散水能力向上委員会
いよいよ畑が完成した。
といっても季節的になにも育てられないので、森の土を混ぜたり、肥料を撒いて土作りをしている。
肥料が馴染むまで1月ほど置いておいた方がいいと肥料に書いてあった。
粉砕した枝は上から土を被せ、腐葉土っぽくなったら畑に撒くつもりだ。
ということでこれが終わったら皆やることが無くなるわけで、次に作るものを決めている。
「おやっさん、どうですか?」
「どうもこうもまだ客が入っていないんだが」
「この森への依頼って無いんですか?」
「あると思うが、ここに宿があること自体知らないんだろう」
「ジェイソン、組合に行って斡旋するように伝えてこい。ついでに冒険者にも旅人亭がここに移ったことを広めてこい。客が入るまで帰ってくんな」
「………むちゃくちゃっすよ」
「カッカッカ!! で、わしらはどうするんじゃ?」
「それはこれから決める!!」
必要なものが見つからない。
洗濯機は設置するとして、他に必要な物ってなんだ?
取り敢えず屋外で水を使うための貯水槽の建設をしながら決めよう。
貯水槽は畑のすぐ脇に設置する。
コンクリートと鉄筋で壁を作り、なかを大きめの石を入れたコンクリートで埋めていく。
大体4mぐらいの高さ。
そこに水槽を取り付けるのだが、これは水道の水槽から垂れ流して下水管に流している水を途中で引っ張ってきた。
水槽からパイプをしたまで下ろし、蛇口を付ける。
これで散水できれば問題は無いのだが、ホースに繋いだが、勢いが弱い。
4mでもこんなもんか。
25m25mの畑、普通の水圧でも厳しいのに、これでは水やりが大変だ。
畑の真ん中に小さい箱を設置して、エンジン式のポンプを入れてホースを繋ぐ。
これでなんとか12mぐらいは散水できるようになった。
ケビンも作業がどんどん楽になってエンジンの素晴らしさに気づいてくれたようだ。
色々やっている間に1月になってしまった。
ジェイソンが帰ってきた。
まだ冒険者は来ていない。
どんな罰を与えてやろう。
取り敢えず木に張り付け、子供たちに水風船を与えておいた。
1月の水は冷たかろう。
「ひやぁぁぁぁぁぁ!!」
「言え!! なぜ戻ってきた!!」
「組合からここに簡易組合を付けたいと相談されました!!」
「いいぞ!!」
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!! なんでまだ続けるのぉぉぉぉ!!」
セバスチャンを連れてリーフで街にいく。
またジェイソンに行かせるほど俺も鬼じゃない。
リーフでそのまま町に乗り付ける。
真っ黒なセダンはさぞ怖かろう。
「な、なんだ!! 魔物か!!」
「俺だ」
「あなたは………。これは………なんですか?」
「我が家の魔道具だ。これからはこれで来る」
「………今回のご用件は?」
「冒険者組合との交渉だな」
「………お通りください」
最近衛兵で遊ぶのにハマってきた。
横でセバスチャンもニヤニヤしている。
俺の執事も性格が悪いようだ。
そのまま組合の脇にリーフを止め、組合に乗り込む。
カチコミだ。
「下級冒険者のケンと申しますが。組合長はいらっしゃいますか?」
「ケン!!………失礼しました!! すぐ呼んで参ります!!」
「お前また来たのか!! 飯作ってくれよ!!」
「今日から組合との商談です。飯が食べたいなら西の森の湖まで来てください」
「お前か!! 旅人亭を連れていったのは!! 俺らの憩いの場を返せ!!」
「そっちがこい!!」
冒険者と不毛な会話を続けていると、組合長が出てきた。
俺に旅人亭を紹介したおばさんである。
昇進したのね。
「あなたたちだったのね。組合を一新してくれたのは」
「旅人亭を紹介していただいたお礼です」
デタラメを並べる。
「それで、湖に宿ができたのなら簡易的な組合を建てたいのだけど、いいかしら? もちろんこちらで費用も負担するわ」
「構いませんよ。しかし、依頼と素材はどうするので?」
「毎日組合から乗り合い馬車を出して、帰りに素材を積んで帰るわ」
「しかし、それでは肉が傷んでしまうのでは?」
「多少は仕方ないけど、それでも冒険者が自分の足で運ぶよりもましよ」
「なるほど。ギルドが組合を建てるのでしたら、こちらは問題ありません。いつから始めますか?」
「できるだけ早くしたいから、来週くらいから始めたいのだけど、構わないかしら?」
「分かりました。宿は部屋が空いていますのでそこをお使いください。料金も町の時と変わっていません」
「分かったわ、ありがとう」
ついでに客でも捕まえて帰るか。
「今から西の森に行くやついたら送ってくぞ! 3人までな!!」
「本当か!! ちょうど依頼を受けたところだ。送ってくれ」
冒険者2人組を乗せて、出発。
1時間もかからないで帰ってきた。
「速ぇぇぇぇぇ!! なんだこれ!? すごいな!!」
「おやっさん!! お客さん捕まえてきましたよ!!」
「ん? お前らか、新しい旅人亭だ。すごいだろ?」
「ダニエルの旦那!! ホントにこっちに来てたんだな!! またウマイ飯食わせてくれよ」
「当たり前だ。部屋の案内と設備の説明するからついてこい」
久しぶりの客におやっさんも嬉しそうだ。
誰かに運転教えてバスでも運航するか?
湖畔リゾートとして流行るかもしれないな。




