プロローグ
悲鳴が聞こえたんだ。
幼馴染のあの子の。
耳を塞ぎたくなるような、高い高い金切り声。
僕は走ったよ。
仕事なんてほっぽり出して。
午前いっぱい使って籠一杯に集めた薬草を地面にぶち撒けて。
母さんと婆ちゃんに怒られるとか、そんなことは頭に無かった。
1分1秒早くあの子の元へ、行かなくちゃいけない気がして。
そうして出会った。出会って、しまった。
天に愛されし、簒奪者どもに。
◇──────────◇
「母さん、流石にこの籠一杯に薬草を取ってくるなんて、無茶じゃないかな?」
僕は地面に置いた籠を指差し、母さんに抗議する。
背丈170cmと少しの僕の腰ほどまでの大きさで、こんな物を草葉で一杯にするなんて、とても1日じゃ終わらない。
「あら? 別に貴方だけでやる事はないのよ? あの子にお願いでもしてご覧なさいな」
「あの子って⋯⋯ああ、ヨゥちゃん? 草集めの為にヨゥちゃんにスキルを使わせるのはなぁ⋯⋯」
話に出てきたヨゥちゃんとは、幼馴染の女の子の事で、周辺の草木とコミュニケーションが取れるというスキルを持っているんだ。
スキル。
所謂神様から授かる才能のような物で、身体能力、果ては第六感に作用するぱっと見では分からないものまで、様々な形で現れる。
これまで確認されている限り、ほぼ全ての人間に共通して言えるのが、スキルは1人に一つ。2つ以上を持つ人は基本的にはいない。
ただ、稀代の大英雄や王都に住まう英雄達は2つ以上のスキルを持っているという噂だ。
ちなみに僕はスキルを持っていない。この世界でスキルを持たない者は、愛されぬ者と呼ばれ哀れみの視線を送られる。
まあ、生まれてこの方スキルが無くて不便に感じたことも無いし良いんだけどね。そもそもの評価・比較基準が無いっていうのもあるんだろうけど。
「ユウ?」
「⋯⋯んぇ?」
「んぇ、じゃないわよ。いきなりボゥっとしてどうしたの?」
「あぁ⋯⋯ごめん母さん、考え事」
「⋯⋯まあ良いけど。さっさとヨゥちゃんに頭を下げて薬草取りに行ってきなさいな」
「わかったよ」
急かす母さんに背を向け、用意された籠を背負い込み家を出ようとする。
「あ、そうそう。 手伝って貰ったらヨゥちゃんにお昼をウチで食べるように招待してきなさいな」
「んー」
そう追加で言う母さんに、後ろ手で手を振り了解の意を伝えつつ今度こそ家を出る。目指すはお隣のヨゥちゃんの家、自分の仕事のために女の子に頭を下げるのは憂鬱だなぁ⋯⋯。