ヒアリングは大切
「ヒールの魔道具は、本部も総本部に持っていくみたいです」
「まあそこは任せるよ。 そろそろダンジョンや山へのアタックに向けて、冒険者も強化したいんだけど」
「グスタフさんとセバスチャンさんによる格闘訓練ですね。 是非お願いします」
「それもあるんだけどさ。 筋肉を鍛えるのに負荷が必要なのは分かるよね?」
「肉体労働者の方が体が大きい理由ですね。 理解しています」
「それと同時に筋肉を作る栄養も必要なんだ。 豆や肉、魚に入ってるたんぱく質という物だね」
「食事が大事なのは分かりますが、たんぱく質?という物は存じ上げません」
「ここにプロテインという物があってね。 この粉末にそれらの栄養が入っているんだ」
「つまりこれを飲むと………」
「体が大きくなる。 もちろん運動と一緒に取るんだ。 ただこれを取っても太るだけだね。 とりあえず飲んでみなよ。 本当は牛乳で飲みたいのだけど、俺が出すには保存が不安だし、家畜が来てからだな」
「………うまいですね」
「甘いからね。 俺は嫌いだけど、甘い物をあまり口にしたことが無い冒険者だったらいけると思うんだ」
「これで本当に力が強くなるんですか?」
「3ヶ月ぐらい続ければ効果は出ると思うぞ」
とりあえず粉末を組合に卸して、1日3回飲む量を教えておいた。
さて、次に魔石の買い取りについてだ。
「今俺が魔道具の製造に力を入れているのは分かるよね?」
「はい。 ヒールの魔道具しかり他にも研究されているのは知っています」
「もし魔道具が一般に普及したら魔石は足りるかな?」
「今なら大丈夫ですが、需要が増えた場合は足りなく………」
「俺は買い取ってもいいけど、販売しない方が後々お得だと思うぞ。 交渉材料にもなるし、これからダンジョンもできる」
「………もう一回本部に行ってきます」
「いってらっしゃい。 魔力は補充しておいたから」
グスタフの所に行き、砂利製造器を10個受け取る。
そのまま組合に戻ってきて、受付で10人ほど腕利きを準備してもらった。
ついでに明日から毎日グスタフとセバスチャンが交代で1日3時間、湖の広場で講習を行うことを伝え、家に帰ってきた。
「取り敢えずやることは無いか」
「お茶でございます」
「ありがとうアマンダ。 あれ? セバスチャンは?」
「只今道場の庭園を整備しておられます」
「ああそうか。 最近いろいろやってて整備できなかったしね。 アマンダは何やってたの?」
「今はケン様のお部屋を掃除しておりました」
「どう? 最近子供たちは」
「リリーとエリー、ユナは旅人亭で勉強しております。ユーナ様とセリン様も仕事を覚えて、今は大分余裕があるみたいですね。ベアも旅人亭で料理の勉強ですね。この3人は特に問題無く上達しているようです」
「誰か問題あるの?」
「ピットがポアソン様に付いているのですが、倉庫管理が忙しくてあまり勉強ができていないようです」
「暇だし見てくるか、アマンダも来るか?」
「お供致します」
倉庫に着くと、ポアソンとピットが忙しく物資をリヤカーに積み込んで、配達に行くところだった。
「どうした? 人が足りないのか?」
「いえ、そういうわけでは」
「ピットにあまり勉強を教えられていないようだが?」
「………はい」
「人を増やす、取り敢えずもう2人追加だ。 あとこれからはこうなる前に俺に教えろ。 どこも人を足してるんだ。 別に悪いことじゃない」
「………申し訳ありません」
「その代わりピットにちゃんと教育させてあげてくれ。 湖の子供たちがやりたいと言ったときも断らなくていい。 持て余すようなら仕事はこっちで用意する」
「ピットもやりたいことがあるなら言いなさい。 何も言わなければずっと同じだ。 たしかに商売人の下働きなんてこんなものかも知れないが、ここではちゃんと教育を受けさせるつもりだ。 わかったね」
どうやら俺に悪いと思って二人とも言わなかったようだ。
さすがにここ最近はコミュニケーション不足だったかも知れない。
これは俺が悪いな。
昔飲食店でも忙しさにかまけてアルバイトの仕事量をうまく割り振れなかった。
ちゃんと気を付けよう。
明日は一回全部の職場をゆっくり見てみないとな。
何か困ってることがあるかもしれない。
パーチュも連れていくか。
「まだ時間あるな。 旅人亭も見て帰るか。 アマンダは先に戻るか? 仕事の途中だろ?」
「いえ、もう終わっておりますのでご一緒致します。 それに勉強にもなりますので」
堅いアマンダを連れて旅人亭に入っていく。
1ヶ月ぶりくらいだな。
考えたら俺の誕生日も過ぎてた。
もうすぐロビン君も誕生日だな。
しかしロビン君だけ特別扱いはできないし、まとめて年1でこどもの日でも作るか。
「お久しぶりです。 おやっさん」
「ケンか。 またいろいろやっているみたいだな。 俺にも新しい料理教えろよ。 新しい調味料もベアから聞いたんだからな」
「分かりました。 次はちょっと料理本もいくつか持ってきます」
「頼んだ。 で? 今日はどうした?」
「いや、子供たちと新人の様子を見に来ました」
「そうか。 ベアはキッチンにいるし、リンダさんとジェシカさんはもう帰っている。3人は新人と裏で洗濯物を取り込んでるはずだ」
「分かりました」
キッチンでベアの様子を覗いてみると、一所懸命夜使うニンニクを刻んでいるところだった。
懐かしいな。
俺も昔は同じようなことをやっていた。
「ベア、どうだ? 仕事は」
「ケン様!! とても大変ですが、楽しいです!!」
「そうか。晩御飯は家で食べてるから、夜の営業は出れないだろ? どうする? 夜も手伝うか?」
「いいんですか? やりたいです!!」
「だけどキツイから週3日だけな。 そこはおやっさんと相談して決めなさい。 キツかったら減らしてもいいからな」
「ありがとうございます!!」
「ということでおやっさん、ベアをよろしくお願いします」
「分かった。 責任もって教える」
そのまま裏に行って、丁度洗濯ものを取り込み終わった女性陣にも声をかける。
やっぱり水仕事が多いのか手があかぎれているな。
「どうだ? 仕事は。 希望してきたとはいえ、キツかったら言えよ。 奴隷でもここでは一緒だからな」
「いえ、子供たちも可愛いですし、給料もちゃんと貰えています。 不満はありません」
「聞いて!! セリンさんもユーナさんも冒険者にモテモテなんだよ!!」
「ほぅ。 それは面白いな」
「あの!! えっと!!」
「別にかまわないぞ。 結婚するなら家も準備するしな。 妊娠したら休暇もやるし」
「本当ですか!!」
「いいぞ別に。 ある程度働いてくれれば別に他の仕事を紹介してもいい。 何かあったら教えてくれ」
「ありがとうございます!!」
ヒールの魔道具を渡して、手荒れを治すように伝えて家に帰る。
やっぱりコミュニケーション不足だな。
「リンダさん、ジェシカさん、仕事はどうだ? 休みもあまり取っていないだろう?」
「主様、休みなんて取ったら体壊します!! それよりも最近部屋が足りなすぎて文句が出ています。 旅人亭の拡張か新しい宿屋を作った方がいいかと思います」
「そうです。 今なら旅人亭も人は足りていますし、泊まれる場所を増やすべきです」
「仕事に問題が無いのはいいことだが、宿を増やすのは少し待ってくれ。 先に牧場と農場を作らないといけない。 そろそろ大かくれんぼ大会もあるしな」
「そう言えばそうでした。 ですが、宿を増やす事は考えておいてください」
「分かった。 早めに手を打とう」
部屋が足りないのは分かっていたが、テントでも問題無いと思っていた。
そりゃあ宿とテントだったら宿に泊まりたいよな。
来年の祭りも今年より人は増えそうだし、これも祭りまでになんとか済ませよう。




