来るもの拒まず食い散らかす
後日おやっさんから依頼が入った。
冒険者が帰ってきた後、道具や体を綺麗にする水場が必要だとのこと。
確かに井戸のような屋外の水場は作っていなかった。
ドロドロの冒険者がそのまま旅人亭に突入することになってしまうな。
急遽水道を外に引くのだが、排水が問題だ。
今下水管には24時間水が流れている。
これを延長するのはなんとかなるが、途中からとなると水が溢れて工事どころではない。
一旦我が家の水道を全開放して、旅人亭に流れる水をストップ、急いで下水管へのバイパスを2つ増設する。
一本は予備。
次に旅人亭の水道を全開放して我が家もバイパスを増設。
これで急遽水回りを増やしても大丈夫だろう。
一応外も温水が流れるようにして、シャワーと流しを1つずつ取り付けた。
簡易なので市販のシャワールームの周りを木材で固定、カーテンを取り付けただけだ。
流しは排水溝を地面に取り付け、蛇口には短いホースを付けた。
洗い物がしやすいようにね。
冒険者が暇なときは外のガゼボで酒を飲み、釣りをして酒を飲み、旅人亭で酒を飲む。
湖にまた来たくなる呪いにかけ、送り出す。
意外と紙巻きタバコが好評だった。
冒険者でも成功してる人間は嗜んだりするらしく、一種の社会的地位になっているようだ。
しかし葉っぱもそんなに安くない。
冒険者が帰るころ、大工組合が大量の資材と一緒にやってきた。
一般的な建設を見学させてもらおう。
うちのコンクリートの土台を見て、素材の購入に漕ぎ着けた。
ついでにトイレも下水管を埋めて水洗に。
うちに汲み取りの人間なんていない。
野グソされるくらいならトイレくらい安いもんだ。
トイレの設置と共に水道も付ける必要があるので水道管も敷いておく。
建設の手伝いをしているうちに色々と購入が決まっていく。
強度を保つための金具はすでに使っていて、増産が追い付かない状態らしい。
うちからは、コンクリート、防水シート、コーキング材などが売れた。
定期的に注文に来るようだ。
建設作業している時にまた新たなお客さんが。
ブロンズ商会から商品を買いに来たらしい。
今は遠いのでこれからは月1で買い付けに来ることが決まったらしい。
最近は寒いのでポンチョの発注が多めだ。
ついでにサンプルとして髭剃りや歯ブラシなんかもプレゼント。
また来いよ。直ぐに。
我が家の暇な人間を総動員した結果、工期を大幅に短縮して組合所が出来上がった。
1階建てで、受付ロビーと受付員の部屋、倉庫の3部屋だけだから簡単だ。
人数が多いってすばらしい。
大工連中は1泊して明日出発するようだ。
今日は完成祝いとして酒を振る舞った。
うちの人間も適当に理由を付けて何かと飲んでいる。
みんな暇なんだな。
もう1月も中旬に差し掛かる。
そろそろタヌキが来る頃だな。
新年の挨拶とか言って。
「新年のご挨拶に参りました」
「それはそれは、こんなところまでありがとうございます」
「それが………。単刀直入に言いますが、ケン様が帝国の皇帝を暗殺したと噂がたっているようです」
「ほぅ。………どこから流れた話なんでしょう?」
「それは………、分かりかねます。こちらもつい最近入ってきた情報なので」
「私たちは仲間以外"話し合い"に行くことは伝えてありません。それが暗殺容疑になっていること自体意味が分かりませんが、どなたか"話し合い"に行く情報を持った人間が流した噂でしょう」
「それは………」
認めてしまえ!! この国の貴族が流した噂だと。
「………原因の究明を急ぎます」
「貸し1つですよ」
「グッ…」
このタヌキも大変だな。
それよりこちらが狙われる可能性が出てきたな。
塀を建設したところで登る方法ならいくらでもある。
少し防衛を見直そう。
「それで、今回は何か買われますか?」
「………はい。………シルクを合計15mほど………」
大分歯切れが悪い。
普通ならどの面下げて買い物してんだと追い返すところだが、こいつは大事な金づるだ。
精々むしりとって帰ってもらおう。
これで暗殺者なんて送ってこられたら骨まで残さずしゃぶってやる。
シルク15mで75万f。
仕入れ750f。
お前の罪を許そう。
今の残金130万f。
お母さん、資産が1億3千万円になりましたよ。
「それと、前回お渡しできなかったお礼の品です」
そう言って渡されたのは1枚の羊皮紙。
「これは?」
「当国の独立申請書類です。貴族ではありませんが、この湖から周辺10kmを自治区としてあなたに差し上げるという物です。当然我が国の所属ではないので税金も頂きません」
………なるほど。
蜥蜴のしっぽだな。
雲行きが怪しくなってきたから独立させてしまえと。
だがこれはアリだな。
魔王国の建国か。
「湖から10kmとなると、川の下の村も入ってしまいますが」
「その村も含めてです」
「もし我が国が戦争などになってしまった場合、ご迷惑がかかりますが………」
「………できるだけ穏便にお願いします」
セバスチャンに目を向けるとニヤニヤしている。
こいつにもいい暇潰しが必要なようだ。
「分かりました。喜んでお受けしましょう」
そう言って羊皮紙をよく読んでサインする。
基本的に独立したからそっちの問題はそっちでよろしくということだ。
大きな玩具をもらったと思っておこう。
レソトやバチカンみたいだな。
ポアソンよ。
今回も終始無言だな。
会議が入って遅れました。




