森暮らしの狩リエッティ
出発の朝が来た。
気分はドナドナされる牛のようだ。
「ドナドナドーナー…ドーナー…」グスン
「何の歌ですか?」
朝ご飯を食べて直ぐ出発。
「お兄ちゃん行っちゃうの?」
「ちゃうの?」
うん。やっぱりやめよう!
なんて言えるわけもなく、結果にコミットするブートキャンプへ向かうのであった。
道中あるものと言えば馬糞だけで、魔石を取らなくても倒せば経験値が入るということで、木の棒で魔石を弾き飛ばす作業をしながら歩いてるわけです。
「この道はスライムが多いですね」
「嫌になるほどな」
「これも剣のためです」
「違うけどな」
俺がスローライフを目指していることは知っているはずなのに、セバスチャンは剣のことしか頭に無いようだ。
俺が渡したナイフはコールドスチール製で、動画で豚肉をズバズバ切っていることで有名だ。
日本刀も作っていたし、もしかしたら出てくるかもしれない。
今は伝えないでおこう。
そうこうしているうちに、前に泊まった村が見えてきた。
「ん? お前は…」
「その節はお世話になりました。できれば今回も宿を借りたいのですが…」
「…じつはな」
なんでも今村長の友人が訪ねてきているらしく、唯一の空き家だったあの家は空いてないそうだ。
塀のなかで野営する分にはいいらしいので、中に入れてもらう。
木と木の間にロープを張り、タープを掛けて四隅を地面に挿した枝に固定する。
薪を分けてもらい、火をアルミストーブの中で起こし、晩御飯を作り始める。飯盒でお湯を沸かし、フライパンに移して非常食をふやかす。今日はマリナーラパスタだ。飯盒はお湯を沸かして塩漬け肉と豆を入れてスープにする。
「これは…食べたことがない味ですが美味しいですね」
「こっちでは見たことないが、トマトという野菜と唐辛子という辛いスパイスが入ってる。種なら買えるから、土地でもできたら作るか」
「悪くないですね。そのためにもレベルを上げなければですね」
「いや、今でも買えるぞ」
「まぁまぁ、細かいことは気にせず」
ダメだ、言葉が通じない。
「ちょっといいか?」
振り向くと門番さんが気まずそうにしている。
どうかしたのか聞いてみると、ここはクリージュの町からは一本道で、他の村へは続いていないそうだ。
だけどこんな土地に2回やってきたことで、理由が知りたいらしい。
オークを狩りに来たことを伝えると、分かったと言ってそのまま村長宅へ引き返していった。
次の日、出発するため準備をしているを門番さんがおじいさんを連れてきたな。
「お前たち、オークを討伐しに行くというのは本当か?」
「そうですけど…」
「有り難いが、この村からそんなクエストは発注しとらんぞ?」
「あぁ、レベルを上げるために行くんで」
「そうか、最近森でオークが出る数が増えとるから気を付けなさい」
フラグかな?
そのまま川を遡って、湖に出た。前回はサバイバルで気が付かなかったが、とてもきれいなところである。
「きれいな場所ですね」
「そうだな。スローライフするならこういうところがいいな」
「モンスターも多いですしね」
「それは利点じゃないがな」
取り敢えずタープを設置し荷物をイタズラされないよう木に括り付け、薪拾いをしながら魔物を探す。
今まで見たこと無かったがホーンラビットという角が生えたウサギがいた。
ストーンボールを撃ち込み、倒して血抜きしてストレージに入れる、肉が美味しいらしいので晩飯行きだ。
次はゴブリン2匹で斧でサクッと頂き、ストレージへ。
拠点に戻りウサギを捌く、尻尾から吊るして皮を剥ぎ、内臓と頭を取って埋める。
そのまま足を切り分け、体は斧で縦に割りそのまま塩を振って焼く。
今日の保存食はエンチラーダというメキシコの料理だ。
ついでにフライパンで小麦粉を水と塩でこねたピタパンのようなものを作って食べる。
ウサギは日本で食べた物より肉付きがよく、ジューシーだった。
「旦那様の作るご飯は美味しいですな」
「お湯入れただけだけどな」
食事を終えて、地面に毛布を敷きその上で眠る。
まだ春だし、何も掛けなくても大丈夫だ。虫が怖いがどうしようもない。
角ウサギの素材とゴブリンは50fで売れ、残金は281fになった。
次の日も日の出とともにおき、スープとエナジーバーでお腹を満たす。
さっさとレベルを上げて帰りたい。
オークを探して森を探すと、南へ30分ほど行った所で見つけた。
2匹いて、剣と斧を装備している。
ストーンボールを放ち、斧を持っているオークに当てて転ばせ、それと同時にセバスチャンと飛び出し、1匹ずつ相手にする。
セバスチャンはオークの剣を避けながら首を切り、俺は転んだオーク足を切り落とし、痛みに叫ぶオークの頭を潰す。
オークを回収していると、叫び声を聞いたオークが現れたので、もう一度ストーンボールを放ってからセバスチャンが一撃で沈めた。
オークの魔石は1つ80fで、他は剣が50f、斧が20fだった最後のオークは木の槍だったので0fだ。
レベルが高くても、金になるとは限らない。
でも経験値として優秀だったのだろう、レベルが9に上がった。
残金 591f
「オークってあの大きさで、肉とかもなんにも使えないなんて」
「そうですな、なので組合では討伐料金を高くしてやっておりますな」
「やっぱり、レッドボアを狩るか! 金にも成るし食えるし、経験値は数で埋めよう」
「分かりました。そちらの方が早いかもしれないですね」
今日のメニューはアメリカの国民食、マカロニチーズにピタパン、干し魚のスープである。
不味くはないが、野菜が欲しいな。
明日は森で山菜も採ろう。
セバスチャンに地球について話し、魔物がいないことにビックリしていたので、ざっくりと人間が石器時代から近代までを説明する。
魔法が無いから魔石が無く、魔物も居ない、スキルも無いとかってに納得していた。
夜中、セバスチャンに気配が近づいてきていると起こされた。
ライトを手に気配がする方向を照らすと気配が遠くなっていったようなので追い払えたようだ。
やっぱり柵でも作るかな。
次の日、レッドボアを狩るため探索していると、南の方からレッドボアやゴブリンがどんどん流れてくる。
オークに住みかを奪われ、北上しているのかもしれない。
セバスチャンの感知にまた何かヒットした、行ってみると、8匹のゴブリンの団体様だった。
しかも中に、弓を持った奴がいた。取り敢えずストーンボールを弓持ちに当て、こちらに弓を向ける前にストーンボールを当て続ける。
その間にセバスチャンがゴブリン共を行動不能にし、俺が仕留める。作業である。
ゴブリンが持っていた弓をセバスチャンが調べている。
一応使えるがあまり威力は無いようだ。
さっさと収納し、次へ行く。
レッドボアも3匹ほど狩ったが、それ以上にゴブリンなんかが多く、経験値が足りない。
そこで、拠点を湖の別の場所に変えることにする。
もう昼は過ぎているが、今移動すればまだ間に合うだろう。急いで荷物を片付けてから収納に入れ、足早に湖を時計回りに回っていく。
2時間ほどで移動が終了し、ちょうど拠点にしていた所の反対に出た。
もう遅いので、さっさと拠点を作り、飯にして寝た。明日は討伐をお休みして、洗濯や、レッドボアを捌くのに使う。
それ以外の獲物は売却する。
ゴブリン15匹 375f
コボルト5匹 175f
レッドボア2匹 950f
合計1500f 残金2091f
残った1匹のレッドボアは湖に突っ込んで冷やしておく。ストレージ内って何℃なんだろう。
今日は時間があまり無いので、スープと保存食、エナジーバーで済ます。
結局ずっと討伐してて、山菜は取れなかったな。
流れてきた魔物が多かったが、村は大丈夫だろうか?
「セバスチャン、村は大丈夫だろうか?」
「村にしては塀がしっかりしていたので、オークが来ても大丈夫でしょう」
「今日で2000f溜まったし、値段で狩りをしてもいいが、効率がな」
「そうですね。南の奥の方へ向かえばもっといるかも知れませんが、あまり多くても二人じゃあ厳しいですな」
「遠距離武器があればな」
弓を作っても素人じゃあそんな良いものは作れないだろうし、オークの剣はちょっと刃がガタガタで棍棒とそんな変わらなかった。
1匹ずつ出てくれば言うことは無いが、オークは基本2~5匹で行動するらしい。
翌日俺は湖へレッドボアを捌きに、おじいさんは山へ柴刈りに向かった。
桃じゃなくレッドボアを引き上げ、おじいさんと木に吊るして捌く。
内臓は昨日取っておいたので皮を剥いで、モモ肉とロースを取り、残りは捌かず売却。350fで売れた。
取れた肉はストレージに仕舞い、森を探索する。
少し進んだ所に川を見つけ、近くに魔物の気配があるようなので向かう。
「ワニだな」
「ワニ? ブラックアリゲーターですね。魔石はオークと変わらない値段だったと思います」
「まじか。一杯いるな」
「そうですね。噛みつかれなければ、やりやすいと思います」
「ハルバードを作って叩き潰すか」
握れる太さの木を切り倒し、長めのしっかりした棒にして斧を括り付ける。
それを二本作って俺とセバスチャンで持ち、ワニに対して両方向から攻める。セバスチャンの方を向いたので、頭に斧を振り下ろす。
「めっちゃ簡単やん…」




