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TAMTAM 〜十二使徒連続殺人事件〜  作者: かの翔吾
CHAPTER 9 +++マタイ+++ Matthaeus
39/58

3・9月14日

 

 幾ら(あお)ったっていいんだ。テーブルの上に、潰した空き缶を見ながら、冷蔵庫から取り出した、冷たいビールを手にした。有休を使い切れば課長から電話があるだろう。まだ電話が来ないと言う事は、まだ使い切っていないと言う事だ。


——いったい何日休んだんだ?


 長い休みになれば、それはそれで出掛けるのが億劫になる。買い溜めた缶ビールの残りを頭に浮かべる。全部飲み切ったなら、また買いに出掛ければいい。コンビニはすぐそこだ。ビニール袋が指に食い込むほど買い溜めすれば、あと数日はこんな時間を送る事が出来るだろう。


 だらだらとテレビでも見て過ごそう。そう思いリモコンに手を伸ばしたはずが、手の内に収めたのはスマホだった。


 画面に指が触れ、デジタルの数字がぼんやりと浮かぶ。三時六分。夜中なのか? それとも()昼間(ぴるま)なのか?


 カーテンの隙間から洩れる明かりを探したが、見つからない。夜中の三時か。

 何の意味も持たないが、夜中である事にふと安堵する。まだ日が昇るまでには、充分な時間がある。まだ大丈夫だ。幾ら煽ったっていい。


 アルコールに侵された指でアプリを起動させる。そう言えば、また新たな殺人予告が、SNSに書き込まれる頃じゃないのか。幾ら捜査を外されたとは言え、あの連続殺人が気にならない訳ではない。日本中の誰もが注目している事件だ。その内の一人が自分であったとしても、何の問題もない。


——九月十四日 

「マタイよ! 火刑(かけい)に見舞われ斬首(ざんしゅ)されよ!」


 起動したアプリを閉じ、待ち受け画面に戻る。九月十四日。三時二分。書き込まれたばかりの殺人予告に、一瞬背筋が冷たくなる。


——火刑に斬首。相変わらず物騒だな。


 閉じたアプリをもう一度起動する。


 "TAMTAM"のSNSを、しっかりと見るのは初めてだった。いつも誰かのスマホで見てきたアカウント。その黒いトップページに目を落とす。


 左上の円の中には、何度も見てきた画像が貼られている。赤いパーカーの男。フードをすっぽりと被り、顔は隠されているが、フードの下には、きっと田村周平の顔があるのだろう。


 アカウントネームはTAMTAM。白抜きされた名前が目に飛び込む。名前の下には、ただTAMTAM1225@とだけ書かれている。


 十二月二十五日。やはりイエス・キリストなのか?


 @マークのその下。フォロワー、2053558。二百万以上の人間がこの"TAMTAM"に踊らされているのか?


 思わず溜息が漏れる。


 その隣のフォロー数は5。恐る恐るその5と言う数字をタップする。


 やはり自分の名前が最初に目に付くようだ。"KOHEI・TAMURA"。それは自分であり、他人でもある。アカウントだけが知らない所で、一人歩きしている感覚だ。


 タムシン。

 "TA/MU/RA/SH"。

 "TAKUMI1028"。

 "SIMON"。


 四人の名前に並ぶ自分の名前に肩が大きく落ちる。どうだっていい事だと思いながら、どこかでやはり気掛かりだと捉えているのだろう。


——九月十四日

「マタイよ! 火刑に見舞われ斬首されよ!」


 もう一度物騒な書き込みに戻る。


 次の獲物に狙いを定めた、"TAMTAM"の顔が浮かぶ。赤いパーカーの下、眼を見開いた田村周平。

 いや、田村周平は殺された。八人目の犠牲者となった姿をこの目で見たではないか。


——九月十四日 

「マタイよ! 火刑に見舞われ斬首されよ!」


 ゆっくりと画面をスライドさせる。


——八月十七日 

「バルトロマイよ!鞭打たれ皮を剥がれよ!」

——七月十八日 

「大ヤコブよ!剣に首を刎ねられよ!」

——六月二十六日 

「トマスよ!四本の槍に射抜かれよ!」

——六月二十二日 

「ペトロよ!逆さ十字架に磔られよ!」

——四月二十六日 

「小ヤコブよ!槌で頭を破られよ!」

——四月二十六日 

「フィリポよ!十字架に磔られ石打に見舞われよ!」

——十二月二十日 

「ヨハネよ!毒杯に倒れ釜茹でされよ!」

——十一月二十三日 

「アンデレよ!X字型の十字架に磔られよ!」


 残り八つの書き込みを目で追う。


 十二月二十日、ヨハネよ! この一週間後だったのか。新宿のサウナだ。あの日から始まった。あの日、イルミネーションを嫌わずに、真っ直ぐ新宿駅へ向かっていれば、こんな事になっていなかったかもしれない。


 画面に当てた指を、上へ、下へと、何度もスライドさせる。


 ん?


 並べられた九つの殺人予告に、小さな違和感を覚える。ページになのか、文面になのか、どこにあるのかさえ分からないが、確かに小さな違和感がある。だがその小さな違和感が何なのかは、やはり言い当てる事は出来ない。

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