川で二人
「MVをな、考えたんだよ。」
「そう」
「人気のない小さな公園でな、おにぎり食ってんだよ。でな、画面は変わって、今度は橋で瓶の酒飲んでんの。でそれを川に投げ捨てる。次のシーンでその瓶を拾って中の水を飲み干すんだよ。それで丸まって、起き上がった時に背面でピースを振るの。」
「へー」
「そんで、山。マジックアワー。煙草の紫煙が赤みがかるんだ。」
「なあそんな事より今週のバナナ炎見た?」
「あーあれな」
「あんなんあるか?」
「俺は一つ思い付いたぞ」
「なに」
「彼女がな」
「ああそういう系ね」
「彼女がずっと別れる雰囲気作ってんの。で話があるって。別れるとは言わないよ。でも絶対別れるなって感じ。出来れば違う男の影が欲しいね。」
「へー」
「でも実は話ってのはプロポーズのことなんだよ」
「確かにそれは涙出るかもね」
「なあ俺な、漫画の構想も沢山あんだよ。」
「絵描けないじゃん」
「じゃあ小説でもいいや」
「そ」
「映画もあんの。始まりは天使の歌声、そんな回想から。天使のような普通の女の子とハードボイルドな男の話ね。ラストはアミーゴと、普通な俺の部屋には目立ち過ぎる真っ赤なソファーで歌って踊んだよ。オシャレだろ?」
「まんまバースデイだな。」
「分かる?」
「そりゃな」
「なんかさ」
「ん」
「誰か代わりに書いてくんねーかな」
「したらお前のじゃなくなんぞ」
「それでもいいよ。たださ、形にしてみたいんだよ。面白くはないだろうけどさ。なんて言うかさ、心残り。」
「死ぬの?」
「いつかな」
「まあいいや、そろそろ行こ?」
「どこにだよ」
「小さな公園」
「流石だな」
「でも一人がいんだろ。どうせ。」
「分かってんじゃん」
「じゃあ行ってら」
「冷てえ奴」
「暖かいのは嫌いだろ」
「お前俺かよ」
「俺は俺だよ」
「まあそうだけどさ」
「なあこの前さ、動物園行ったじゃん?」
「お前一人でな」
「やっぱ身の危険を感じた」
「へー、お前もそんな事言うんだな。」
「いやね、まあ、あいつの先祖ってのはさ、人間より強かったわけじゃん。」
「そうだな。変わったのは人間の方だけど。」
「そうなんだよ。だからさ、なんか怖くないか?」
「は?相変わらずの飛躍具合いだな。」
「だってさ、あいつの先祖はまさか自分の子孫が檻の中で暮らしてるだなんて思ってないだろ?」
「そりゃ檻すらなかっただろうからな」
「そうだろ?だからさ、俺らもいつか想像も出来ないような追い越され方すっかもよ?」
「そうか?」
「ああ、それこそ細胞単位で。」
「やっぱ飛躍してんな。」
「確かに飛んだけど、でもさ、お前だってまさか還俗するとは思わなかったろ。」
「それは言うな。つか急に難しい言葉を。覚えたてか?」
「まあそうだが、俺はな、名ずけたんだ。人類還俗計画。」
「お前も少しは自重した方がいいぞ。」
「いんだよ」
「そうか」
「なあ」
「なんだよ」
「過去があるからどうとかってよく言うけどさ」
「ほんと急だな。」
「俺はさ、明日があるから頑張れるんだと思うわけよ。」
「へー」
「だってさ、明日世界が終わるって分かってたら仕事や趣味どころじゃねーだろ?」
「まあ」
「つまりな」
「なに」
「俺に明日は来ねえ」
「は?」
「やっぱ死のうかなって」
「止めねえぞ」
「ありがとな」
「お前なあ。おい、なんだよ。黙りか?」
「いやこっから先なんも考えてなかった」
「ここまでも別に考えちゃなかったろ」
「いやそうなんだけどさ」
「だけどなんだよ」
「一人は寂しい」
「正直な奴だな」
「でもさ、一人じゃなきゃ落ち着かねんだよ」
「山にでも行って来いよ」
「出来ることならそうしてる」
「出来んだろそんくらい」
「あと数時間もすりゃ仕事の始まりだ」
「そうだな、だから?」
「死ぬ」
「もう好きにしろ」
「でももう少し話しててくれ」
「話してんのはお前だったろ。おい。またか。まあそうだな、さっきお前が言ってたが、世界の終わりってのはさ、そう簡単には来ないんじゃないか?」
「自分が死んだらそれは世界が終わったのと変わんないだろ」
「そうだけど」
「自分で死ぬのは俺には難しいことだけどさ、事故で死ぬのは簡単だぜ。」
「かもな」
「それにさ、宇宙は広いんだ」
「はあ」
「だからな、地球なんて小さい星、ましてやこんな小さな国はいつ終わってもおかしくないんだよ。」
「そうか」
「ああ、そうだ。」
「そう。なあそれよりさ、心残りって他にはねえの?」
「あるよ、勿論。沢山な。」
「なに?」
「とりあえずこのライター貰ってくれ、形見だ。」
「いくらで売れる」
「五千円くらい」
「よし貰った」
「あとは、小説書いてくれよ。俺との会話を。」
「まあどっかのサイトでもいいなら」
「いいよ、さっきも言ったが別になんでもいんだよ。死ぬんだから金なんて意味ねーしな。」
「あとはなんかあるか?」
「そうだな、先輩方に謝っといてくれ」
「俺が言って意味あんのか?」
「ねえだろ、そりゃ。つかそれ言ったら全部そうだろうがよ。」
「分かったよ。」
「はぁ」
「なんだよ」
「疲れた」
「俺も」
「誰かには読んで欲しいな」
「小説か?」
「そお」
「まあ一人くらいは読むだろ」
「そっか」
「多分な」
「なあ逃げるってさ、どういうことだと思う?」
「さあ、死ぬとかか?」
「俺はな」
「自分が話すために人に質問すんなよ」
「いいだろ皆やってるんだし」
「そういうのだろ、逃げるってのは」
「いい事言うな。」
「そうでもねえだろ」
「楽な方を選ぶ事が逃げるってことだとするとさ、ついてない時ってのはさ、自然と辛い思いをするわけだから、逃げ道が閉ざされてる状態だと思うんだ。」
「分からんがそうか」
「逃げ道を走ってる時が転がり落ちてる状態だとするとさ、不幸のどん底はそれが止んだ時なのかもな。」
「なにが言いたいんだよ」
「だから俺は不幸に憧れるのかな」
「ただ同情されたいだけだろ」
「かもな、でもこうも思うんだ。あんたにこの辛さなんか分からないって、言われたくないのかもって。」
「なあどうでもいいが、なんか聞き覚えがあるような気がすんだよな。」
「馬鹿は不幸が好きなんだ?」
「ハイロウズか」
「そう」
「そうかあ、すっきりしたわ。」
「でも結局さ、誰かにすがりつく理由が欲しいだけなのかもな」
「それはありそうだな」
「だろ」
「ああ」
「なあなんでさ、今辛いんだろ」
「さあな」
「今の心情をベルトに例えるとキツキツの状態だな」
「あっそう」
「どうやって絞めたのか、もう緩める為に引っ張るゆとりもない。」
「そんな感じか」
「そう、そんな感じ」
「まあそろそろ行くよ」
「あ、そうだ。その前にさ、モンスター買ってやるよ」
「お、マジか。ちょうどカフェイン中毒で死にたかったところだ」
「まああれだ、ライターのお返し。」
「いや死ぬんだし貰って欲しかったんだよ。なんとなく。あっそうだ、他にも色々やるよ。」
「えー、いいよ別に。」
「いいだろ最後くらい貰ってくれても」
「最後だから嫌なんだよ」
「もう分かったよ」
「いや貰う」
「なんなんだよ。まあじゃあこれ全部やるよ」
「お、サンキューな。」
「インパルス」
「正解」
「じゃあモンスター」
「ああそうだった、ちょっと待ってな。」
「おう」
「よし、ほらっ。」
「おう」
「なあお前さ」
「なに」
「本当に死ぬの」
「おいおい、これが死ぬ奴の顔に見えるか?とても楽しそうだろう。」
「言いたいだけだろ」
「まあな」
「冗談か?」
「いや本当に楽しいよ」
「お前なあ」
「いいだろ、もう」
「いやでもさ、実は俺も死にてんだよ」
「は?」
「いやお前ほどじゃないぞ、多分。」
「そう」
「でもさ、もしお前が死んだ後死にたくなってさ、それで死んだらなんか後追い自殺みたいだなって。」
「確かにな、でもお前は死ぬなよ」
「かってな奴だな」
「知ってんだろ」
「まあな」
「じゃあもう本当に、もう行くよ」
「分かったよ、じゃあな」
「おう」
「今度川で魚捕まえような」
「ああ、いいともさ。もし生きてて、しかも後遺症が残んなかったらな。」
「寝込んでても川に連れてくよ」
「埋葬か」
「そんなとこだ」
「まあ、じゃあな」
「ああ、じゃあな」
「ありがとな、なんか」
「いんだよ別に。」
「じゃあ」
「ああ」