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勇者になりたい魔王様   作者: 神無月仏滅
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7.夢を追うって、聞こえはいいけどね


 現状において、ヴァルが取れる選択肢は大きく三つある。

 

 第一に手持ちの所持品、魔物の素材等を売って当面の資金とする。

 第二にこのまま旅の継続、残った資金で購入した物資で、どうにか次の町までもたせる。

 第三に旅の中断、滞在期間を延長して町で仕事を探す。


 どの選択肢も、ある程度の問題はある。

 まず一つ目。これは単純に手持ちで売れそうな物があまりないこと。物が全く無いわけではない。

 問題なのはここが魔族の国だということ。

 基本的に魔物の素材を売る場合、人間の国より魔族の国で売る方が相場がかなり安くなる。

 というのも、魔族の方が人間側に比べて戦闘能力の水準が高いからだ。


 人間が訓練を積んだ兵を組織して討伐するような魔物も、魔族は狩りの感覚で討伐してしまう。

 勿論、人間の中にも稀に突出した傑物は生まれる。他ならぬヴァル自身も人間なのだ。

 しかし、やはり基本的な戦闘能力において、種族の差は大きい。

 人間の子供が兎を狩るような歳で、魔族の子供は猪を狩る。


 現在ヴァルの手持ちの素材も、魔族の国では二束三文にしかならないだろう。

 

 次に二つ目の選択肢。こちらにはヒポグリフもいるし、次の町まで二、三日もかからないだろう。

 問題は、次の町に言ったところで資金不足は解決せず、結局は問題の先送りにしかならないこと。

 人間側の国まで辿り着けば、手持ちの魔物素材もそこそこの値で売れるだろうし、それまで道中で獣を狩れば食料ももつ。


 一見、大きな問題にはならないように思えるが、この場合人間の国に辿り着いてからが問題だ。

 人間は魔族よりも金に執着する傾向が強い。一々町に入ることすら、関税を払わなければいけない国も多い。

 人間の国では、金もまた身を守るための武器なのだ。金があるから避けられる問題も多い。

 

 単純な心境的な問題として、無一文で踏み入りたくはない。


 そして三つめ。これは言わずもがな。追手がかかっている状況で、その捜索範囲内に留まり続けるのは、いくら変装していても危険が伴う。

 

 

 ヴァルは目を瞑り、それぞれの危険性を静かに熟考しほどなくして結論を出した。


「仕方ない。この町にもギルドくらいあるだろ。とりあえず行ってみて、いい仕事がなければ諦めて出発する」


 人間の国では魔物の討伐を生業とする冒険者なる職業と、それらを統括するギルドという組織が存在するが、それは魔族の国にも同じことが言える。

 人間の中には魔物を魔族の仲間と認識している者も多いが、知性の無い魔物に人間や魔族という区別はない。魔族にとっても、魔物という存在は害獣でしかないのだ。


「ギルドですか? しかし一日でこなせるようないい仕事があるとは……」


「ダメもとだ。運が良ければ素材収集の依頼で、手持ちの素材に良い値が付くかもしれない。無ければ仕方ない、次の町に期待する」


 滞在期間の延長はしたくなかった。

 ヴァルの予想では、早ければ明日にでも追手がこの町に到着しかねない。

 そこそこ大きな町ではあるが、この町の宿の宿泊客を調べるくらいならそれほど時間はかからないはずだ。そうなれば、間違いなく自分たちの存在に気づかれる。


「……わかりました」


 完全に納得したわけでもないだろうが、他に代替案もないからか、スピカも異論を挟むことなく了承した。

 

 スピカとしては、最初から自分の宝石を売るつもりだったからか、それが駄目になった今、自分の行いをようやく失敗として認識したのだろう。

 ヴァルに迷惑をかけたという負い目があるのか、目に見えて意気消沈している。

 それに気付いていても、ヴァルに慰めるつもりはなかった。

 真面目なスピカの場合、下手な気遣いはかえって逆効果になりかねない。

 

「よし、じゃあ支払を済ませるついでにギルドの場所も聞いてきてくれ。お前の方が口が上手いだろ」


 そのかわりに頼みごとをすることで、スピカの気を紛らわせようとした。


「はい、行ってきます!」


 どうやら狙いは上手くいったらしい。

 長い付き合いだからわかる変化だが、強目の語気で返事をして席を立った。


「しかしこうなると、アルヴ王国の情勢を調べてる暇ないな」


 一人になったテーブルでヴァルは、当初の目的からは大分逸れてしまったと独りごちる。

 こういう想定外の事態も旅の醍醐味であるとヴァルは考えているが、追手のかかっている現状楽しんでいる余裕もない。


 実際、都合よく近場でこなせる依頼なんてそうそうないだろう。

 こういう時、ヴァルは自覚してしまう。結局のところ、自分は戦うことしか能がないのだと。

 金策の仕方一つとっても上手いやり方は思い浮かばない。交渉事はスピカに任せきり。


 夢は勇者、収入は不安定、身の回りの世話は人任せ。

 はい、これだけ聞いたら完全に、夢を追いかけ女に寄生するダメ男の図です。


 考えていてヴァルは軽く自己嫌悪に陥った。


「お待たせしました。ギルドの場所も聞いてきました」


「あぁ、ありがとう。あとなんかすまん」


「はい? あの、何がでしょう? むしろ謝るべきは私では……」


「いや、気にしないでくれ。こっちの話だ」


 時間は有限。あまり長く落ち込んでもいられない。

 即座に気持ちを切り替え立ち上がる。


「うしっ、行くか」


「はい



今後の展開どうしようかな~と悩んでいたら、説明的な描写が多くなってしまった。

一応大まかな流れは考えたんで、次からは少しストーリーが進行する筈、と思いたい。多分、きっと、may be.


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