Chapter:1 〜Hey my friend〜
翌週。
「よう、調子はどうだ?」
朝、教室で座っていると、鞄を置くなり話しかけてきた奴がいる。
星野光。いつも俺と遊んでいる悪友だ。
「ん?翔、どーしたんだその頬。」
「頬?」
光に指摘され、触ってみると少し痛みが走る。
こんなとこ怪我した覚えは…あ、あの時か。
「気付いてなかったのか?」
「あぁ。今初めて気付いたよ。」
「何でまたそんなとこ切ったんだ?」
俺は光に先週末の夜の出来事を話した。
「へぇ、あの後そんなことがあったのか。ま、そんなナンパヤロー共なんて、軽くあしらったんだろ?」
「ま、敵じゃなかったな。」
「これも俺のおかげだな。」
といって光は笑った。
そうなのだ。俺と光は幼馴染。
光は幼い頃から色々な武道を習っている。
それで昔から光は俺をよく練習台にしていた。
初めは手も足もでない俺だったが、中学に上がる頃にはまともに相手が出来るほどになっていた。
だから、あんなナンパ野郎なんて屁でもない。
まぁ俺の戦い方は、光が色々な武道を習っている所為で完全に自己流だが。
「それで、その助けた女の子は?」
「別に助けたわけじゃねぇよ。」
「まぁまぁ。話くらいはしたんだろ?」
光が少しニヤっとして言った。
「いや、別に。」
「別にって、何も話さなかったのか?」
「早く帰れよ、とかは言った気がするけど。」
「それだけ?」
「そんくらいかな。」
「かぁー!これだから翔は!」
光が両手を広げ、オーバーリアクションをした。
「お前は顔だけみりゃ結構イケてるんだから、もっと積極的に行こうぜ!他校にもお前のファン結構多いんだぞ?」
「そうなの?」
初耳だ。
「あぁ。よく、『沖田君ってカッコイイ』って言ってるの聞くぞ。」
「全く判らなかった。」
俺は素でそう返した。
「ま、他校だからな。でも、そーゆーとこが可愛いんだよなお前は。」
光が他校と言ったのは、ウチが男子校だから。
当然、周りは男しかいない。
ちなみに、男に好かれる趣味はない。
そこでチャイムがなり、HRのため担任が入ってきた。
今は3月で、明日から春休み。
高校1年のこの時期に担任が話すことと言えば、2年生は中だるみなんたらかんたら。
俺はそんな話には興味がないから、窓の外を眺めてボーっとしていた。
すると、担任が突然こんなことを言った。
「さて、明日から春休みで4月になれば女子が入ってくるからってあまり浮かれないようにな。」
「え?」
俺は唐突な話に、ついついマヌケな声を出してしまった。
「何だ沖田。まさか合併の話、知りませんでしたなんて言うんじゃないだろうな?」
いや、流石に俺でもそれはない。
生徒不足のため、近くにある女子校との合併についての話は入学前から知っていたが、今年からだっけ?
「今年からだ。春休み中によーく確認しておけよ。」
…どうやら声に出していたらしい。
HRを終えるチャイムが鳴り、担任が出て行くと、光が寄ってきた。
「なんだ翔。来月から我が男子校に女子が来るの知らなかったのか?」
光がニヤついて言った。
「いや、もちろん合併は知ってたけど、来年度からだってのは知らなかった。」
「お前がちゃんと学校こねぇのが悪いんじゃねぇか。お前学校来ても大抵朝はいないしな。」
ぶっちゃければ、俺はサボり魔。
だが、テストの成績がそれなりにいいから何とかダブりは免れた。
ちなみにこの光は、テストの成績は平均やや下だが、ほとんど学校を休まないからダブりの心配はなかったようだ。
「新学期がこんなに楽しみなのは初めてだ!男ばっかだと自由だけど、華がないしな。」
という光の顔は希望に満ちている。
その後俺と光は終業式のために体育館に向かった。