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ep3・ガバガバストーカー対策会議。

ブクマ評価ありがとうございます。

「ありがとう、おかげで早く終わったよ」


 箒を直しつつ感謝を述べるとマヤちゃんは朗らかに笑った。


「えへへー。どういたしましてっ」


 その表情は普段見せているものとは異なり、どこか無邪気さをまとっている。


「じ、じゃあこれで」


 気恥しさに耐えられず、早々に帰宅しようとして――。


「ま、待って!」


「ひゃいっ!?」


 マヤちゃんが後ろから右手を掴んできた。

 女の子の手を握られたことなど無いので過剰に反応してしまう。

 状況がいまいち飲み込めず、しどろもどろな態度となってしまった。


「あ、あの……あのね、えっと」


 と言うか、マヤちゃんも平素の彼女らしくない様子。

 いや、平素の彼女など特に知りはしないのだが。

 何を言うのか体を硬直させて待っていると、マヤちゃんは意を決したように告げた。


「あの……良かったら一緒に、か、帰らない?」


 なんとまさかのお誘いだ。

 美少女と二人で下校、めくるめく青春の1ページ。


 断る理由なんて……ある。


「ごめん、この後友達と約束してて」


 相手は詩織である。

 俺達は最寄り駅が同じなため、そちらのファミレスなどで共に食事することが多い。


 本日は相談の続きを兼ねて、俺が奢る約束をつい先程取り付けたばかりだ。


「と、友達って、女の子?」


「え!? あー、その……」


 仲良くしているのを知られる訳には行かない。

 そのための言葉を濁すが。


「へぇ、女の子なんだ」


「うっ。そ、そうだけど。中学からの唯一の友達なんだ。先に約束してたし、反故には出来ないから、ごめんね。マヤちゃん」


 妙な威圧感を放つ彼女に、慌てて言い訳を述べる。


 と言うか、何でこんなに攻められている風なんだ!?

 今日初めて喋ったばっかりだよね!? なんか怖いんだけど!

 それに腕を掴むマヤちゃんの力が滅茶苦茶強くなってるし……普通に痛い。


「ううん、気にしないで。そっかぁ、じゃあまた今度誘うね」


 かと思うといつもの笑みに戻って、手を解放してくれる。


「ご、ごめんね。じゃあまた明日」


「うん、またね(・・・)



  †



 電車を乗り継いで地元の駅まで戻ってくる。

 改札を抜けたあたりで、ゾクッと悪寒を感じた。


 ――見られている。


 慌てて周りを見渡すが、電車から降りてきた人が多く特定ができない。

 怖くなったので駆け足で待ち合わせのファミレスへと向かった。


 ファミレスに着くとボックス席に座ってジュースを飲む褐色ギャルを発見。

 その正面に腰かける。


 詩織は俺の到着に気がついたようで、スマホから視線を上げ、ストローから口を離して言った。


「誰ですか?」


「えっ?」


「三十分も遅刻する人、私は知りません」


 ジトっとした目線を送ってくる詩織。

 これは下手に言い訳するより謝るほうがいいな。


「悪い、なんか奢る」


 すると今までの顰めっ面が一変。

 華のようなニッコニコ笑顔を浮かべ媚びるような声を出す。


「わぁ、ありがとう! 愛してるぞ、コウ!」


 こいつ心にもないことを……そうだ。


「それは奇遇だな! 俺も愛してるぞぉ!」


 言った瞬間、詩織は僅かに固まる。


 ――と。

 ガシャン!


 不意に店内に響く落下音。

 どうやらどこかの客がコップをひっくり返したらしい。


 今の物音で我に返った様子の詩織。

 わざわざ「……はっ!」と声に出す必要はないと思うが。


 ふと、詩織がニヤッといたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「んー? じゃあキスするかぁ? ほれほーれ」


「うぐ、わかった。悪かったよ」


 身体をぐいっと寄せてくる詩織。

 俺は大人しく白旗を上げた。


 それを見て満足したのか大人しく席に戻り、ジュースを飲んでから口を開いた。


「……で、ストーカーの件なんだけどさ」


「あ、もういきなりその話なんだ」


「友達に一応聞いてみたんだよ」


「行動が早くて助かります」


「一応ストーカー被害にあった子と、ストーカー行為をやってた奴に聞いてみたんだけどさ」


「詩織の交友関係の広さに寂しさを覚えちゃうね」


「……さっきから1回1回口を挟むなよ」


 おっとこれは失礼。

 目配せで先を促す。


「で、分かったことなんだが……警察に行こう」


「……」


「そこはなんか言ってくれ」


 こりゃ失敬。


「警察って、そんな大事(おおごと)にするのか? まだ何も被害はないぞ?」


「何かあってからじゃ遅いだろ」


「そりゃ、そうだけどさ」


 でも警察って。

 もしかしたら俺の勘違いかも、しれないのに……。


 悩んでいると眼前の詩織が真剣な表情で言った。


「私さ、コウに傷ついて欲しくないんだよ。コウには、幸せになって欲しいんだ」


「……わかってる」


 気が付くと詩織の目尻に涙が溜まっていた。


「詩織、ありがとな。心配してくれて」


 彼女の気遣いに感謝を述べると、詩織は制服の袖で涙を拭う。


「別に……で、どうするの?」


「詩織の言うことは一理あると思う。でも何もわからない状況で警察に行っても意味ないと思うから、もう少し自分で探ってみるよ」


「そっか。うん、わかった。一応私もなんか考えとくけど、また何かあったら相談しろよ?」


「ありがとう、詩織」


 それから詩織と晩御飯を食べて、俺達はそれぞれ帰路に着いたのだった。



  †



 ファミレスから出ていった二人の背を見つめる、一人の少女の姿があった。


「長宮詩織。コウくんの、親友」


 唇を噛み締め、拳を強く握りしめる。


「もし、また(・・)コウくんに何かしたら……」


 そう呟いたところで、ファミレスの店員が出てきて、少女に声をかける。


「お客様、忘れ物です」


 渡されたのは少女のスマートフォンだった。


「あっ、ありがとうございます!」


 これを笑顔で受け取る少女。

 店員の男性はその美貌に思わず見とれほうけてしまった。


 しかし少女は気にすることなく少年たちが向かったのと同じ方向へと歩き出した。

 そして店員の視界から完全に外れると、カバンの中からウェットティッシュを取り出して、スマホを拭いた。


「コウくん以外の男に触られるなんて……最悪」


 嫌悪感を顕にしつつ、拭き終わるとウェットティッシュはコンビニのゴミ箱に。

 スマホはカバンへと戻す。


 そうして開かれたカバンの中には、四角くて黒い機械が入っていた。


 ――人はそれをスタンガンと呼ぶ。

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