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TAMTAM 〜十二使徒連続殺人事件〜  作者: かの翔吾
CHAPTER 6 +++大ヤコブ+++ Jacobus zebedaei
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Ⅱ・7月15日


『今日面白い会見がある。全部光平の手柄だ』


 朝一番、葉佑から届いたメールは、その意味の全てを、理解出来るものではなかった。面白い会見って何だ? 手柄って何だ?


「晃平さん。昼飯行きましょうよ」


「おお、もうそんな時間か」


 ソファの上で半日を過ごし、まだ腹も減っていないのか、晃平が面倒臭そうに応える。


「ちゃんと昼に昼飯食えるって、幸せな事じゃないですか。さあ、行きますよ。仕事している様子も全くないし」


「ああ、お前なあ」


「飯、行ってきます」


 デスクの上で手作り弁当を広げている、課長の耳にも届くように大きな声を出す。あの弁当が愛妻弁当か(いな)かは興味をそそられるものではない。それでも毎日弁当を持参できる課長が羨ましくもある。


「いつもの所でいいですよね?」


「ああ」


 署を出て二分。電話をすれば出前も取れるが、店にわざわざ足を運ぶのは、息抜きのためでもある。面倒臭がっていた割に先を歩く晃平。その晃平が暖簾(のれん)を分けて、ドアに手を掛けている。


「盛り蕎麦(そば)大盛で!」


「俺、カツ丼で!」


 席に座るなり、カウンターの中の大将に注文を出す。あいよ。と、小さな声が聞こえはしたが、大将がこっちを振り向く事はない。


「何だか物騒な事件だわね」


 大将とは対照的に、社交的な女将さんが、お茶とおしぼりを差し出しながら、背中に声を掛けてくる。


「朝からずっとこの会見しているわよ。刑事さん達も大変ね」


 座敷に置かれたテレビに、女将さんが(あご)を振る。画面の中では警視庁の人間だと分かる数人が、会見を開いている。葉佑がメールを寄越した会見がこれか。


「ん? 何の会見だ?」


 湯呑を受取りながら、晃平が画面へと目を向ける。


「おい、これって? この会見って」


「何ですか?」


 あまり視力が良くない自分には、見えていない文字も、晃平にはしっかりと見えているようだ。


「十二使徒連続殺人事件って」


「そうなのよ。なんでもキリストのお弟子さんに因んで、次から次に殺されていっているんだって。晃平ちゃん達も大変ね」


 カウンターに置かれた(どんぶり)を片付けながら、女将さんが口を挟む。今、画面に映っている会見はリアルタイムで放送されている分けではないらしい。朝からどのテレビ局も(こぞ)ってこの会見を流してきた。女将さんにとっては、朝から何度も見せられた会見らしい。


「山﨑、お前が言っていた通りだな。捜査一課もお前の意見を全面的に信じたって訳だ」


「そうなりますね」


——全部光平の手柄だ。


 朝一番の葉佑からのメールの意味が理解できた。


「先、晃平ちゃんの盛り蕎麦ね。山﨑ちゃんのカツ丼はもうちょっと待ってね」


 差し出された盛り蕎麦に、晃平が早速手を付けている。その手から目を離し、もう一度、音声までは聞こえないテレビ画面に、目を向ける。


「十二使徒に擬えた殺人だって、言い出したのは、この山﨑なんですよ」


 蕎麦を啜り始めた晃平が、女将さんへと首を回している。


「えっ? そうなの? 山﨑ちゃん、お手柄じゃないの!」


 葉佑に続いて女将さんにまで、お手柄だと言われても、清々(すがすが)しい気分にはなれない。ただ手口が分かっただけだ。十二使徒に擬え、聖名祝日に殺害を行っている。どんな奴がこの連続殺人を企てたのか、何一つ手掛かりはない。手柄だと言えるのは、犯人に、この殺人鬼に辿り着いた時だ。


「はい、カツ丼お待たせね。しっかり食べて犯人捕まえてちょうだい」


 いつもよりカツの量が多いカツ丼が、目の前に運ばれてきた。


「あれ? お前も大盛りで頼んだのか?」


「山﨑ちゃんのは、サービスよ」


 カツの量にすかさず突っ込んできた晃平を、女将さんが制止する。


 子供みたいに尖らせた、晃平の口は何かを言いたそうだったが、何も言わず残り半分になった蕎麦を啜っている。テレビ画面はまだ会見の様子から切り替わっていない。五人も殺された殺人事件だ。いや、六人かもしれない。絶対に捕まえてやる。殺人鬼を野放しにしてたまるもんか。そんな意気込みを抱いて、目の前のカツを頬張ってみた。

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