札束でぶん殴ってみた
セバスチャンが対応する。
入ってきたのは、人の良さそうなお爺ちゃん。
俺たちの格好を見て驚いている。
特にジェイソン。
「初めまして。この家の主のケン・ミヤジマです」
この世界でまだ名字を持っている人間に会っていないので、伝えておく。
ちょっと反応したが、すぐに笑顔になる。
タヌキだな。
「私は、王家に仕える外交官、リンツ・フォン・――――・ギナルです。どうぞお見知りおきを」
なげえよ。
「取り敢えずお掛けになってください。話はそれから」
「ありがとうございます」
席に座ると、ジェシカさんが紅茶のセットを運んでくる。
それをソファの近くの台に置いて、土間に戻る。
セバスチャンが淹れているのは高級中国茶。
相手に異国感を持ってもらい、文化の違いで誤魔化して帰ってもらおう。
「これは………」
「自分の故郷の高級茶です。お口に合いませんでしたか? それかお酒もありますが」
「いえ、とても美味しいです。お酒も興味ありますが、今日は仕事なので…仕事なので」
なんで2回言った。
多分酒好きなんだろう。
「喜んでいただけたのなら、帰りに包みますね。お酒も一緒に」
「ありがとうございます!ですが、王に渡さなくては…」
「もちろんギナル様にも同じ物を包ませていただきます」
「良いのですか? これは嬉しい」
「よろしければお茶菓子も自国の物を用意いたしました。そのお茶に合うと思いますよ」
walmartで買った和菓子もどきを食べさせる。
甘味に飢えた時代だ。
取り込もうなんて100年早いことを教えてくれる。
こんなもんは札束で殴り合うようなものだ。
後でめちゃくちゃな金額を教えてやれば諦めるだろう。
「それでお急ぎのようですが、ご用件をお伺いしても?」
「実は、先日クリスと言うものが、ご迷惑をお掛けしたと思うのですが、その裁判を王都で行いまして。クリスは極刑に処されたのですが、その時にここの話が王の耳に入ったのです」
「技術はもちろんですが、この人数で衛兵に立ち向かうことのできるだけの防衛能力。それを買わせていただきたいのです。近年、北の帝国の動きが不穏でして、戦争になるかもしれません。しかし、恥ずかしながらこの国では今まで戦争などしたこともなく、戦争になったら負けるのは必然。力をお借りしたいのです」
「なるほど………セバスチャン」
「はい。ご想像の通りです」
「王か?」
「さようでございます」
「できるか? なんなら俺も行くぞ?」
「いえ、その心配には及びません」
「分かった。ギナル様、こちらで戦争にならないように動いてみます」
「お力を貸していただけるのでは?」
「いえ、私がどこかに加担することはありません。今回は相手が良かった。それにこの国で対価が払えるとも思いません。今日お渡しするお土産だけでもこの国のオークションに出せば、問題になります」
「………それほどで?」
「国が傾きますよ?」
取り敢えず脅して帰ってもらおう。
札束でぶん殴れ!
「ちなみにお酒について聞いても?」
「お酒を濃くして10倍ぐらいにして、12年間樽で寝かせた幻のお酒です。私も数えるほどしか集められなかった」
「国が傾くお酒を何本も………」
なんとか召し抱えられずに終わらせられた。
向こうの思惑を逸らして返す!
お土産はシルクの布団シーツで包み、ビンテージ風の箱に詰めて渡した。
二度とくんな。
「旦那様、見事な交渉術でしたな」
「必死だからな」
「では私も、旅の準備をいたします」
「そうか。武器以外は一般人の格好をして行かないといけないもんな。準備も必要か。なにを装って行くんだ? 冒険者は無理だろ。商人が無難か」
「はい。丁度戦争の準備をしているようですし、麦でも積んだ馬車で行こうかと」
「ジェイソンを付ける。護衛が居ないと不自然だろ」
「いえ、普通に商人として動き、冒険者を雇います」
「そうか。分かった」
コールドスチールで仕込み杖を買って渡す。
ナイフは全身に入っている。
カランビットは気に入ってくれたようで、訓練で使った時は気づいたら倒されて固められていた。
「これはナイフじゃなくて徒手格闘ですな。非常に良くできています。気に入りました」
そこから対人はカランビットを使うことにしたようだ。全身に何本隠しているのやら。
だが今回は普通の商人なので隠すスペースが少ない。仕込み杖とカランビット2本で行くようだ。
弾は2000発積んでおいた。
ガスマスクと催涙弾もある。拳銃はあまり見せられないので、1発装填のカードサイズの拳銃も財布の革袋に一緒に入れておく。
セバスチャンに言わせるとやり過ぎらしいが、相手が大物だ。
準備しておいて損はないだろう。
明日馬と馬車を手配して、麦と塩を積んでいくようだ。
銃を隠すかと思ったら、そのまま持っていくらしい。
どうせ誰も知らないのだから堂々と持っていくと。
ウイスキーだけ要求された。
水筒に入れていくらしい。
2日経ち、セバスチャンが旅立った。
馬車で2週間かかるそうだ。
腰を曲げ、杖を付く姿は暗殺しに行くなんて誰も思わないだろう。
雇った傭兵も普通のお爺ちゃんだと思っていた。
フォースとか使いそう。




