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勇者になりたい魔王様   作者: 神無月仏滅
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4.英雄の伝記、本人からすりゃ黒歴史


 魔族と言っても様々な種族が存在するわけだが、その中で最も多い種族は何かと問われたら、おそらくそれは獣人種だろう。

 というのも獣人という子の種族、その括りがとても広い。

 猫人、犬人、鼠人、はたまた爬虫類に属する蛇や蜥蜴の形質をもつ者まで、言ってしまえばそれら全て獣人種という括りに入る。

 

 加えて言うと、同じ種類の獣人種でもその姿は様々だ。ほとんど人間と変わらず、一部分だけが獣の者もいれば、外見は獣そのもので、知恵を持ち言葉を発する者も存在する。

 

 尤も、今あげたのは極端な例だ。大抵の獣人種は人間の形質と獣の形質、それぞれ大体三割~七割程度で混じり合っている。



ヴァルゼルドとスピカ、二人が到着したのはそんな獣人種が住む町だった。


 



 時刻は昼下がり。

 昨日の逃亡劇の後、夜が明けヒポグリフで空を飛んでいた二人は、荒野を抜けた先、石造りの街並みを見つけ、立ち寄ることを決めた。


「思っていたより、ちゃんとした町があってよかったですね」


「ああ」


 同じ種族でも生活様式が全く異なる場合があるのが、獣人の面白いところだろう。

 人間のように畑や家畜を育て、町や村を形成する者達もいれば、あちこちを転々とし、狩りをして生活する者もいる。


 二人が立ち寄った町は、複数の種族の獣人が入り混じった、ほとんど人間の町と変わらない至って普通の町並みだった。

 いや、むしろ普通よりも賑わっているといってもいい。

 町のあちこちには、食べ物や雑貨の出店が出ており、ちらほらと他の種族の魔族もみられることから、他所の町との交易も盛んなのだろうことが伺える。


「とりあえずは、宿を探すか」


「はい」


 あまりに貧しそうな町であったのなら素通りして野宿も視野に入れていたが、これほど大きな町であれば宿も期待できそうだと、二人はそれらしい建物を探し出す。

 

「それにしても、この程度の変装で大丈夫か?」


 ヴァルは自分の髪に触れながらスピカに問いかけた。

 二人の髪色は今、本来の黒色ではなく金色に染まっている。加えて耳も大分長くなっており、一言でいえばエルフのような姿になっている。ちなみに、スピカの耳は普段から尖っているが、エルフほど長くはない。


 これは町に入る前に変装としてスピカの幻影魔法を使った結果だ。


「仕方ありません。あまり変化をつけすぎると、逆に違和感が出かねませんから」


 所詮、幻影魔法では視覚情報しかごまかせない。体格を変えたとしても実際の動作との差で違和感が出るし、他の種族に変わったとしてもその種族の動きを上手くトレースできなくては意味がない。


 加えて、この町が獣人の町というのもまずかった。大抵の獣人は嗅覚や聴覚といった、何かしらの感覚に秀でている。

 あまり本来の自分とかけ離れた姿になっては、違和感を抱かれる危険も高くなってしまう。


「ここがよさそうですね」


 二人で歩くことしばらく、手ごろな宿が見つかった。

 繁華街から少し外れ、二階建てのその宿はそれほど大きくはなかったが、入り口から覗いてみるときちんと清潔感のある内装で、経営者の気質が伺えた。


「いらっしゃい!」


 中へ入ると受付に立つ女性がにこやかに挨拶をしてきた。

 耳の形と尻尾が生えていること以外、ほとんど人間と変わっらない姿の犬人族の女性だ。年齢は二人よりも少し上、二十代半ばくらいに見える。


「エルフのお客さんとは珍しいね。兄妹で観光かい?」


 そう聞かれ、ヴァルはそのあたりの設定を考えてなかったなと思い、せっかく向こうがそう思ってくれたのならそれに乗っかろうかと口を開いた。


「あ――」


「いえ、夫婦です」


 しかし「ああ、そうだ」とその一言を口にする前にスピカが素早くヴァルの腕に抱き付き、声を被せてきた。


「ですから、同じ部屋で大丈夫なのですが、一部屋空いてますか?」


 横目にヴァルが「おいコラ」と抗議の視線を送るが、どこ吹く風で話を進めていく。

 幸い受付嬢もヴァルの視線を恥ずかしがっているものと解釈してくれたらしい。微笑ましいものを見るような顔をしている。


「あらあらあら、随分と初々しい夫婦さんね。そういうことなら、今日は人も少ないし、隣室が空いている部屋に案内しましょうか?」


「はい、ありがとうございます」


 頼んでもいないのに余計な気を回す受付嬢に、恥ずかしがるでもなくむしろ食い気味に返事をするスピカ。

 もう好きにしろよと呆れるヴァルをよそに、女性陣は二人で手早く受付を済ませていく。


「文字は書ける?」


「はい、大丈夫です」


 差し出された台帳に、スピカは名前と宿泊希望日数などを書いていく。


「名前は、ピルカちゃんとゼルディ君ね」


 記入したのは勿論偽名だ。

 追手がかかっているのに馬鹿正直に本名を出す真似はしない。



「あら、一泊でいいの? 観光ならゆっくりしていけばいいのに」


「そうしたいのは山々ですが、ここには旅の途中で寄っただけなので。路銀に余裕があるわけでもないので、少し休んだら出ていくつもりなんです」


「へぇ~、ちなみにどこに行くつもりなの?」


 朗らかな表情の中、何故か女性の声に探るような気配が浮かんだのを二人は見逃さなかった。

 何か返答を間違えたか、と思ったスピカだったが、しかしそこで焦りを見せるへまはせず、淡々と質問に答える。


「東のオルゴスに向かうつもりです。両親がそこで働いているので、結婚の報告に行くところだったんですよ」


 実際には今まさにそのオルゴスから逃げてきたのだが、あえてそこを目的地と偽った。

 一応町に入るときも、外周を迂回し北門から入ってきたので、仮に後から入った経路がわかっても怪しまれることはないだろうと考えてのことだ。


「あら、そうなの。それは、なんていうか間がいいのか悪いのか、大変な時期が重なっちゃたわね」


 女性の声から警戒が消え、代わりに同情するような感情が浮かび上がり、スピカは静かに安堵した。


「大変、ですか?」


「ああ、旅をしてたのなら知らないわよね。最近魔王が代替わりしたのよ」


 知ってるどころか完全に関係者です。とは勿論答えず、スピカは目を見開いていかにも初めて聞いたという表情を作った。


「魔王様が、ですか?」


「驚きでしょう? それも、倒したのは一人の若い人間の男だっていうんだから」


「それは……本当なんですか」


 スピカはいかにも信じられないという様子で聞き返す。

 ちなみに横では『白々しいな~』とヴァルが遠い目をしている。


「信じられないような話だけど、間違いないわ。なんせオルゴスの宰相様直々に、各地に通信魔法で知らされたらしいもの」


 通信魔法を使うには、それ専用の魔法道具が必要となるが、人間の国でも魔族の国でも、通信用の魔法道具というのは貴重で、基本的に都市や村など各集落における主導者しか使えないことになっている。


「なるほど。けど、その割にはこの町はあまり混乱していないようですね。むしろ賑わって見えます」


 このあたりは、ヴァルもスピカも本気で疑問だった。

 実のところ、ヴァルが前魔王を倒したのは僅か十日程前のことだ。その間に前魔王派の残党の処理や騒ぎの鎮静を行っていたわけだが、ある程度落ち着きを取り戻したのは首都圏だけのこと。

 近隣の他の集落などはまだ混乱しているだろうと予想していた。


「まぁね。一応数日前に知らせが届いた時はそれなりに沈んでいたのよ。先代の魔王は横暴だったとはいえ、いきなり統治者を失ったんだもの。けど、今朝の新聞で不安をよそに皆大はしゃぎよ」


「新聞?」


 昨日の今日で話題になるような内容として、二人がパッと思いついたのは自分たちが逃亡した騒ぎの件だ。しかしそれで町民の不安が消えるとも思えず、いったい何が書かれているのかと興味がわいた。 


「ほら、これ」


 女性はちょうど近くに置いてあった新聞を手渡してくれた。

 スピカが新聞を開き、ヴァルも横から覗き込むと、でかでかとした見出しが目に入った。


『新たな魔王、ヴァルゼルドの功績!』


 一瞬にして、ヴァルの目が死んだ。

 スピカの目は獲物を見つけた獣の如く、鋭く光った。



 そこに書かれていたのは、ヴァルがこれまでの人生で成してきたことの数々、主に魔族側にとって美談に見える話が綴られていた。


 飢饉に苦しむ村の援助や、魔族根絶を掲げる過激な宗教団体の壊滅。

 行方不明の子供の捜索や、魔族を商品として扱う犯罪組織の撲滅。

 ある部族内おける抗争の仲裁や、魔族領に攻め込もうとしたとある国の軍隊の殲滅。


 他にも幾つかの部族と友好を築いた話や、魔王討伐に至った経緯、実際に助けられた者の声など、所狭しと書かれている。

 

 これが全く身に覚えのないでまかせばかりであったのなら、憤慨もしようものだが、残念ながらヴァルはほとんどの出来事に対して覚えがあった。

 ついでに言うとどうやって調べたのか、本人ですら忘れていたような子供の頃の話まで、ご丁寧に書かれている始末だ。

 ヴァル自身としては過去の自分の行動に後悔などない。しかしながら、こうも自分の過去が赤裸々に晒されているとなると、本人も理由はわからないが羞恥心を感じてしまう。


「こんなに素晴らしい人なら、新しい魔王様として申し分ないだろうって、皆大喜びさ」


 この賞賛の声も、現在進行形で逃亡中の魔王その人からすれば皮肉にしか聞こえない。


「いや、けど……ここに書かれてること全部が本当とは限らないんじゃないのか?」


 ヴァルは引きつりそうな声で問いかけた。

 実際のところ、事実であることは否定できない。しかしながらヴァルは魔族贔屓の人間ではない。魔族を敵に回して人間の味方をしたことも数多くあるし、この記事をそのまま真に受けられるのは本人にとっては甚だ不本意だった。


「まぁ、それを言われたら否定はし切れないんだけどねぇ……」


 それに対し、どこか気まずそうに受付嬢はポリポリと頬を掻く。 

 ヴァルがその反応に疑問を感じていると、ふと横でスピカの声が上がる。


「あっ」


 何かに気が付いたようなスピカの声に、再び新聞へと目を落とすヴァル。

 スピカが記事の一部分を指し示すと、そこにはこのようなことが書かれていた。


『嘗ての魔王ブケイロスは最早いないが、彼の残した爪痕は大きい。新魔王ヴァルゼルド様はこれを憂慮し、此度の魔王就任に伴い大幅な減税と、各地へ慰労の為の支援金を送ることを決定した』



「……なるほど金か」


 どんな優れた手法で民の不安を消したのかと思えば、要は金で解決である。

 白けたようなヴァルの視線に対して、受付嬢は誤魔化すように笑みを浮かべた。


「あはは、や~新しい魔王様は私たち庶民のことも考えてくれる素晴らしい魔王様だよ~」


 何とも現金な話である。

 勝手に名前を使われたことに対して、怒りよりも先に呆れが浮かんぶのだった。



 

 

 




 

どうにか14日中に投稿できた。


軽く、今までに書いた話を読み返したけど、我ながら駄文過ぎて嫌気がさす。

修正したいなーとは思うが一度直し始めたらきりがなくなって話が進めなさそう。


とりあえず勢いで話を進めるだけ進めてから考えることにしました。


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