下水道のスタートとゴール
「臭く、はないな」
「下水道とはいえ何年使っとるか分からんしな」
「下流と上流、どちらにいく?」
「下流はすぐ出口に着くはずじゃ、まずはそこから確かめておくのがいいじゃろう」
俺たちは、下水道に降りて直ぐのところでどちらに進むか決めている。
下水道とはいえ、歩道1m下水道1mで横幅は2mもある。
館1つ用の下水道にしてはさすがに広すぎる。
これは何かあるな。
下水道を下流に向かって進んでいくと、50mほどで川に繋がった。
ここが終点のようだ。
歩道側は魔物が入ってこないよう石で埋められているが、水道側はそのまま外に繋がっている。
石を回収し、一度外に出て出口の場所を確認する。
館の南に位置しているようだ。
目印として旗を立てて、下水道を今度は上流に向かって進んでいく。
一本道を緩やかなカーブを描きながら200mほど進んでいくと、人工的な下水道が無くなり、天然の洞窟の広場に出てきた。
ドーム状になっている洞窟は天井に穴が空いていて、そこから水が流れ込んでいる。
流れ込んだ先は小さな池になっていて、それ以外では苔と雑草で埋まっていた。
奥には石でできた門が設置されており、門の手前には小さな石碑が置いてあった。
この先ダンジョン。
勇者に潰されないために封鎖する。
ここがダンジョンか。
そりゃあ見つからねぇわ。
多分下水道を作る前は上から入るしか無かったのだろう。
今はとりあえず放置して、組合と話し合おう。
資源としては有用だが、さすがに危険すぎるな。
安全に人や物資を運ぶとなると、我が家の魔王仕様のダンプが必要だろう。
それかハイレベルな冒険者を集めるか。
それができるようになれば、一気にバブル到来だな。
グヘヘ。
「ここはとりあえず今は放置だな。 館に戻って一回作戦会議だ」
「そうじゃの。 ダンジョンなんて聞いたことも無かったが、まさか本当にあるとは」
「全部魔法国が悪いな。 このまま魔道具を普及させていけば、多分そのうちなんかしら仕掛けてくると思うぞ」
「えー!! また戦争っすかぁ?」
「頼んだぞジェイソン軍務大臣」
「え?」
とりあえず全員を連れて宿に戻り、昼食にする。
昼食は昨日のスープにルーを突っ込んだだけのカレー。
まあトマトウインナーカレーってところだな。
「すげぇ。 めっちゃ香辛料使ってる」
「聞いたか? さっきまた戦争って言ってたぞ」
「何も言うな。 みんな聞いたけど無視してんだ」
「「うめぇ」」
昼食後、みんなにこれからの動きを説明する。
とりあえずこの館の探索を完璧に終わらせ、なんなら少し修繕もして帰りたい。
これからダンジョンやらなんやらをやる場合の拠点になるはずだ。
石造りだし、多少の修復と補強で十分使えるようになるはずだ。
下水道も整備しないと人が来るようになればちゃんと下水道として臭くなるはずだしな。
2階も全部寸法を測ったが、変なところは無し。
屋根裏も何も無い。
しけてんな。
屋根も石造りでそのまま屋上に上がれるようになっており、見張り台としての機能もあるようだ。
遠くでデカイ魔物が飛んでいるが、巣なんかを張られないように所々鉄杭が飛び出している。
剥がれた石をセメントを石で埋め、壁を補強していく。
トイレは和式のままで、糞便がたまったら水で流す仕様のようだ。
水が出る魔道具を即席で造り、たらいを設置して直ぐに流せるようにしておいた。
ドアや窓も新しく設置、朽ちた家具なんかはまとめて売却し、新しい物に取り替えておいた。
ここまで2日、後1日残ってるが今回は早めに帰ろう。
魔道具を弄りたい。
「とりあえず早いけど帰るか。それぞれの仕事も6日休んでいる」
「そうじゃな。 ここまでしておけば襲われん限り大丈夫じゃろう。 問題があったらまた来ればええ」
「帰りだが、下水から船で帰ってみたい。 どこまで繋がっているか確認したいからな」
「そうじゃな。 これからを考えれば水路輸送も考えといた方がいいかもしれん」
「それでは下水道の出口からということでよろしいですかな?」
合計10人いるし、俺が持っている船でもギリギリだ。
というか無理だな。
二艘に分けて進もう。
6人乗りボートにエンジンを付けて、5人ずつ分かれて乗り込む。
俺が運転の方にはジェイソンとシード。
グスタフが運転の方にはセバスチャン。
「とりあえず分かれ道が出たら南に向かって進んでいけ、流れがあまりにも急だったら降りて進むぞ」
「分かった」
山の途中にある川なので、川幅も狭いうえに流れが速い。
おまけに岩が多過ぎてまともに進めない。
運転をジェイソンに代わり、俺は一人乗りのカヌーで先行してデカイ岩を収納にしまいながら進んでいく。
一応カヌーはロープでボートに10mほどの長さで固定してあり、流され過ぎないようにはしてある。
岩を収納すると、そこに空洞ができて一気に水が流れ込んでいく。
俺も収納したそばからカヌーがそれに巻き込まれ、何回も転覆しそうになる。
左右に揺らされて結構グロッキーだ。
ようやく流れが落ち着いたところで一旦休憩。
もう昼食も食べずに6時間ぐらい進んでいる。
腕も上がらない。
川下りの案はボツだな。
疲れた割にあんまり進んでいる気がしない。
何より後ろのボートもスクリューをしょっちゅう川底に擦っているらしく、思うように進んでいない。
やっぱり楽しようとするとダメね。
「ここからは陸路で川に沿って進もう。 俺がもう限界だ。 気持ち悪い」
「後ろから見てても左右に揺さぶられて可哀想になってきました」
「この川は川横の砂利の幅が意外と広い。大きい石の上は歩きづらいが、隙間を砂利で埋めればいい道になるかもしれない」
「あんなグラグラにされてよくそんなこと思い付きますね」
「グラグラにされたくないから思い付いたんだ」
「カッカッカ!! よくそんなこと思い付くのぉ。 じゃが上流の大きい石の隙間さえ埋められれば歩きやすくはなるかもしれん」
まだ15時だが、もうヘトヘトなので今日はここで1泊する。
試しに砂利を敷いてみて、その上でキャンプしてみよう。
もう晩飯は作る気力も無いので、冒険者たちに指示を出して海賊料理にした。
これなら突っ込むだけだし、そのままスープにもなる。
俺は材料を出すだけだ。
約束通り帰りは飲み放題の食い放題だ。
よかったな。
「山で海鮮………」
「ダメだ!! 考えるな!! 飲み放題食い放題だけ考えろ!!」
「あの人に逆らってはいけない………」
「クソッ!! 手遅れか!!」
「いいから働けバカ野郎」
ちゃっちゃと晩飯を作り終えて、みんなで早めの宴会にする。
マットを砂利の上に敷いて、中央には各種調味料と山盛りの魚介類。
脇には大量の酒が並んでいる。
「うめぇよぉ………。 もうここから離れられねぇ………。 グスッ」
「あぁ………。 もう俺たちはここで生きていくしか無いんだな………」
「ホッホッホ。 愉快なお友達が増えましたな」
「他の冒険者勧誘すると特典もあるぞ。 頑張ってダイアモンド会員を目指してくれ。 その紹介者が他を勧誘することでバックマージンももらえる」
「やばい匂いがするよぉ……… グスッ」
バカなことを言いながら宴会は進み、ジェイソンをスキンヘッドにする儀式も終えた。
あれ? なんか人増えてない?
「1、2、3………。 なんで13人いるんだ?」
「旦那様、匂いに釣られてフラフラとやってきたようでございます。 グスタフ殿が許可を出していました」
「なるほどな。 おーい!! ここからキャンプ場までどれくらいだ?」
「歩いて50mも離れてないっすよ。 俺たちもキャンプ場から匂いに釣られて来たんです」
「はぁ!? 50m? じゃあこの川はキャンプ場に繋がってんのか?」
「あれ? 知らなかったんですか? てっきりキャンプ場近くで宴会してるものだと思ってました」
もうキャンプ場は目と鼻の先らしい。
クソッ!!
もう少し頑張ってれば今日中に帰れたのに!!
こうなったらもうやけくそだ。
「キャンプ場にいるやつらも呼んでこい。 飲ませないと可哀想だ」
「さすがケン様!! 直ぐに呼んで参ります!!」
「サイレンは鳴らすなよ!! キャンプ場の奴らだけだぞ!!」
冒険者は敬礼をしてダッシュで森に消えていった。
まさかあのカーブを曲がればゴールだったとは。
でも山を1つ越えるよりかは確実に安全で早いな。
砂利道を整備すれば、確実に儲かる。
組合がどんどん化け物になっていくな。
フィクサーとしては微笑ましいかぎりだ。
冒険者が20人ほど追加され、料理も肉類が追加された。
今回魔笛を使わなかったのは、さすがにここに湖からも人間が来たら大変なことになるからだ。
書いていて後処理に困った。
メタい発言はそこまでにして、宴会を楽しもう。
もう今日はヘトヘトだ。
というかどれぐらい進んだんだ?
結構流れも速かったし、左右に揺られ過ぎて距離がわからない。
最初エンジンで進んでいたし、カヌーで進んだ距離は実際あまりないのかもしれない。
俺はうちの人間を集めてこれからの行動予定を立てていく。
まずは魔道具工場を完成させて、魔道具を普及させていく。
次に牧場を作り、家畜を生産していく。
俺は魔道具の開発とダンジョンまでの道を整備。
ジェイソンはそろそろ燻製の味を増やしていく予定だ。
いつまでも醤油があるわけじゃないからな。
セバスチャンとグスタフは冒険者の強化もお願いしよう。
いやー。
スローライフって素晴らしいな。




