらしなく寝そべった、晃平から声が掛かる。


 宿直明けでもないのに、ソファを陣取る晃平を見下ろし、わざと大きな溜息を吐いてみせる。


「何もやらかしていませんよ。課長に捜査をしたいって頼んでいただけですよ」


「何の事件だ? うちで何かあったか?」


 出署早々、だらしなく寝そべる姿に見合った、だらしない声だった。そんな晃平を見下ろす顔が、さっきの課長に似た、呆れたものに変わっている事を知りながらも続ける。


「違いますよ。高輪のホテルで発見された変死体の件です」


「高輪?」


 まだ起ききれていないのか、晃平の声が急に大きくなる。ぼーっとした頭で急に声を出すと、その音量が自分でも分からなくなる。今の晃平がきっとそんな感じだろう。そんな大きすぎる晃平の声に、周りが振り返っている。勿論、課長もそのうちの一人で、再びの怪訝(けげん)な顔がこちらへと向いている。


「晃平さん、声でかいですよ」


「あ、すまん。でもなあ、高輪は無理だろ。所轄が違う」


「ええ、課長にも何度も言われましたよ。所轄が違うって」


 不貞腐(ふてくさ)れた顔を作ってみせる。朝っぱらから、だらしない姿でだらしない声しか出せない晃平に、当たり前の事を言われるのがやけに悔しくもある。


「じゃあ、諦めるんだな。でも、何で所轄が違う事件なんか捜査したいんだ? 何か気になる事があるのか?」


 晃平が寝そべるソファに、無理矢理尻を捻じ込み、座らせる。


「高校時代の担任だったんです。昨日葬式で」


「ああ、だから昨日お前早く帰ったんだな」


「そうですよ。それで課長に早退した事の礼を言って、その流れで捜査したいって。高校時代の担任が変死体で発見されたんですよ。しかも金槌で頭を割られて。何でそんな目に遭ったんだろう? って、考えても当然じゃないですか」


 少し荒くなった声が、晃平の目を覚ましたようで、真面目な横顔が映る。


「知り合いだったんだな。でもなあ、所轄が違う俺達には何も出来ない。それはお前も分かっているんだろ」


「勿論ですよ。でもさすがに何も出来ないからって、何もしないって言うのは嫌なんです。高校時代世話になった担任の先生なんですよ」


「まあな。高輪のホテルだっけ? 高輪って言ったら品川の管轄だな。お前、品川に知り合いとかいないのか?」


「品川ですか? 品川には同期もいないですね」


「そうか」


 晃平はそれ以上何も言わなかった。晃平にも品川には知り合いがいないと言う事は、その様子から読み取る事が出来る。そんな晃平に視線を落とすよう、ソファから腰を上げる。捜査として動く事は出来ないが、その死の真相を探ってみる事は、いくら所轄が違っても出来るはずだ。


 (おもむろ)にソファから立ち上がった時、晃平に尻を二度叩かれた。


 それはいつもの事でもあったが、何故か晃平なりの元気づけのようにも取れた。不貞腐れた顔を少し和らげ、晃平へと向ける。その晃平の表情に励ましの色が見え、一歩踏み出す力を貰えたような気になった。

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