バフンパラダイス
翌朝起きて井戸水で顔洗い、歯を磨いて身支度を済ます。
村の門の所に行くと男はもうすでにそこに立っていた。
「お早うございます」
「もう出発か」
「はい。それでなんですが、近くにギルドがある町なんかは在りますか?」
「ギルド?」
ギルドはないのか?
「あの、魔物を狩る集まりみたいな」
「ああ、冒険者組合か」
ギルドは組合と言うらしい。男に聞くと、ここから歩いて半日の所に組合もあるクリージュという港町があるらしい。
男に感謝を伝え、東へと向かう。湖から考えて、ここまでずっと東へと進んでいて、1日中頑張れば湖から港町へは1日で行けそうである。
街道を歩いてる途中道端にスライムがいるのが見えた。動いていなければ色の変わった馬糞という感じの出で立ちで、色は茶緑色、球体ではなくでろんとした感じの…馬糞みたいな。
棒で突っついてみても特に枝が溶けるような様子も無く、ダメージが入った様子もない。
中心の盛り上がった所を突くと、中に石の様な感覚がある。核というやつか。
端から見れば馬糞をいじくり回す俺は、棒で石を外に掻き出し、様子を見る。
「おっ!死んだっぽいな」
その核をストレージに入れ、売却。正式名称スライムの魔石となったそれは、5fで売れた。
「安いな……って臭ぁぁぁ!」
魔石を触ったその手は、1週間放置した生ゴミのような匂いがした。急いでそこら辺の土を塗りたくり、匂いが無くなったところで水でこれでもかと洗い、最後にサバイバルセットに入っているサニタイザーで消毒した。
「楽に倒せるが、考えものだな」
そこから少し進むと道路脇に小さな空き地のような場所があり、多分休憩所か何かなのだと思うが、いかんせん臭い。
その空き地は放牧でもしていたのかというくらい、馬糞パラダイスもといスライムパラダイスとなっていた。
ぱっと見ただけでも20はいそうである。
何か使える物はないかとバッグを漁ると、救急キットにゴム手袋とマスクがあった。これで行けると思う。
俺はゴム手袋とマスクを装着、一匹のスライムに近づき、手を直接その盛り上がりに突っ込み核を引き抜き、そのままストレージへ。
ちゃんとストレージへ入ったことを確認した俺は、そのまま核を引き抜くだけの作業に入る。
10分ほどで核は28個も手に入った。140fという臨時収入にホクホクの俺は、手袋もストレージに入れ、そのまま売却。0f。ただのごみ処理である。
ついでにレベルも4に上がった。嬉しい。
街道にでて、歩きはじめるとあることに気づいた。
「あれっ? 俺臭くない?」
急いでボディーソープを水で薄め身体中に塗って、ようやく落ち着いた。
それから歩くこと数時間、夕方には土の塀で囲まれた、クリージュの町が見えてきた。
誰何や持ち物検索されるかビクビクしていたが、入り口で保証金を払ってすぐ入れた。門番に聞いた海鳥亭という宿屋へと向かう。
「いらっしゃい! 泊まりかい? 食事かい?」
「とりあえず1泊お願いします」
「あいよ! 1泊50f朝夕食事付きだよ!」
恰幅のいいおばちゃんに迎えられた。
1日50fでとりあえず1泊だけお願いする。まだ収入が安定してない以上、お金はキープしておきたい。
「このまま食事にするかい?」
「お願いします」
店で出された食事は、塩味の魚介と野菜のスープとパンで、久しぶりの魚を堪能し大満足の食事であった。
桶にお湯と布切れをもらって部屋に戻り、身体を拭いてから直ぐに就寝した。いくら若返っても歩き続けるのはやはり身体に応える。