Ⅳ・10月21日
『私がタダイです。次に殺されるのは私です。あなたではありません。どうぞあなたは心配なさらないでください』
『ハロウィンまで私は生きていませんが、ハロウィンにTAMTAMからプレゼントがあります。あなたはそのプレゼントを楽しんで下さい』
葉佑から見せられた、タムラタクミからのメッセージは二通だった。
タムラタクミが伝えたい事は、きっとこの二点だけなのだろう。その後、何度かメッセージを送ってみたものの、タムラタクミからの返信はなかったらしい。もし本当にタムラタクミがタダイであるなら、熱心党のシモンはやはりサイモン神父なのかもしれない。
何度も見た"TAMTAM"のアカウントに目を落とす。そうなればあと一人。
この"TA/MU/RA/SH"は、誰なんだろうか?
もし四人の中に"TAMTAM"がいるのであれば、この"TA/MU/RA/SH"が"TAMTAM"なのだろうか? もしそうであれば、イスカリオテのユダが晃平だと言うのだろうか。いや、絶対に晃平を死なせる分けにはいかない。
「お、光平。おはよう。やっぱりお前が言う通りだったな」
振り返ると葉佑が立っていた。
捜査本部が置かれているのだから当然の事だが、毎日出署して来るその姿は、日毎この多摩川南署に馴染んできているように思える。
「何の事だ?」
「お前が言っていた文章作法だよ。タダイと熱心党のシモンの殺人予告。今日書き込まれただろ。お前も見たんだよな?」
「ああ」
殺人を冒せる日を、楽しみに待っているだろう"TAMTAM"と同じように、この日をどれだけ待ち望んだ事か分からない。
十月二十一日。タダイと熱心党のシモンの聖名祝日の一週間前。殺人予告が書込まれる日を待ち望み、日付が変わるとともに、何度もチェックをした。殺人予告を待ち望むなんて、自分でも狂っているんじゃないかと、追い込まれもしたが、待ち望んだ殺人予告に指先が震えた。
——十月二十一日
「タダイよ! 斧に首を刎ねられ、息絶えよ!」
——十月二十一日
「熱心党のシモンよ! 鋸に引かれ、息絶えよ!」
文章作法は守られていた。やはりマタイの殺人予告から書き込んだ手が変わったと、考えるのが妥当だろう。
葉佑がソファへ腰を下ろす。すっかり定着した姿だ。開きっぱなしの"TAMTAM"のアカウントに、そんな葉佑の首が伸びる。まだ何も解決していないのに、何か一つクリアさせたような、満足な笑みを浮かべている。
「田村巡査部長はまだご出勤じゃないみたいだな」
満足そうな笑みの理由はそこか? と、一瞬だけ顔を合わせ、スマホの時計を見る。もう少しで八時になろうとはしていたが、まだ二分あった。
「そろそろ来ると思うよ」
晃平を庇う分けではないが、葉佑の態度に少し頭にくるものがあった。
確かに捜査本部は置かれているが、ここは多摩川南署だ。#ここ__・__#には#ここ__・__#の時間の流れがある。客人らしくしろよ。そう怒鳴りそうになったが、晃平の登場に声を荒げずに済んだ。
時計はちょうど八時になったところだ。
「やっぱり山﨑の言う通りだったな」
ソファに座るなり、葉佑と同じ言葉を晃平が口にする。二人とも、今日と言う日を待ち望んでいたのだろう。
「それでだ。まあ、予想通りではあるが、タダイと熱心党のシモンの殺人予告が書込まれた。何度か注意は促したけど、今日またサイモン神父の所に行く事になったよ」
「電話でも注意は聞いてくれているんだろ?」
「いや、まあなんて言うか。神の加護があるから大丈夫だって、そんな感じの回答だよ。それで今日ようやく時間を取って貰えたんだよ。何でもスペインから戻ったばかりで、忙しかったらしくて」
「スペイン? そう言えば、前回行った時、スペインでの研修の話をしていたよな」
「そうだったか?」
——熱心党のシモン。——サイモン。
名前が同じと言うだけで、次の犠牲者だと決めつけるのは申し訳ないが、田村慎一が殺されたように"TAMTAM"にフォローされているだけで充分可能性はある。サイモン神父には細心の注意を払って貰うしかない。
「俺も行くよ。あ、晃平さんも」
「えっ? 俺も一緒に?」
驚いた顔で答えてはいるが、不貞腐れた態度や、面倒臭そうな口調で、答えている分けではない。"TAMTAM"の書き込みを、待ち望んでいたように、晃平自身この連続殺人の少しでも早い決着を望んでいるはずだ。