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はんぶんこ

作者: よには

 マリーちゃんとメリーちゃんは双子の女の子です。

 生まれたときから一緒の二人はなんでもはんぶんこにして過ごしています。


 庭の木に生るベリーの実、ママの焼いた甘いアップルパイ、近所のおじさんから貰った2人のお姫様人形、1枚しかない毛布、悲しいことも、苦しいことも、何もかも全てを分かち合っていました。


 二人で分けることに疑問を覚えない、わがままを言わない女の子たちは、とても手のかからない子供でした。

 早くからパパが他界してしまっている中、女手一つで育てているママは、他者を思いやれるそんな二人にいつも感謝していました。



* * * * *



 ある時、マリーちゃんは気づきました。



「ママはひとりでいつもたいへんそう! わたしとメリーちゃんといつでもいっしょできるようにしてあげたいなあ」



 マリーちゃんはママを想える優しい女の子なのでした。

 一緒に育ったメリーちゃんの気持ちも、当然のことながら同じでした。

 わたしもいっしょにかんがえると手を挙げながら元気な声を出しました。

 心の優しい小さな双子は、どうしたらママに楽をさせられるのか、うんうんと考えました。



「そうだ! わたしとメリーちゃんでママをはんぶんこしちゃえばいいんだ!」


「そうだね! マリーちゃん、すごいすごい!」



 今までも双子の女の子たちはすべてをはんぶんこにしてきました。

 だからこそ、ママもはんぶんこにしてしまえば良いと考えついてしまったのです。


 他の誰かがこの場に居たとしたら、この後の悲劇は防げたでしょう。

 間の悪いことに、今の季節は森から生まれた恵みの収穫期でした。

 ママは森へ果物を取りに出掛けていましたし、近所の大人たちも他所の子を見ているほどの余裕がありませんでした。


 思い立った子供は簡単には止まりません。

 結果を深く考えることなどもちろんしません。

 その日の夜、マリーちゃんはママを"はんぶんこ”にしてしまいました。


 善かれと思って、助けたいと思ってママを分け合った二人でしたが、それから二人がママからの愛情を受けることはありませんでした。



「どうしてママはうごかなくなっちゃったのかなあ?」


「いままでなんでもはんぶんこにしてきたのに、ダメだったのかなあ」



 ママを"はんぶんこ”にすることがどのような結果を招くのか、幼い二人には分かりませんでした。


 誰も悪くはありません。

 強いて言うなら、"はんぶんこ”はやってはいけないことだと教えてくれなかった世の中が悪かったのでしょう。

 ただ、彼女たちは優しさは時に残酷なものでもあることを知らなかっただけなのでした。


 そこに罪悪感と言うものはありませんでした。

 当然です。

 彼女たちにとって、ママを"はんぶんこ”にすることはいつもやっていた双子で分かち合うことの延長であって、罪などでは無いのですから。


 初めての"はんぶんこ”の後には、ほんの少しの後ろめたさと大きな疑問が残ったのでした。


 しばらく経っても動かないママを見てマリーちゃんたちは自分でごはんを作ることにしました。

 ママのようには上手く作れませんでしたが、メリーちゃんと一緒に食べたミートパイはとても美味しいものでした。


 その後もママは動きませんでした。

 人形のようになってしまったママを見て、双子は大きな声でわんわんと泣きました。

 二人はこの悲しみをはんぶんこにして励まし合い、次第に元の明るさが戻って来たのでした。


 ママのお手伝いをしていたおかげで、日々の生活への変化はあまりありませんでした。

 それでも、双子に愛情を注いでくれる存在が居なくなったことはもう取り返しのないものでした。



* * * * *



 ある時、マリーちゃんは気づきました。


 マリーちゃんは双子でなんでもわけあっていますが、近所のミミちゃんはなんでも丸ごともらえていたのです。

 彼女はマリーちゃんたちと同じ小さな女の子でしたが、マリーちゃんたちとは違い一人っ子でした。

 双子がはんぶんこにしている甘いお菓子も、暖かい毛布も、両親の愛情も一身に受けています。


 そんなミミちゃんは言いました。



「ふたりでうれしいこともかなしいことも、なんでもわけあっているんでしょ? いいなー」



 ミミちゃんの一言で、マリーちゃんは理解してしまいました。

 形のあるものや悲しいことだけでなく、嬉しいこともはんぶんこにしていた事実を。

 メリーちゃんが居なくなればはんぶんこにしていた喜びや楽しみが2倍になるかもしれないことを。

 そう、独り占めを。


 マリーちゃんはいままで聞き分けの良い優しい女の子でした。

 双子のどちらかがもう少し強情な子供であったとしたら、この後の悲劇は防げたでしょう。

 しかし、マリーちゃんもメリーちゃんもどうしようもないほど純粋な良い子であり続け、わがままを言い始める時期が致命的に遅かったのでした。


 思い立った子供は簡単には止まりません。

 結果を深く考えることなどもちろんしません。

 その日の夜、マリーちゃんはメリーちゃんを”はんぶんこ”にしてしまいました。


 誰も悪くはありません。

 強いて言うなら、双子で感じていた喜びも楽しみもはんぶんこになっていなかったことを教えてくれなかった世の中が悪かったのでしょう。

 ただ、手段が残酷なものでもあることを知らなかっただけなのでした。


 そうして、マリーちゃんはひとりぼっちになってしまいました。

 ママのように動かなくなってしまったメリーちゃんを見て年相応の女の子のようにえぐえぐと泣きました。

 いつも一緒にいたメリーちゃんが居なくなってしまい、悲しみをはんぶんこに出来る相手はもう居ませんでした。

 大好きなアップルパイを食べても、暖かい毛布で寝ても、マリーちゃんは満たされませんでした。

 マリーちゃんは幸福感が2倍になると思っていましたが、想定していたものが訪れることは決してありませんでした。

 むしろ減っているとさえ感じてしまいました。


 数日が過ぎ、泣き止んだ女の子はどうすれば自分が幸せになれるか考えました。


 そうして、ママの愛情をメリーちゃんと分かち合っていた時が一番幸せだったことを思い出したのです。



「あ、そっか! はんぶんこってしあわせなことなんだ!」



 マリーちゃんははんぶんこにしていたことが幸せであると思い付きました。


 暖かい家庭で過ごした思い出にはたくさんのはんぶんこがありました。

 メリーちゃんと食べ物をはんぶんこ、居場所をはんぶんこ、おもちゃをはんぶんこ、ママの愛情をはんぶんこ、そして、ママを"はんぶんこ”。


 マリーちゃんにとって、はんぶんこにすることと"はんぶんこ”にすることは同じことでした。

 どちらも二つに分けることなのですから。

 ママとメリーちゃんを"はんぶんこ”にしたことで泣いた意味がわからないほどに、なにも知らなかったのでした。

 彼女を諭す者はどこにも居ませんでした。

 なぜなら、それを出来る者たちはもうすでに"はんぶんこ”になってしまっているのですから。



* * * * *



 こうして、一体の怪物が世に現れてしまったのです。

 "はんぶんこ”にできるもの全てを"はんぶんこ”にする善悪のボタンを掛け違えてしまった悪夢のような存在。

 すべてをはんぶんこにすることこそが幸福であると疑うことのない純粋で無垢な女の子。


 ここまで知っていれば、文字を読めるほどに頭のいいあなたたちのことです。

 本当は、もう、気づいているでしょう。

 全てをはんぶんこにすることが幸せではないことに。

 ものを分かち合えるほどに親しい相手がいること自体が幸せであることに。


 そして、幸せは奪うものではないことに。


 幸せを求めるひとりぼっちの女の子は、今日もどこかでなにかを"はんぶんこ”にしていることでしょう。

 それはきっと誰かが教えてくれるまで続くでしょう。

 なぜなら彼女はなにも知らないのですから。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

活動報告にあとがきをあげますので良ければどうぞ。

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