2.勇者が王様にになるのは鉄板
「そこで、魔王を倒そうって発想になったあたり、すごいですよね」
「……仕方ないだろ。懸賞金まで懸けられてどんな弁解をしても聞いてもらえなかったんだ。魔王を倒せるのは勇者だけ。つまり魔王を倒せば一発逆転で勇者として認められると思ったんだよ」
夜の荒野で、薪を囲む二人の人影があった。
一人は先ほどまで魔王と呼ばれ追われていた青年、ヴァルゼルド。もう一人はその青年を先頭で追いかけていた少女スピカだ。
「その結果、新しい魔王に祭り上げられて、完全に裏目裏目ですね。あの魔王、部下にも大分嫌われてたみたいですし、他の魔王を倒したほうが良かったんじゃないでしょうか?」
「……魔王だからって、何の悪事もしてない奴を倒すのは勇者らしくないだろ」
魔王はこの世に七人存在し、それぞれが支配する領地を持ち、その領地に住まう魔族を統べる役割を持っている。
魔王と聞けばいかにも恐ろしいイメージがあるかもしれないが、別段全ての魔王が人類に敵対的な意思を持っているわけではない。
勿論中には人類を敵視し、滅ぼそうと考えるような者もいる。
ヴァルゼルドが倒したのもそんな魔王の一柱だ。
「聞いた話じゃ、あの魔王、部下を生贄にした禁術も開発していたらしいですし、彼らにとってヴァル様は救世主に見えたのでしょう」
「だからって、ああも追いすがられても困る。お前、ちゃんと撒いてきたんだよな?」
「はい。先導するふりをして途中、全くの別方向に誘導しました」
ここまでの会話を聞くとわかるだろうが、魔族の先頭に立っていた、スピカというこの少女、最初からヴァルとはグルである。
どうして一緒に逃げず追いかけるふりなんかしていたかというと、理由は簡単。スピカの足ではヴァルの速度に着いてこれないからだ。
「こんな周りくどいことしないでも、別々に出立してあとから合流すればよかったんじゃないか?」
面倒くさそうにそう言うヴァルに対して、スピカは首を横に振る。
「その場合、察しの良い方たちは私に監視をつけて行く先を探ろうとしたかもしれません。ヴァル様の魔王就任に賛成していたから、警戒も薄れてこうして抜け出すことができたんですよ」
「……残った連中はお前が戻らなくて、余計心配してると思うけどな」
「ならご一緒に戻りますか? 私としてもそうして頂いた方がいいのですが」
「無茶言うな。こっちは勇者になる訓練は積んでも、王様になる訓練なんかしたことねぇぞ」
「魔王を倒して王様になるというのも、物語的に鉄板な勇者展開と思いますが」
「その王様が魔王じゃなければな! 大体、そういう勇者展開、俺は求めてねぇの。政治の知識もないのに王になったって碌なことにならんわ!」
「ヴァル様ならどうにかなりそうな気もしますが」
「……お前、俺のこと買い被りすぎ。無責任に請け負って不幸になるのは周りなんだからな」
疲れたようにため息を吐くヴァルであったが、その様子を見ていたスピカは対照的に嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……フフッ」
「名に笑ってんだよ。おかしいこと言ったか?」
本人に自覚はなかったのだろうが、スピカは気づいていた。
ヴァルが魔王と呼ばれたくないのは、あくまで自分に勤まらないと思っているからであって、魔王という称号そのものに嫌悪感は抱いていないことに。
「いえ、ヴァル様のご自由になさればいいと思いいますよ。私はあなたについていくだけですから」
「別に無理についてくることないぞ。お前なら城で要職に就くこともできるだろ?」
「……ヴァル様は、私を捨てられるのですか?」
スピカは目に涙をためて上目使いにヴァルを見上げる。
その仕草が八割方演技であることをヴァルは見抜いていたが、残り二割は本気で不安と悲しみが混じっていることも見抜いてしまった。
僅かでもそういう気持ちを感じ取ってしまえば、無下には扱えないのがヴァルゼルドという男である。
「い、いや、捨てるってことじゃなくてな、俺についてくると色々苦労することになるだろうし、自由に生きる権利はお前にもあるって話をだな……」
「フフッ、冗談です。わかっていますよヴァル様のお気持ちは。けど、これは私の自由な意思で決めるです。だからそのようなことは仰らないでください。わかっていても少しは寂しいのですから」
「……すまん」
「許します。それで、当面はどこを目指すおつもりですか?」
「ああ、とりあえずは、西だな」
「西、ですか。そういえばアルヴ王国で不穏な動きがあると言っていましたね」
「ああ、ひょっとしたら俺が魔王を倒したってことで、人類側の情勢にも影響が出てるのかもしれないしな」
「少し遠いですね。普通に歩けば数か月はかかりますが……」
「ヒポグリフもいるんだ。走れば二、三日でつくだろ」
二人の視線の先には、ヴァルを追うのにスピカが乗っていたヒポグリフが寝ている姿があった。
「どんなペースで進むつもりですか。この子はヴァル様と違ってか弱いんですよ」
ちなみにヒポグリフという魔獣は、魔法も使えない兵士くらいなら十人くらい纏めて蹴散らせるだけの力は持っている。断じてか弱いという表現が当てはまる存在ではない。
「二人も乗せるとなると、長時間は飛べません。途中、町での補給も考えると、せめて一週間は頂かないと」
「あ~、そんなもんか」
頭の中で地図を描きながら、自分の感覚がずれていることを自覚して頭を掻くヴァル。
そんなヴァルに対し、スピカは頭を下げた。
「……申し訳ありません。ヴァル様一人ならこれほど時間はかからないのに、足を引っ張ってしまい」
「別にそんなことは考えていない。お前には色々助けられてるし、逆に俺が迷惑をかけることだってあるだろ。一々気にするな」
「わかりました。この分は他で挽回して見せます」
「まぁ、程々にな」
真面目なのは美徳であるが、スピカという少女は少し責任感が強すぎるきらいがある。
ヴァルはもう少し気を抜くようにという意味で、言葉をかけたのだが、正しく伝わったかは疑問だ。
「そもそもの話、不穏な動きがあるって言っても、それだけじゃ具体的な事がわからん。道中で情報を集めながら行くのもいいだろ」
「確かにそうですね。明日の夕刻までには近くの町に着くでしょうし、明後日は情報収集と補給に当てましょうか」
「ああ。それじゃあ今日はもう寝るぞ」
「はい、お休みなさいませ。ヴァル様」
「ああ、お休み」
一応次の話も書きあがってはいる。自分にしては早いペースですわ。
完全に勢い任せ。もはや駄作になろうが構うものかという開き直りが、筆を軽くしてくれる。
次回投稿は明後日12:00予定。