ep2・美少女と友達になりました。
放課後になり、俺の周囲にイケイケな男子生徒が数名集まって来た。
彼らは俺の友達――などではなく
「悪いんだけどさ、大会近くて部活行きたいんだ! 掃除任せていいか?」
彼らは俺と同じ掃除の班である。
確かサッカー部とバレー部だったか。
俺は暇だし、それに掃除も嫌いじゃない。
「わかりました、いいですよ。部活頑張ってください」
「おう、サンキューな!」
「マジであんがとな!」
笑顔で部活の道具を持ち、教室を出て行く男子たち。
他のクラスメイトも部活に行ったり、早く帰って友達と遊んだり。
はたまたバイトに勤しんだり。
一生懸命になれるやつがあるって良いな。
俺も中学の時は……いや、不毛だ。考えるのはよそう。
「……掃除するか」
正直わかっている。
彼らにとって俺と言う存在は《格下》だ。
冴えなくて、メガネで、顔も良くなくて、友人もいない。
仮に詩織と仲がいいと見せつけても、調子乗るなと出た杭を打たれるだけだろう。
悔しい、とは思う。
でも、逆らえないのが現実だ。
人がいなくなったのを確認してから、掃除用具入れから箒を取り出して掃除を始め……ようとして、背後から声を掛けられた。
「あ、あの、よかったら、て、手伝って……手伝うよ?」
何故か緊張したような上ずった声。
先ほどまで確実に教室には誰もいなかった都合、声の主はわざわざ戻ってきたのだろう。
その言葉と行動に驚きつつ振り返って、その人物を見てさらに驚いた。
「え、えっと、良いんですか? 浅間さん」
そこに居たのは完璧超人浅間マヤその人だった。
クラス替えから二週間と少し。
これが初めての会話である。
「うん。さっきの話聞こえてて、一人だったら大変だろうなぁって」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「もう、敬語なんて使わないで良いよぉ? 皆みたいに下の名前で呼んでくれていいからね?」
その言葉には妙な圧力を感じた。
「う、うん。わかり……わかったよ」
言われた通り敬語を辞めてみたけれど、それでも何故か期待した目でこちらを見てくる。
「え、えーっと」
何だ、いったい何を期待しているんだ?
まさか一発ギャグでもしろと言うのか?
悩んでいると彼女はズイズイと近付いてきて、思わず後ずさる。
「な、なに?」
気が付いたら背中が掃除用具入れにくっついており、彼女の整った顔がすぐ目の前にあった。
自然と顔に熱が昇って行くのを感じる。
「皆みたいに、下の名前で呼んでくれていいからね?」
状況に戸惑っていた俺に、まるで助け舟を出すかのごとく彼女は求めていることを口にした。
「あ、あぁー。ま、マヤさん、で、良い?」
「呼び捨てでもいいよ?」
「いや、まだそんなにマヤさんの事知らないですし、女子の名前を呼び捨てにするの、恥ずかしいですし」
詩織は別だ。
あいつとの付き合いはもう四年になる。
とある理由により、俺が誰よりも信頼している親友だ。
拒絶の言葉を並べると、マヤさんが一瞬氷のような笑みを浮かべた気がした。
が、すぐに表情を切り替えてニコリと笑う。
「そっかぁ、そうだよね。うん、ごめんね。変に思わないでね、うん。仲良くしたいなあって思っただけでね?」
「は、はぁ……」
「あ、でもせめて『さん』じゃなくて『ちゃん』が良いなぁ。〇〇さんって他人行儀過ぎるよ」
「そ、そうです……そうだね。マヤちゃん」
「ありがとう、コウくん」
こうして俺は浅間さん改めマヤちゃんと知り合いになったのだ。
その後は掃除をしつつ会話を交わす。
とても楽しくて、初めて喋ったにもかかわらず、マヤちゃんは俺なんかのことをいっぱい聞いてくれて、良くないってわかってるんだけど、自分のことを話すのは少し楽しかった。
と言っても、最近読んで面白かった本の話だとか、映画の話だとか、そんなのばっかりだったけど。
だから俺は忘れていた。
コウって言うのは俺の本名ではなく、ただのあだ名に過ぎなかったという事に。
さらに呼んでいるのはこの学校で詩織だけだと言う事に。
そして、詩織とは屋上以外で話をしていないってことに……。
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