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TAMTAM 〜十二使徒連続殺人事件〜  作者: かの翔吾
CHAPTER 11 +++熱心党のシモン+++ Simon Zolotes
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Ⅴ・10月30日


 一晩寝ずに過ごした昨日からの今日だ。


 いや、寝ずに張り込みをしていたのは、一昨日の夜だったか。どっちにしろ、ここ二、三日ゆっくり体を休めた記憶はない。そんな事をふと浮かべながら、ビールを買い込んだ、コンビニの袋を手に、深くベッドに腰を下ろす。


 今日はこのビールを飲み切って、朝までぐっすりと眠ってやる。


 防犯カメラの件はすぐに片が付くだろう。"TAMTAM"を捕まえた訳でもないが、何故か一つ大きな事を、やり遂げた気になっている。それにイスカリオテのユダだ。山﨑が説明するイスカリオテのユダに、一瞬頭を混乱させられたが、ユダは自殺した。殺されてはいない。そうであれば次の殺人はもう起こらない可能性だってある。自分が次の標的になるかもと、頭に過らせた事もあったが、そんな考えは忘れる事が出来る。


——俺は無関係だ。それに祥太だって。


 この生活に、奴の手が伸びてくる事なんてないと今なら言い切れる。


 祥太を巻き込むかもしれない——。


 多摩川で田村慎一の焼死体を目にし、そんな考えに怯えもしたが、一番許し難い事は回避できた。きっと回避できたはずだ。今は缶のタブを引きビールを喉に流し込み、祥太の顔を思い浮かべよう。


 ビールの缶を左手に持ったまま、スマホに右手を伸ばしアプリを開く。


 二日前のメッセージを眺め、顔を少し綻ばせる。


 周りから見れば気持ち悪いと思われる表情かもしれないが、今は一人の時間だ。どれだけ顔を歪ませたって、誰に何を言われる筋合いはない。


『この間はすまない。仕事中で』


 二日前を詫びるメッセージを送る。まだアルコールが回っていない体ではあったが、素直な言葉を吐き出せそうな気になっている。


 そんなメッセージにすぐの返事はなかったが、まだ十九時を回ったばかりだ。仕事をしている時間なのかもしれない。カフェで働く祥太を思い浮かべ、ビールを流し込む。カフェで働いていると言った祥太を、覚えている自分に不思議な感覚になるが、それだけ祥太の存在が、大きくなっているのだろう。


 一本目のビールを飲み干し、二本目の缶のタブを引いた時、テーブルに置いたスマホが、ブルッと震えた。メッセージの受信を知らせるスマホに、慌ててアプリを開く。


『晃平さん、メッセありがとう。こないだは仕事中にごめん。遅くまでお仕事お疲れ様でした』

『晃平さんからメッセもらえるなんて嬉しい』


 祥太からだった。立て続けに届いたメッセージに気持ちが和む。


『今はまだ仕事中?』


『うん。今日は家で仕事です。締切前で忙しくて』


『カフェじゃないんだ?』


『うん。今日はカフェじゃなくて家でお仕事。企業さんの社内報の校正の締切が近くて』


『そんな仕事もしているんだな』


『前に話したよ。晃平さんは何しているの?』


『家でビール飲んでいる』


『お仕事終わったの? ゆっくりしてね』


『ありがとう。今日はゆっくりする』


『あ、そう言えば晃平さんのお誕生日はいつ? 一緒にお祝いしたいなあ』


『誕生日?誕生日は十二月二十五日だよ』


『えっ? うそ! クリスマスなんだ。じゃあ絶対空けておいてね。お祝いするから』


『お祝いだなんて大げさな』


『ダメ、絶対お祝いするからね。二十四日から二十五日は絶対空けておいて下さいよ!』


『ああ、分かったよ』


『やった! ありがとう。じゃあ、仕事の続きします。今日は会いに行けなくてごめんね』


『邪魔して悪かったな』


『全然! 晃平さんからメッセもらえてめちゃくちゃ嬉しかった』


 邪魔にならないようにと、それ以上の返事はしなかった。


 何気ないメッセージのやり取りだけで、こんなにも落ち着いた気持ちになれるもんだと、更に顔が綻んでしまう。一昨日の疲れをビールではなく、祥太が軽減してくれた。今日はこれでゆっくり眠る事が出来るだろう。

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