Vendetta.2 異変
「こうして私のスキルによって難なく籠一杯に薬草を集めたとさ」
「説明口調やめて」
森に入って約2時間。そろそろ太陽が頭上に来るだろうかと言う程度の時間には、ヨゥちゃんの言う通り僕は薬草が詰まった籠を背負っていた。
「それにしてもやっぱりヨゥちゃんはすごいなぁ。僕1人じゃ1日かかっても無理だったよ」
「んへへ〜。 褒めて褒めて〜」
「愛された者はやっぱ違うって事かねぇ」
要望に応じヨゥちゃんの頭を撫でつつ、そんな事を呟いてしまう僕。笑顔だったヨゥちゃんは僕の呟きに対し、急に無表情になる。
「そう言う言い方嫌い」
「えっ⋯⋯と⋯⋯?」
「ユウと私が違う生き物みたいに言うのやめて」
「⋯⋯ごめん。でもやっぱ思っちゃうのはしょうがないよ」
「⋯⋯馬鹿」
そう言うとヨゥちゃんは僕の手から逃れ、村へ向かって走っていってしまう。
感謝の言葉も伝えず、僕は何を言っているんだ。早く追いついて謝らないと。
そう考えてヨゥちゃんが走り去った方向を見据え、走り出そうとした瞬間。
耳を塞ぎたくなる様な金切り声。
この声は⋯⋯ヨゥちゃん? そう頭に浮かぶ間に僕は籠を放り出し走り出していた。
◇──────────◇
side:ヨウ
「ユウの馬鹿。大馬鹿」
スキルを持つからなんだと言うのか。スキルを持つから偉いのか? 神か何かになったわけでもあるまいし。
私は突然のユウの呟きと、一方的にユウに怒りをぶつけ走り去ってしまった自身への怒りを上手くコントロール出来ずに村へ向かい走っていた。
「ユウの馬鹿。⋯⋯私の大馬鹿」
愛された者と愛されぬ者。構造上に違いはないのに、持つ才能のせいで元々一つの人種だった人間は、二つに分けられた。
昨日今日の話では無く、この世界ではそれが一般的な概念だと言う事は理解しているけど。
好きな人からそういう言葉を聞くと⋯⋯辛い。
こんな事なら⋯⋯。
「こんな事ならスキルなんて要らなかった。私は愛されたくなんてなかった」
不意に足を止めそう漏らした私の呟きは誰の耳にも届くことのなく⋯⋯。
「おいおいおいおい。そいつは聞き捨てならねぇなぁ?」
「!?」
突然隣から聞こえた声に驚き、声のした方向へ身体を向ける。
「せっかく稀少なスキル持ちがいるって話でよぉ、こーんな辺鄙な村まで来たと思ったら、天上批判する愛された者を見つけちまうとはなぁ」
「お前⋯⋯どこから⋯⋯?」
視線を向けた先にいたのは、身長180は有りそうな赤髪の男。高身長な背中を覆うかの様に背負っているのは、大剣⋯⋯だろうか。
「どこからぁ? 俺はずっとここにいたぜ?」
「嘘。来る時にはいなかった」
「⋯⋯すぐバレる嘘なんてつくんじゃねぇなおい。言葉の無駄だったわ」
「それでなんの用?」
「用? あーそれな」
男がそう言った直後四肢に痛みを覚える瞬間、私の視界は男の靴を捉える高さまで落ちていた。
「あ⋯⋯?」
「目的はアンタの勧誘。ただついさっき最優先事項が出来ちまったからなぁ」
男はその場にしゃがみ、私の頭を髪ごと鷲掴みにすると言い放った。
「天上批判者の粛清及び矯正⋯⋯ってな」
男の言葉を聞き終える前に、私はすぐ近くから耳を塞ぎたくなる様な金切り声を聞いた。
⋯⋯ああ、なんだ。この声は、声を出しているのは、私じゃないか。
side:ヨウ END