グスタフ祭り開催
セルゲイ王が帰った。
馬車を引く馬がつらそうだったが、町で馬を増やす予定らしい。
そりゃあパンパンに酒載せていったからな。
これからは週1で買い付けに来るそうだ。
馬車5台で。
ついでに国の名前と国旗もまとめて王都に送ってくれるようだ。
バカルディの151を箱でプレゼントしておこう。
75度のラムでメチャクチャ強い酒だ。
俺は昔7ショットで記憶を飛ばした。
ドワーフなら喜んでくれるだろう。
運営を始めた冒険者組合を見に行く。
営業はしているようだが、依頼は今日馬車で冒険者と一緒に来るらしい。
あまりに暇そうだったら俺も客寄せで依頼でも出そう。
依頼が多ければ冒険者も来るだろう。
今日は湖周辺の木を伐採する。
建物が増えて空き地が無くなってきた。
元々俺たちの家以外考えてなかったからな。
せめて今の2倍ぐらいは必要だろう。
といっても25mプールぐらいの大きさだ。
うちも25mプールに丁度2つ入る。
冒険者組合を入れても25mプールの2倍程度しか開拓していない。
それを3倍にしようとしている。
と言っても時間はあるので、みんな好きなペースとやり方で切っている。
ジェイソンとグスタフに至っては、少しずつ切っていきながら倒したら負けという事故ったら大惨事なゲームまでしている。
事故ればいいのに。
「セバスチャン。そろそろ始めるか」
「かしこまりました」
その瞬間、グスタフが何か感じたのかこちらを見ることなくいきなり森に走り出した。
「追え!! ジェイソンも来い!!」
「え?」
ジェイソンはポカンとしている。
まあそりゃそうか。
「ホッホッホ!! 山狩りですな!!」
「つーかあの短い足で、なんであんなスピードが出るんだ!?」
短い足で飛ぶように森の中を進んでいく。
逃げ切られることもないが、距離が縮まらない。
「逃げ切れると思ってるか! 諦めろ!! 持っている酒を全部出すんだ!!」
「1週間逃げ切れば儂の勝ちじゃ!!」
「逃げ切れると思うなよ!!」
しばらく進むと大きな藪があり、グスタフは迷うことなくその中へ。
藪のなかでは身長の小さいグスタフの方が有利だ。
直ぐに見つからなくなった。
「グスタフ捕獲会議を始める。何か案のあるものは述べよ」
ジェイソンがニヤニヤしながら意見をだす。
「はっ、やはり分かれて川沿いを張るのがいいかと」
みんな暇潰しと分かっているのか楽しそうだ。
大人が本気を出した範囲未定の鬼ごっこ。
期限は1週間。
燃えるな。
「みんなは川沿いを見張ってくれ。俺とセバスチャン、シードは直接探す。シード、元狩人の腕の見せ所だぞ」
「はっ!!」
「解散!!」
今回は子供たちも大人について一緒にグスタフを捕まえる。
たまには大きめのイベントもやらないとな。
今回グスタフにはある程度の食料を渡してある。
知っているのは俺とセバスチャンだけ。
何かあれば無線で直ぐに駆けつける。
元々奴隷だ。
グスタフが最初から禁酒を破るなんてこっちも考えていない。
みんな冬でやることが無いから企画した。
子供たちを参加させるために、大人たちにも参加させる。
大規模鬼ごっこ。
こんなにワクワクすることも少ないだろう。
年1ぐらいで開催したいな。
冒険者も入れて懸賞金つけて。
みんなで森に入っていく。
初日は子供たちにサバイバル知識を教えるため、シードと俺が一緒についていってサバイバルに必要な物を教えたり、タープの張り方、火の熾し方なんかを教えていく。
セバスチャンは留守番だ。
交代で家に待機する予定になっている。
居場所が割れてるんだからこっちが探す必要なんてない。
俺、セバスチャン、シードの3人はただの見張り要員である。
要は短期ボーイスカウトだな。
狩りも教えるボーイスカウト。
卒業試験もそのうち設けよう。
サバイバルを経験しておけば何か役にたつこともあるだろう。
「水は1回沸かしてから飲めよ。手作りフィルターを通してもだ」
「そのまま飲んじゃダメなんですかー?」
「生水はお腹壊すぞ。3日は動けなくなる。家の水は安全なところから持ってきてるからな」
「「はーい」」
「………主様、これ遊びですね?」
「さすがロビン君だね。みんなに森を知ってもらう勉強会みたいなものさ。もちろん安全は確保してあるし、ちゃんと勉強すればグスタフが見つかるようにはしてある。ロビン君は子供たちを守ってね」
「分かりました」
「ロビン君はそのうち本当のサバイバルに連れていく予定だから。俺もスキル封印してね」
「楽しそうですね!!」
やっぱりカッコいいなロビン君は。
主人公要員だな。
シードに足跡の見つけ方を聞いたところで今日は終了。
グスタフに無線を入れる。
「こちら魔王、調子はどうだ?」
「問題ないが、1つ問題を見つけた」
「どうした?」
「隠れ家近くでゴブリンの巣を見つけた。どうする?」
「明日、俺が行くから掃除するぞ」
「分かった。しかし暇でしょうがないんじゃが」
「明日時間を潰せる物を持っていってやる」
「助かる」
確かに安全を確保されればただのキャンプだしな。
釣竿と彫刻刀でも持っていこう。
夕方、馬車で5人の冒険者が来た。
森で魔物討伐をするようだ。
馬車には、冒険者の他に大量の塩が積んであり、これで魔物の素材の保存を行うようだ。
向こうでまた塩抜きして販売するらしい。
次の日、シードを残してセバスチャンが教官役をし、俺はグスタフの下へ行く。
「どうだ? ゴブリンの巣は」
「数はそうでもないな。儂一人でも行けそうじゃ」
「じゃあさっさと終わらせよう」
「あい分かった」
2人で森の中を進んでいくと、少し開けた場所に枝や落ち葉で寝床だけを作ったような巣に出た。
強烈な臭いを発している。
便の処理なんかもそのままなのだろう。
「鼻がもげそうだ。さっさと終わらせよう」
カチン、カチン………。
10/22ライフルで向かってくるゴブリンを倒していき、近くのゴブリンはハンドガンでグスタフが処理していく。
数は30といったところ。
子供たちが襲われる前で良かった。
ゴブリンの巣には、なぜか俺のパンツが木に掛けられていた。
呪いか何かだろうか。
「ほれ、釣竿と彫刻刀だ。一応逃げてるんだ。見つからないようにな」
「彫刻刀で何を彫るんじゃ?」
「湖の入り口に立てる何か不気味なモニュメントを頼む」
「相手が逃げるようなのがええの」
「あとで色もつけて、湖の入り口に立てるぞ」
トーテムポールみたいなのをグスタフにお願いして帰る。
ここを流行らせたいのか、人を近づけたくないのか分からんな。
帰りに子供たちの様子を見に行ったが、みんなで釣った魚を料理しているようだ。
楽しそうで何より。
俺も魚の串打ちと塩化粧を教えてあげる。
秋になると毎日サンマ60本を焼いていたんだ。
もはや芸術の域である。
お腹にも薄く塩をすり込み、遠火でじっくり焼いて完成。
「ただの塩焼きでもこうも違うんですね」
「ジェシカさんの焼いたのも美味しそうですよ。これは見た目こそ違いますが、味は変わりません」
焼き魚だけだと寂しいので、焼き魚で出汁を取った味噌汁を作り、おにぎりと一緒に出した。
魚は何匹か旅人亭に差し入れて、家に帰る。
ついでに冒険者組合で依頼を見てみたのだが、討伐依頼が5枚ほどあるだけだった。
常時受付可能な依頼のようだ。
組合に猫車をいくつか置いておき、冒険者に貸し出してもらうように受付の男に伝える。
魔物を運ぶのも大変だろう。
家に帰り、セバスチャンとコーヒーを飲みながら将棋を指す。
ここ最近の俺とセバスチャンの流行りだ。
「王手だ」
「………なるほど。詰みですな」
「さっきのここは歩をここに出してだな、ルートを塞ぎながら攻めた方がいいと思うぞ」
「なるほど。これならばそちらも手がでませんな。いやはや、実に面白い」
「そうだな。みんなにも教えてやろう。兵法の勉強にも良いだろう」
「ん? 誰か来たようですぞ。見て参ります」
やってきたのは町の衛兵で、どうやら春に王都で開かれるパーティーの招待のようだ。
断ろうとも思ったが、北の帝国からも外交官が参加するようなので、引き受けておいた。
俺が皇帝の暗殺に関わっていると思っているのなら、何かしらアクションがあるだろう。




