道標になりたい
出張から帰って来ました。
人数が増えてペースも早くなったが、やることはまだたくさんあり、新しい旅人亭も作らなくてはならない。
新しく作るからには、部屋数も増やしたい。
細かいことまとめてグスタフに任せよう。
一応拠点作りで俺の能力や出せるもの、使える道具は分かっているはずなので任せていいだろう。
俺のキットでは宿に使えるような大きさの家は売っていない。
今は町に行っていて居ないが、2日3日で帰ってくるだろう。
新しく設計する必要があり、大人数が使っても良いような施設は素人の設計じゃあダメだろう。
俺はみんなと木を切る。
ヘイヘイホー
今作っている道作りは、両側にコンクリートブロックを並べていき、中に砂利を敷き詰めコンクリートを流す作りにしようと思う。
コンクリートも砂利を多めに入れて、一回で敷ける長さを増やしたい。
砂利だけでもいいのだが、後で自転車に乗ったり、台車を動かすのにコンクリートの方がいい。
混ぜて収納に突っ込んでおけば後で使い放題だ。
人間コンクリート車である。
切った木は収納したあと、一部家の裏にそのまま放置しておいて、乾燥してからチェーンソーで丸太に変える。
ただ量が多いので、全部薪にするのには、大量の時間が必要だろう。
とりあえず全部切ってから考えよう。
一応今日で村へ続く川まで届く計算だ。
しかしここからが長く、ここまでの道のりの3倍以上ある。
この人数での最速、1日200m計算でも20日以上かかる計算になり、その後の建築を考えると、秋を越えて11月になってしまう。
「川の砂利の上に直接敷いてはいけないんで?」
「川の砂利は、雨が降って増水したらここまで水が来るということだ。そんなところに道路を敷いて後で何かあったら困る」
切り株のことは一旦放置して、切ることだけに集中、開通を先に目指す。
切るだけなら1日400mは行けるだろう。
これなら開通してから少しずつ道路を敷いていけば、もっと早く終わってくれるはずだ。
木を切っていくが、やり方をまず変えよう。
まずロープを道にそって真っ直ぐはり村への最短距離の道標にし、そのロープの邪魔になる木だけ切って真っ直ぐロープを張る。
取り敢えず600m。
真っ直ぐ張れたらその周りの邪魔な木を切っていく。
そうすれば全員バラバラで切っても真っ直ぐ進むので、皆で固まりながら進む必要がなく、ペースが速くなる。
「この方法の方がいつもより早く進みますな。1日で500mは行けるかと」
「500mなら後10日ぐらいか。そこから一気に切り株を焼けば早く終わりそうだな」
「しかし宿をそこから作るとなると今年中に終わらせるのは難しいかと思います」
「切り株が終わったら町に冒険者かなにか雇いに行くつもりだ。それでも今年中は無理だろうな」
道路を作り終わるだけで年が明ける。
ケビンの家は土台さえできれば収納で持ってこられるが、宿は1からの建築、人数を今の倍にしても2月はかかるだろう。
もうほとんどドカタである。
異世界に来てから何かしら作ってるな。
まあこれもスローライフと言えなくもないが、せめて力仕事以外でスローライフを満喫したい。
料理には自信があるが、あれもスローライフと言うにはキツすぎる。
スキルはチートになってきたが、未だに人力。
奴隷を買うお金はあるが、あまり大量に買ってもそのあとやらせる仕事がない。
農業用に使えば埋められるが、どれだけの広さの農場を作るかも決まっていない。
増やせても2人が限界かな。
早めに求人でもだすかな。
「セバスチャン。悪いが町で奴隷を2人買ってきてくれ。あと人足も5人ほど頼む」
「その方が良いでしょうな。して、奴隷はどのような人間がよいですか?」
「人格、技術、力の順番でセバスチャンに任せる。家族でも構わないから農家なんかは嬉しいな」
「かしこまりました。それなら1日で向こうへ行き、奴隷を購入、冒険者を雇い入れても1週間ほどかかります」
「構わない。5万fほど渡しておくから好きに使え」
「5万fですか。奴隷が50人は買えますな」
「そんなに仕事がない。ジェイソンを付けるから煮るなり焼くなり好きに使え」
翌日セバスチャンと乞食は町に買い物に、俺ことおじいさんは森へ芝刈りに向かう。
ついでだからセバスチャンにロープをいくつか渡し、村までの道標を付けながら進んでもらった。
ジェイソンは使いやすいから重宝するな。
キャラ的に誉めてはやらんが。
木を切っていると、グスタフが帰ってきた。
「手紙を送ってきたぞ。1月はかかるし返信は大分先じゃ」
「それは別にいいが、新しい仕事を頼みたい」
宿の建設をグスタフに任せる。
概要と部屋数、大きさを伝えて意見を聞く。
「これなら旦那の家を2つくっつければ1月で終わるぞ。木を加工しなくていいなら建てるだけじゃ」
「早いな。今セバスチャンとジェイソンに町に人手を足しに行ってもらっている。もっと早く終わりそうだな」
「来るときに話は聞いたわい。任せとけ、柱を足したりなんかするが、楽な仕事じゃ」
グスタフにジャックを1本渡し、作業再開。
設計図は直ぐできるらしいので、グスタフにも手伝ってもらいながらの作業だ。
今日の昼御飯はおにぎりと塩麹で漬けた漬物、塩漬け肉を茹でてハンマーで叩いて繊維をほぐし、唐辛子や五香粉、醤油で煮込んだハンマー牛という中華のご飯のお供を出してあげた。
日本でもなかなか食べられない一品だが、中国では北の方の保存食としてよく食卓にあがる物だ。
バイトの中国人に教えてもらった賄い飯で塩結びを食べる。
「この肉料理はパンにも合いそうじゃの。酒のアテにも良さそうじゃ」
「それはラードに漬けておけば半年は行ける保存食だ。スープから炒め物、なんでもいけるぞ」
「半年か………。この技術も凄まじいの」
「俺の故郷ではないが、隣の国の料理だ。5千年の歴史がある国だが、多くの文化が民族やらなんやらで廃れてきているが、料理は文化統一から免れて今でも残っている」
「戦争で勝ったら自国民にするのは常套手段じゃが、料理は文化が残っとるか………。やはり食は偉大じゃの………」
「俺の故郷も大きな影響を受けていた大国だ。その当時の文化がどこまで残っているかは疑問だがな。俺の故郷も改良、改善、小型化が十八番の技術立国の島国だから独特な文化が発展しているいい国だ。資源に乏しい国だったが、技術だけで世界2位の経済規模まで行った変態国家だ。ドワーフとは仲良くなれるかもな」
「資源が無いのに世界2位か。凄まじいの」
「いつかその技術が買えるようになったらドワーフにも提供してやりたいな。町の小さい鍛冶屋なんかでも、世界中でそこしか作れないような技術がゴロゴロしていた」
「良い国じゃの…」
「世界一の国だ」
ロビン君が俺の話に聞き入っていた。
日本が合っているのかも知れない。
日本のことをもっと教えてあげたいな。
ロビン君に浴衣を買ってあげた。
襦袢の代わりに白い着物を中に着る。
映画で見ているのかとても喜んでくれたので、日本の精神的なことも教えてあげる。
「横井という兵隊さんがいてな………」
「29年ですか………。スゴいですね」
「帰ってきた一言目が、『恥ずかしながら帰って参りました』だった。死んでもやり遂げるつもりだったんだろう」
「死んでも………」
「何が正しいかは自分で考えなさい。でも正しいと思ったことは貫くんだ。それを否定したら自分が悪いことを許したことになる。人を殺すことは悪いことだが、守るために戦うことも必要だ」
「………分かりました」
ロビン君はいい男になるだろうな。
変なところに買われなくて良かった。
成長をそばで助けられればいいと思う。
午後も木を切るだけだが、ロビン君は一つ一つ真面目にやっているいい子だ。
俺も負けてられないな。




