カチカチ山
翌日、ポアソンにギナルとの交渉の付き添いをお願いする。
「貴族と交渉ですか………」
「向こうは俺のハッタリなんかで勝手に想像を膨らませている。できるだけ問題なく帰せればそれでいい」
「そんな上からで怒りませんか?」
「大丈夫だ。北の帝国との戦争を止めたことで向こうもこっちに上からは来られないはずだ」
「………そんなことまでしてるんですか」
「………成り行きだ。面倒だろ? だから隠居するんだ」
「………納得しました」
取り敢えず、皆には貴族のタヌキジジイが来るから俺も偉そうにするので、皆にも役者になってもらう。
これからも暗殺なんか頼まれたらたまったもんじゃない。
もう向こうから手出ししたくなくなるほどにコテンパンにしてやろう。
ギナルよ。
カチカチ山にようこそ。
ポアソンにはwalmartで買ったスーツのジャケットだけジェイソンの燕尾服に変えた。
家に談話室がないので、急遽外にガゼボという運動会のテントの豪華版のような物を設置、中にも屋外用のラグやらソファやらを置いて豪華にした。
あのタヌキならここまで2日3日はかかるだろう。
セバスチャンとジェイソンに村まで迎えに行かせる。
どうやって来ることを知ったのかビビるはずだ。
どうせ泊まっていくだろう。
12人用のテントを2つ設置して中に絨毯とベッドを配置、小さいテーブルには果物と水でも置いておけば十分だ。
準備も終わったので木を切る作業に戻る。
人数が増えたことで、後4日ちょっとで開通だ。
ギナルめ、忙しい時期に来やがって。
ギナルは今日出発して村に一泊、明日の朝出発だろう。
馬車は多分村に置いていくしかない。
セバスチャンとジェイソンには明日の朝着くように深夜出発してもらうことになる。
セバスチャンは燕尾服にブーツと胸当て、ジェイソンはライオット装備に防弾のフェイスマスクだな。
威圧感あるし。
フル装備を見た新人がドン引きしていた。
冒険者だけは目をキラキラさせていたが。
「アニキたちやべぇ………」
「この前貴族とドンパチやったのって、アニキらしいぜ」
「アニキが一番やべぇ………」
セバスチャンが面白がったのか、冒険者たちに模擬戦を提案した。6対1で。
結果、一人ずつカランビットで転され、リーダーは突っ込むもカランビットで剣を取られた挙げ句後ろから首にナイフを当てられて降参。
戦闘狂は健在だな。
映画みたい。
朝2時頃出発だ。
ギナルたちは明日の昼過ぎには来るだろう。
どうやって泥舟に乗せてやろう。
タヌキがやってきた。
暇だからロビン君に剣道着を着せて稽古をしていたときに。
「ギナル様、お久しぶりです。今回は町におりませんので、ご足労頂きありがとうございます」
「ケン様、お久しぶりにございます。前回お会いしてから2カ月ほどですが、もうここまで開拓しているとは」
「それも皆のおかげです。お疲れでしょう。あちらでお食事の用意をしてありますので食べながらでもお話ししましょう」
ギナルを家に案内し、1階の食堂で食事にする。
今日の飯はシーフードを沢山使っての食事だ。どうやって運んでいるか勝手に想像してくれるだろう。
「このような山奥で海産物が食べられるとは………」
「まあ食事にはお金をかけていますので。セバスチャン。ギナル様と一緒に来られた方々へも食事を」
「かしこまりました」
食事はスペイン風にアヒージョやトマト煮込み、オムレツやコロッケなんかでまとめて、主食はパンとパエリアだ。
こっちに無い物ばかりだが、勝手に驚いてくれるだろう。
「皆どれも美味しいですな。叶うならこの国の料理もこれくらい発展できれば良いのですが」
「どれも難しいものではないですが、大体が前回お渡しした種から取れるスパイスや野菜が必要になります」
「前回頂いた種なのですが、季節が合わず栽培できるのは20日大根だけでしたものの、1月ほどで収穫までできました。今はこの国の南の方で栽培できる種が無いか検討中でございます」
「それは良かった。種ならまだございますのでいつでもお声かけください」
「ありがとうございます」
食事を終え、ギナルを連れてガゼボで話し合いをする。
ギナルは1人付き添いを話し合いに参加させるようだ。
40ぐらいのおっさんだが態度が馴れ馴れしい。
何様だ貴様。
ギナルは景色を見ていて気付いていない。
セバスチャンが紅茶を出して、話し合いが始まる。
「美しいですな。ここ数年、仕事が忙しくてなかなかゆっくりできなかったもので。ご紹介がまだでしたな、彼は私の部下ゴランと申すものです」
「………ゴランです。お見知りおきを」
一瞬敬語使うか迷ったな。
「ケンです。よろしくお願いします。忙しいのであればギナル様も部下に仕事を任せて少しゆっくりされては?」
「まだ彼らには任せられない仕事が多く、引退できないのです」
「そのお年であっちこっち行くのは辛いでしょう。しかし下を育てるのも簡単ではない」
「お恥ずかしい限りでございます」
引退しろと遠回しに言っているのに、余程権力が好きと見える。
「して、今回はどのようなご用で? シルクの注文ですか?」
「それもありますが、帝国との件で陛下より感謝の品をお届けに参りました」
「その件でしたら、当方の予定と重なっておりましたので、感謝の品を頂くなど申し訳ない。何より予定では貴族からの説得だったのに皇帝が暗殺されてはこちらは何もしてないではないですか」
「いえ、それでも止めようとしていただいたことに感謝しているとのことです。よろしければお受け取りください」
暗殺が俺の仕業だと確信しているようだ。
出された箱を開くと、立派な紋章が描かれた装飾過多なナイフが入っていた。
ますます面倒臭い。
俺がこれを受け取ったら勝手にバックについて、繋がりを強くしたいのだろう。
そうはさせるか。
「私共は交渉に行っただけ、このような立派な物は頂けません」
「いえいえお気持ちだと思って、どうか」
「このような物を頂いても、返せる物が御座いません。どうかご容赦を………」
ここでゴランが立ち上がる。
辛抱できなかったようだ。
勝ったな。
「貴様!! 聞いていればごちゃごちゃと!! 陛下のお気持ちを無下にするか!!」
「いえいえとんでもない、ただ自分のような者には勿体無いだけでございます」
「いいからさっさと受け取らぬか!!」
「ギナル様」
「大変申し訳ありません!! 今回は諦めて持ち帰らせて頂きます」
「ギナル様!!」
「静かにせんか!! これ以上騒げばどうなっても知らんぞ!!」
今回は諦めるか。
二度と来んなよ面倒臭い。
「お騒がせして申し訳ありません。品は陛下と相談して別の物に致します」
「あまり気負いしないものでお願いします」
その後はスムーズに進む。
シルクはゴールドと赤を3mずつ、合計30万f。
ポアソン君、いつまで空気でいるつもりだい? 仕事だぞ。
最後までゴランは顔を真っ赤にしていた。
トマトか貴様は。
その後、今日泊まるテントを紹介。
夕食までゆっくりしてもらう。
「ケン様、あんなの自分には無理です。タヌキ怖すぎます」
「タヌキの考えが読めただけでも十分だ。失敗してもなんとかしてやるから安心しろ」
「………ケン様が一番怖いです」
「ゴランなんて見てみろ。タヌキの考えも分からないで突っ走って、結果失敗させた。ありゃあ相当怒られるぞ」
「王様の紋章ですからね。耐えられなかったのでしょう」
「あんなもの受け取ったら何されるか分からん。次はどうでるかな」
夕食は、レッドボアのトンカツ。
ソースはトンカツソース、付け合わせはじゃがいもとかぶを蒸した物。
スープは洋風にトマトコンソメに野菜をいっぱい使い、チーズやらも数種類置いておく。
ゴランは夕食に現れた時から終始真っ青だ。
顔色を変えるのが得意なのかもしれない。
「こちらに来てから釣りと酒ばっかりでして」
「それは羨ましい。あっゴランですか? どうやら気分が優れないようで」
「それはいけない。後で胃薬でもあげましょう」
「そのような高価なもの、頂くわけにはいきません」
「なに。これからも使えますし、餞別です」
「ハッハッハ」
「ハッハッハ」
胃薬を4箱ゴラン君に渡し飲み方を教えると、いきなり飲み始めた。
まあいい勉強だろう。
精々頑張ってタヌキになってくれ。




