店の雰囲気
「雇える金がない」
「給料じゃないですが、ここの部屋を借りるというのはどうですか?」
「そんな条件で良いのか?」
「給料は利益が出たら、で結構です」
そうして俺はここの宿屋の接客兼アドバイザーとして働くことになった。
詳しいことは次の日として、その日はこれから自分専用となる部屋へ案内された。
ユマとユナは寝てしまったようでオッサンが案内してくれる。
部屋に入って明日からどうするか考える。明日から収入は無くなるが、住むところが安定したのは大きい。
まずは外観を直すのと、オッサンの強面をどう持っていくかを決めないと。
オッサンも元冒険者で、安く腹一杯食べられる店というコンセプトは変えたくないらしい。
そしたら席数や回転率をあげるか、儲からないが客が安定して入る程度で収めるかも決めないといけない。
いろいろ考えるうちに、気づけば寝てしまった。
翌朝起きて裏の井戸へ行き、さっぱりしてから厨房へ顔をだす。
「お早うございます」
「朝飯ももうすぐできるから待ってろ」
「おはよ~」
「よ~」
双子も起きてきたようだ。一階の家族が使う部屋で一緒に朝ごはんを食べて、今日からここで働くことを伝える。
「ここで働くの?やったー!」
「やったー!」
朝から元気な双子を見ると、こっちまで元気が出てくる。
とりあえずオッサンに昨日考えた内容を伝える。
「店の外観をきれいにするってそんな金ないぞ」
「無いなら自分たちでやるだけです!」
表に出て外観を改めてよく見る。
シンプルな形だが看板以外何も無く、入りづらい。できればもう少し暖かみが欲しい。
まず、ボロい感じを味がある感じに変える。わざわざ改修まではやらない。
入り口の横に値段表を木に書いて打ち込み、安い店ということを宣伝する。
ついでにエールは最初の一杯3fと割引サービスも始める。
オッサンのサービスが悪いなら、値段でサービスする。
看板と入り口の間にランタンを吊し、夜になったら灯して暖かみも持たせた。
次に内観だが、行きなりオッサンが出てくるのが怖いのであれば、最初から見せてしまおうと考え厨房のドアを撤廃、オッサンには髭剃りを毎日してもらい、服装も清潔感があるものにした。
「無理にしゃべらず、職人堅気な、昨日自分としゃべった自然な感じでお願いします」
「そんなんでいいのか?」
「敬語も無理に使わなくていいです。ただお客さんがお腹一杯で楽しく飲めることだけ考えてください。冒険者の後輩を見るような感じで、声だけは明るくお願いします」
「…わかった……あいよ!」
「そうです! その感じの方がいい料理作りそうな感じが出てますよ!」
「そうか! しゃべり方は関係ないと思うがな…」
「雰囲気です! 知らない人と食べるより、仲間と食べてる方がいいでしょ?」
そうしてお昼時になると早速はじめてのお客さんが入ってきた。
「こんな所に店あったんだな」
「本当だな! よく通ってたのに気づかなかったぜ」
俺が接客する。
「いらっしゃい! 2名でいいかい?」
「おうよ!腹へって死にそうだぜ!」
席に案内してから、注文を聞く。
「肉と魚、どっちにする?」
「俺は肉で」「じゃあ俺は魚」
「肉1と魚1!」
「あいよぉ!」
やはりこの方が雰囲気が出ていて活気がある。あのガタイなら武骨なほうが性に合っている。
「入り口から見えたんだが、ここの料理人でかくねえか?」
「そりゃあ元冒険者だからね。俺も冒険者なんだが、金に困ってるところを雇ってもらったんだ」
「そりゃあでけぇはずだ」
「お客さんが怖がっちゃうけどね。それと今度から最初の一杯目のエール3fにするんだ。良かったら来てくれ」
「そりゃあいいな!」
言ってる間に料理ができたようだ。料理を運んで様子を窺う。
「うめぇな!」
「それに量も多い! こりゃいい店見つけたな!」
厨房を覗くと、ダニエルは恥ずかしいのか怖い顔ニヤケ顔の狭間をさまよっていた。