全部クリスが悪いんや
翌日、クリスが一人で両手を上げてやってきた。
撃ってやろうかな。
「領主様から手紙を預かってきました」
「ボコボコじゃねえか」
クリスは顔面に青アザを作り、前歯が無くなっていた。
やはり独断だったのだろう。
その場で手紙を読むと、もともと町の政策で下水道を作ろうとしていたので、教えを乞うつもりでクリスを派遣したらしい。
怒りはもっともだが、ここは矛を収めてほしい。
役人の不祥事なので領主としてできるだけのことをしていただけるらしい。
クリスと言ってること全然違うじゃねえか。
「クリスお前バカだな……。普通にやってれば会いに行ったものを」
「旦那様、お返事はどのように?」
「金はもちろんだとして、他に何かあるか」
「土地でも頂ければ良いかと」
「セバスチャンはどこが欲しい?」
「私は森が良いですな。湖周辺なんかに別荘でも建てれば良い遊び場に成りますゆえ」
セバスチャンは戦うことを遊ぶと訳すらしい。
「ということだ。我が家のセバスチャンに金と西の森にある湖周辺を渡せば矛を収めてくれるそうだぞ、俺の要求は『今後一切関わるな』だ。伝えておけ」
「………分かりました」
貴族なんて謝りながら何を要求するか分からん。放っておいてもらった方が楽だ。
湖でのんびり過ごすのもありだな。
こうして「ぼくがかんがえたさいきょうのぶき」は日の目を見ることなくストレージに収まることとなった。
まあライフリングもされてないし、ほとんど狙ったところに当たらないからしょうがないけどね。
今度のレベル上げには壊れるほど使ってやろう。
家の回りのガードを回収。庭に作った見張り台はどうしよう。収納したがコンクリートと梯子しか入らず、下の砂利はそのままだった。
ケビン一家の家も出して、シェルターやらコンクリートボードやらを全部回収。
屋根にソーラーパネルを設置して、ポンプと給湯器を設置する。
お風呂入りたい。
今日1日やることが無くなったので、みんな緊張がほぐれたのかゆっくり休んでいる。
「みんなの奴隷契約解除しないとね」
「私たちはこのままでも大丈夫ですよ。何かが変わるわけでは無いですし」
「いえいえ、何かあったときに逃がせないの問題です。今回も逃がす時間あったのにできなかった」
「逃げてもどうせいく場所なんて無いですし。ここは居心地がいいですから」
「俺もどっちでもいいぜ」
「ジェイソンには聞いていないから安心しろ」
戦えない人間だけでも解放しておいた方が良いだろう。
いざとなればジェイソンに護衛を頼んで他国にでも逃がそう。
「セバスチャン、そろそろレベル上げに行くか」
「良いですね。私も今回は不完全燃焼ですので」
そんなこんなで後5日経ったらまた狩りザップに出かけることになった。
家はそのままで良いだろう。
こんだけやって何かするような奴はいないと思う。別に無くなっても買えばいい。
ただ取られるのが癪に障るだけだ。
帰ってきてなんかあったら領主でもなんでもぶっ飛ばしてやる。
翌日から準備を始める。
行くのは俺とセバスチャンの二人。ケビンは畑があるので行けないし、ジェシカさんや子供たちは戦えない。ジェイソンはその護衛だ。
まず奴隷から解放してこれからは毎月お給料を払う。
ついでにセバスチャンの燕尾服と俺のスーツも作った。
この世界のスーツは全部キラキラのゴテゴテで、パーティーかなんか知らんが恥ずかしくて着られない。
俺のは詰め襟、要は学ラン。
これが一番シンプルだ。
ジェイソンには鎧を買ってやった。護衛として行くならこれも正装だそうだ。
ジェイソンなんて腰簑だけで良いだろうに。
あとで魔改造してやろう。
ケビン一家にも使用人用の服を買ってあげる。
1着持っておいても損は無いだろう。
ついでに市場で鶏肉を買う。今日は俺が唐揚げを作る。たまに食べたくなるよね。
家に帰ってくると、家の前に馬車が停まっている。多分領主の使いだろう。
「なんか用か?」
「私、領主の使いのものです。先日のお詫びに参りました」
「そうか、取り敢えず入ってから話そう」
初老のおっさんを中にいれ、セバスチャンに紅茶を入れてもらいながら話す。
「それで、どうなりました?」
「お金はこちらに。それとあの森は開拓が進んでいなかったので、好きなところを持っていってかまわないそうです。最後の要求ですが、できればでいいので知識をお借りしたいそうです」
「なんに関してだ?」
「下水道の設置とポンプに関してです」
「ポンプに関しては1つやるから、勝手に分解して作れ。だが下水は無理だ。俺が使ってるパイプもそのうち寿命が来てダメになる。その時俺がいなかったら町が糞で溢れかえるぞ」
「なるほど。他の方法に心当たりは?」
「別に今のままでいいだろ。掬いやすくしたり、運びやすくすればいい。下水道は新しい町なら分かるが、今から穴を掘るのは難しい」
「やはりそうなりますか………」
「この国では技術が足りないな。それよりなんでそんなに下水道に拘るんだ?」
「汲み取りの人件費が高いのです」
「それだけならなんとかなると思うぞ。汲み取りの穴にスライムでも突っ込んでおけ、糞を食べて勝手に増える。それをザルかなんかで掬えばそこそこ魔石が取れると思うぞ」
「なるほど……。臭いし魔物だと遠ざけていましたが、それは確かに数が集まればお金に成りそうですね」
「昔下水管を通す前は俺もやろうとしたが、結局汲み取りをするのであれば変わらんからやめた案だな」
「領主と相談してみます。ありがとうございます」
「お土産だ」
チョコレートを持たせて帰す。下水の問題じゃなくて財政の問題だったか。スライムなら核1つ5fだ、10軒回れば宿にも泊まれる。町のように大きな所であればそれだけで人件費を賄えるはずだ。
キッチンに入ると鶏肉が切ってステーキソースに浸けてある。話してる間にジェシカさんにやってもらった。
ソースを流し小麦粉を入れて混ぜ、後はあげるだけだ。
油を入れて温め、いい温度になったら鶏肉を揚げていく。
油の温度が冷めるので、一度に大量には揚げない。
4分ほど経ち、キッチンペーパーに上げて油を切り、完成だ。
今はまだ切ると中がピンクだが、そこは食べる頃までに火が入れば問題ない。
逆に高温にし過ぎると水分が蒸発してパサパサになる。
二度揚げしてもいいが、小麦粉だけではガッツリ水分を抜かないといけないので今回はやらない。
久しぶりですの唐揚げはよくパンに合いました。




