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22/22

ep22・カフェデート。

1日遅れてすいません。

 マヤちゃんとカフェにて座して待つ。

 美少女と席を共にできると言うのは男子として非常に嬉しい限りである。


 オシャレで少しばかりお高いカフェと言う事もあり、同所を訪れる皆々様はどの方もリア充していた。

 つまるところ顔面偏差値が非常に高い。

 店員すらもその例に漏れない店内で、しかし、マヤちゃんに敵う人はいなかった。


 詩織の件も大事だけれど、だからと言ってマヤちゃんを蔑ろにするのはまた別の問題。


 珈琲を注文した後、俺は口を開く。


「そう言えば、マヤちゃんと一緒に出掛けたのって、これでまだ一回しかないんだよね」


「そうかな? ……うん、そうかも」


 マヤちゃんと一緒にどこかへ行ったのは、初日のカフェの時だけだ。

 以前のファミレスも、本日のカフェも、詩織との作戦会議と言う名目のもとに成り立っている。

 それ以外も、基本的にはマヤちゃんを家まで送るなどしかしていない。


「思えば、全然恋人っぽいことしてないね」


「夫婦っぽい事ならしたけどね」


 マヤちゃんは蠱惑的な笑みを浮かべつつ、首の根元辺りを指でとんとん。

 それが俺の首に貼られたキスマークを隠す絆創膏だと気付き、言葉の意味を理解した。


「その絆創膏って、どうしたの?」


「朝、更科さんが『気を付けろよ』って言ってくれた」


「私的には隠さないで来てほしかったけどなぁ~」


「それだったら周りにバレてたよ……」


「えぇ~いいじゃん」


「へ、変な目で見られてたかもしれないしさぁ……」


「でも、それで私たちが『本物』で、誰もつけ入るすきがないって周りに見せられるんだったら、私は別に気にしないけどねー」


 ニコニコしながら珈琲を口に含む。


 俺もカップに口を付けると少しばかり強めの苦みが口の中に広がった。


「はい、砂糖とミルク」


「ありがとう、ブラックはちょっと無理があったみたい」


 何を言うでもなく差し出される。

 好意的にとらえれば『俺のことをわかってくれている』。

 否定的にとらえれば『ストーカーの中で仕入れたんだろうなぁ』。


 だけど今となってはそれも嬉しいと思う自分がいる。


「それにしても、詩織のやつ遅いな……」


 砂糖とミルクを入れてかき混ぜつつ何とはなしにぼやく。

 すると、眼前のマヤちゃんの表情が曇った。


「……コウくんって、やっぱり詩織さんが好きなの?」


「好きだけど、マヤちゃんに対する好きとは違うよ」


 以前までなら――マヤちゃんをちゃんと『好きだ』って言えなかった俺なら、即答することはできなかった。

 でも、今は違う。

 理由はわからないけど、俺に対して好きだと好意を寄せてくれて、困ったときに助けてあげると言ってくれたこの子が、俺は好きだ。


 その理由が何であれ、この気持ちは変わらないだろう。


「で、でも……お昼だってコウくん怒ったし……」


「あれは、ごめん。マヤちゃんには酷いことを言ったって、本当に思ってる。……でも、友達がピンチなんだ」


 ぐッと拳を握りしめる。

 詩織にはずっと守られてきた。だから、これからは俺が返す番だ。


「……コウくんは凄いね……私にはわからないや」


「え?」


「あっ、ううん、何でもない」


 そう言ってみせる彼女のそれが、取り繕った笑顔だとわかった。

 でも、何故取り繕ったのか、彼女が何を『わからない』と言ったのか。

 それが俺にはわからなかった。


「それじゃあ、コウくんは私の事、好きなんだよね?」


「うん」


「ホントのホント?」


「ホントにホント」


 マヤちゃんを安心させるように、俺は言葉に感情を込めて、目を見て伝える。

 すると彼女はパァと大輪の笑みを見せた。


「じゃあ、ずっと、永遠に、一生一緒だね!」


 ――え?

 と、突然スケールが大きくなり、思わず困惑の声が出そうになったが、何とか飲み込む。

 何とか表情を笑顔のまま固定していると、マヤちゃんは続けた。


「子供はどうする? 私はいつでもいいんだけど、やっぱりちゃんとした職についてからだよね、私は男の子一人と女の子一人の二人が良いなぁ。式はどうしよっか。すごくお金かかっちゃうもんね。……でも、私としてはウェディングドレス着てみたいなぁ、なんて。えへへ。でも、でも無理はしなくていいからね。最悪の場合はレンタルで写真だけ、とかでも十分に幸せだからね。結婚した後は同棲して平日は行ってきますのチュウとかしちゃって、休日は一日中一緒にすごして。夜はその……えへへ。とにかく、いろんなところに行って一緒に思いで作って、のんびり一緒に年を取って、それで、一緒に死ぬの。コウくんと一生一緒。絶対に離れない。そんな人生」


 声が出なかった。

 言葉を挟む隙間が無かった。

 呆然としている俺に対して、マヤちゃんは続けた。


「職場はどうしよっか。できたら一緒の所が良いな。コウくんが別の女の人と一緒何て、浮気何てありえないってわかってても辛いんだもん。一緒に通勤して、お弁当食べて帰る。子供が出来ちゃったときは不安だけど我慢するね。あっ、そうだ。前々からずっと聞きたかったんだけど子供の名前なにが良い? 私はね、男の子なら幸一(コウくん)の幸か一は絶対に入れたいなって思ってるんだ。本当は私たちの名前を合わせた奴が良いんだけど、私のはマヤってカタカナだからね。ちょっと残念。産まれてくる子はコウくんに似て絶対可愛い子だよ。あっ、でも子供が出来ても一番はコウくんだからね。コウくんが一番好き。その代わり女の子が生まれても私が一番じゃなきゃ嫌だよ。そう言えば今お料理の練習してるんだ。今は高校生だからお弁当を優先的に覚えてるけど、朝ごはんとか夜ごはんとかお母さんに教わってるんだぁ。今度泊まりに行ったときにはご馳走するからね。コウくんはちょっと偏食気味で栄養が偏ってるからそこも頑張って直さないとね。長生きしてほしいもん! それから……」


 まだ続けようとするマヤちゃんに慌てて待ったをかける。


「ま、マヤちゃんストップ!」


「どうしたの?」


 きょとんとした表情を浮かべるマヤちゃん。


「あ、あの、そう言う話は二人の時に……」


 そう言って俺は周囲を目を剥ける。

 マヤちゃんの言葉を聞いて、同所に腰を落ち着けるリア充諸君がこちらに注目していたのだ。


「ご、ごめん」


 暗に恥ずかしいと伝える俺に対して、マヤちゃんは僅かにシュンとして謝罪する。

 きっと、彼女は恥ずかしいと思っていない。

 何故ならば、その表情に照れの要素が見られなかったからだ。


 本当に、周囲を気にしない。

 『コウくん以外どうでもいい』と言う通り、俺以外からの感情に対して、酷く興味がない。


 俺が困ってるから、謝る。

 そんな風に見えて、思わず危うさを感じた。


 それと、俺が彼女の言葉を止めたのは恥ずかしさだけではなくて、ただ、マヤちゃんの狂気に触れた気がして、怖くなったのだ。

 でも、それは胸の内にしまう。

 教える必要性がないからだ。


 それからしばらく。

 幾度となくメッセージを詩織に飛ばしつつもカフェで待ってみたが、彼女が現れることは無かった。



次→すいません、現在本当に忙しく書いている余裕がないのでしばらく不定期になります。

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