組合掌握
祭り前日、組合本部の人間がやってきた。
俺とセバスチャンも丁度組合で最終調整を行なっていたところだったので、そのまま顔合わせとなった。
「お初にお目にかかります陛下。私レイナード王国組合本部長を務めております、ワイトと申します」
ゴリゴリのムキムキが丁寧な挨拶で膝をつく。
違和感しかねぇ。
「ご丁寧にどうも。国王のケンです。しゃべりづらかったら元に戻していいですよ」
「えっ? いいの?」
「ダメです。お初にお目にかかります陛下。副本部長のパーチュと申します」
「いいって別に。小さい国だし」
「ほら、国王もこう言ってるし………」
「申し訳ありません陛下。教育が行き届かず」
「よろしく。ミヤジマ支国にようこそ。取り敢えず落ち着く場所で話しましょうか」
俺たちは外のガゼボに移動する。
冒険者がくつろいでいたが、シッシッとやったらワンと吠えて逃げていった。
「今の冒険者は………」
「よくここで飲んでる野良です。お見苦しいところをお見せしました」
「すげぇな。組合員より冒険者を手懐けてる」
「まあ取り敢えず座って。セバスチャン」
「準備しております」
「………!!なんだあいつ。やべぇオーラが出てる………」
「ただの執事でございます」
お祭りなので昼からビールだ。
セバスチャンもよく酒だと分かった。
「プハッ冷えててうめぇ!! なんだこれ!!」
「たしかに美味しいですね」
「それがあれば冒険者もイチコロですよ。ホラ!! おいで!!」
冒険者が走ってきて、俺に敬礼する。
ビールを渡すと、飲みながら俺の後ろに付き、本部の人間に睨みを利かす。
「俺一応冒険者のトップなんだけどな」
「これは勝てません。諦めましょう」
「………で、独立しましたけど、いかがですか? その後」
「魔法国にも大きい顔されなくて済みますし、助かっています。素材の販売益も上がりました。ありがとうございます」
「それは良かった。ですが、そのうち魔石や素材に税金がかけられてしまうかも知れません。その対策もお話しできればと思います」
「そういうのはパーチュに任せてる」
「これは頭が悪いので、私が代表して引き受けさせていただきます」
対策と言っても、素材は取引を一時ストップして俺が全部買い取り、魔石は俺の国だけ値段そのままの取引を続けて、レイナード王国は値段を暴落させるだけなのだが。
「それだと、レイナード王国の組合が破綻しませんか?」
「いえ、冒険者自身にこの国へ来てもらいます。
魔石の持ち込みすら制限するようなら、みんなここへ来るでしょう。そしたら組合員もここへ呼んで、この国で養います」
「それで王国は税金を余計取れなくなり、税金を撤廃するしかなくなると………」
「その間は、森の魔物も減るかも知れませんが、それでも枯れることは無いでしょう。当分は養っていけます」
「さすがですね………」
「自分は食材を卸してもいいですし、仕事を振ってもいいです。戦争も問題ありません」
「まさに冒険者の楽園………」
「マジで楽園だな!! おかわり!!」
「他にもいいお酒ありますよ。ドワーフ王国に卸してるいいお酒が」
「マジで!? 俺もう帰りたくない!!」
「本部長も落ちた………」
ということでミヤジマ支国は正式に冒険者組合のバックに付き、これからも運命共同体として活動していくことが決定した。
チョロいぜ。
今回逃げる冒険者には俺がギリースーツと非常食を渡し、顔や手も迷彩に化粧を施している。
10mも離れればそこにいると知っていても見つけられないくらいにはした。
組合員にはやり過ぎだと言われたが、やり過ぎぐらいでちょうどいい。
魔物を見つけるよりも簡単では意味がない。
夜はみんなを連れて旅人亭で組合の皆さんと親睦会を開いた。
外では冒険者も大騒ぎしている。
「それでは祭りの成功を祈って、乾杯!!」
「「乾杯!!」」
「本部長!! どんだけ飲むんですか!! 来てからずっと飲んでるじゃないですか!!」
「俺はもう帰らんぞー!! ここで本部長になるんだー!!」
「あのおじちゃん面白ーい!! 冒険者さんと同じこと言ってるー!!」
「大きくなってもああなっちゃダメですよ」
「「はーい!!」」
「もっと酒もってこーい!!」
祭り当日、みんな配置についたので、祭りの開催をマイクで発表する。
「この国の国王、ケンだ。この挨拶の後から、捜索大会がスタートする。範囲は湖から10km圏内、隠れている人間の背中についている紐を取った人間が次の逃げる役をやる。最後まで残っていた人間には賞金1万fと最優秀探索者の称号、後俺からこの祭りの間、酒の飲み放題を約束しよう。お前ら!! 酒が飲みたいかぁ!!」
「「おぉ!!」」
「大会スタートだ!!」
ファーーーーーーー!!
車のクラクションを合図に冒険者が散っていく。
取り敢えず休憩で冒険者が戻ってくるまで屋台は暇になるので、ワイトさんとパーチュさんを連れて屋台や湖を案内する。
子供たちも本部の人間や支部の人間を案内するようだ。
「きれいな湖ですね」
「なのであまり開発していません。半分はそのままにするつもりです」
「飯も旨いし、酒は最高だ!! こりゃあ冒険者も集まるわ」
「皆さんが泊まってる旅人亭も今は人がいっぱいで、普段は部屋が取れないです」
「宿のご飯も美味しかったです。組合員の大部屋も狭いことを除けば快適だと言っていました」
「あそこはしょうがなく拡張しましたから。ここが自分の家ですね」
「ウワァ!! なんだこれ怖ぇ!!」
「魔除けの生首ポールですね。欲しかったら売りますよ?」
「………結構です。それより豪邸ではないんですね。国王なので大きい豪邸に住んでるかと思いました」
「まあ小さい国なので、いらないですね。ここに子供6人と男5人で住んでます。結構パンパンですよ」
「子供も多いですね。どなたかのお子さんですか?」
「6人は孤児ですね。拾いました」
「冒険者には孤児も多いからな。ケン様が好かれるのもあるんだろ」
「こっちには稽古場も森の中にありますよ。あとは川の下の村に女性を買う所もあります」
「来る途中にあった村にですか? なんでまた」
「人通りが多いところに作っても来ないでしょ。それに下の村にも稼がせないと」
「なるほど。よく考えていらっしゃる」
「俺たちも後で行こう!!」
「………お一人でどうぞ」
「………ついでに道場も見ていきますか?」
道中の手入れされた森を紹介しながら歩き、道場へ。
そこで庭を見せて、パーチュと冒険者の老後について話す。
手に職を持っていない冒険者は老後あまりいい生活を送れないようだ。
組合でも裏で魔物を解体するような仕事を紹介したりするらしいが全部の冒険者を救えるわけじゃないそうで、頭を悩ませているらしい。
「うちで引き取りましょうか? 多少体が動くなら十分仕事は紹介できますよ」
「ほんとか!?」
「まあ素行が悪かったら追い出しますが、そうでなければできることは多いです」
「それで十分だ!! 冒険者の老後が安定するだけでもみんな安心する!!」
「じゃあ年金なんかつくったらいいんじゃないですか?」
「ネンキン?」
例えば下級は稼ぎが少ないが中級上級は依頼毎に1fでも2fでも組合が集めて、老後の冒険者に毎月少しでも渡せるようにすれば、給料が安くても生活の足しにできるし、冒険者が老後が不安だったら文句も出ないはずだ。
「なるほど、良いかも知れませんね。それなら冒険者も払ってくれると思います」
「あとはケガした時治療費が安くなるよう保険を作っても良いかも知れません」
「………詳しくお願いします」
そこから、老後に下級の指導をさせたり、特定の魔物に対する講習会なんかを開いたりいろいろ意見を出して、会場に戻った。
本部長の方が熱心に聞いていたのは、本部長が本部長たる所以なのだろう。
会場に戻ってきたが、鬼は今日はまだ見つかっていないようだ。
これでもう見つかってしまっては困る。
あとでセバスチャンに差し入れでも持っていかせよう。
冒険者が見つていないのにセバスチャンが見つけたらビックリするだろうな。
冒険者も祭りを楽しみながら行動しているようだ。
みんな帰ってきたこれからが大変だ。
急いで物資を補充しないと。
「3番! ビールが切れました!!」
「2番はウイスキーです!!」
大量の酒を補充しながら、俺は酒売り場で指導をしている。
氷の消費も激しい。
ここはバカルディの151を召喚しよう。
グラスで飲めば1杯でおねんねだ。
トイレがゲロでヤバいらしい。
急いで向かい、ホースで冒険者ごときれいにする。
足に縄を括られて外に引きずり出されていった。
なんのために下水管太くしたと思ってる。
24時間水が流れ続けるうちの水道設備はとても優秀だ。
飲んで暴れる奴は木に縛り付けておけ。
手が付けられない奴は投げっぱなしスープレックスで強制入眠だ。




