ep15・校外学習! 行先決定!
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聞こえてくるのは周囲のざわめき。
今までにないくらいの注目を俺は浴びていた。
「こうく~ん♡」
「キョエエエエエ!! 煉獄の炎に焼かれて燃え尽きろッ!!」
学校一の美少女と外見不良のガチ厨二病患者。
悪夢のような組み合わせが俺を挟んで繰り広げられる。
「んー、このままじゃ浅間の所のグループが人数たらずだなぁ。誰か入ってやってくれないか」
しかも教諭はこのカオスにさらに誰かを巻き込もうとしている。
個人的には他の班に吸収されると言う形を望むのだが、なにぶん他の班が最大人数の為そもそも班の数自体がかなり少ない状況なのだ。
教諭的にはたくさんの班を作りたいのだろう。
結論として、周囲ではじゃんけん合戦が繰り広げられ始めた。
俺たちの班は現在三人。最低五人なので、残り二人だ。
また、このままではマヤちゃんが女子一人となるので、片方は絶対女子と言う仕様である。
あのマヤちゃんが居ると言うのに、全員が行きたくないと言う意思を示しているのはかなり面白い光景だ。
そんな呑気な事を考えていた俺を、今思うと殴り殺してやりたかった。
†
班決めが終了し、それぞれに分かれて座る。
皆、友人たちと席を近づけることが出来るため、その声には喜色の感情が乗っていた。
俺たち以外は。
「FUCK! FUCK!」
腕を組んで鋭い目つきを飛ばしてくるのは不良厨二病こと滅法呪殺陣。
本名は木通甲山と言うらしい。
次に彼の隣を陣取るのは新メンバー、雨倉伸。
以前はマヤちゃんとも交流のあった上流階層のイケメンである。
俺がマヤちゃんと付き合い始めて初日、その日に話しかけて見事無視を喰らっていたお方の一人である。
彼らと相対するように、まず俺が座り、その左隣りにマヤちゃん。
彼女を挟んで、金髪のギャルが現れる。
今どき、と言うには少し古いかもしれないがテンプレのようなこてこてギャルである。
ハクいぜ。
長い金髪にピアス、着崩した制服は詩織に通ずるものがある。
と言うのも彼女――更科美穂はギャルズの一員である。
「うわー、何この面子。謎過ぎっ」
幸いなのは美穂が不機嫌でないことくらいか。
謎面子に対して軽い反応である。
「確かに、それわかるわー」
返答するのはイケメン。
仕方がない。
だって俺は彼女と関わりが無いし、マヤちゃんは関わろうとしないし、滅法呪殺陣は俺達に呪詛と怨嗟を向けてくる。
泣きたくなるね。
そうこうしていると、行き先を決める作業に入る。
と言ってもそこまで遠出は出来ない。
うちの学校はクラスで行く場所が決められる。
その為この話し合いはクラス全体である。
いくつかイケイケな生徒が提案して行き、だんだんとしぼられていく。
そして最終的な候補は――
・バーベキュー。
・レジャー施設。
・水族館。
と、この三つが残っていた。
話し合いは進み、結果的には午前中に自然公園でバーベキュー。
その後、水族館と言う流れに決まった。
「水族館とかちょー久しぶりー」
「それな、子供のころ以来だわ」
「リュウグウノツカイこそ男のロマン」
俺とマヤちゃんを除く三人が決定された候補地について話し出す。
そんな中……俺の頭は真っ白になっていた。
「コウくん、大丈夫だよ。大丈夫」
「ま、マヤちゃん……」
安心させるように優しい声音で慰めてくれる。
手を握って、身を寄せてくれる。
それがとても暖かくて、僅かに体の震えが収まった。
「おーい、そこー。いちゃつくのは良いけど場所はわきまえろよー」
俺の過去を知らない更科さんが呆れたように笑ってくる。
これに対し、イケメンと滅法呪殺陣はどちらも厳しい表情だった。
「う、うん。気を付けるね」
だから俺は、トラウマとも言える過去を胸の内に仕舞い込み、その表情に笑みを貼り付けるのだった。
†
――笑っていたけれど、やはりコウは無理をしていたのだろう。
その後、彼は保健室に行くと言って教室を後にした。
残った少女――マヤは水族館について調べているその他三人の話を僅かに耳に挟む程度。
胸中を埋め尽くしていたのはコウへの心配だけだった。
「うおっ、今水族館のこと検索してたらすごい記事出て来たぞ」
そう口にしたのは少女に対して必要以上に絡んできていたリア充の少年である。
彼はスマートフォンを机に置いて、件の記事を班の皆に見せる。
大見出しは――『死傷者五人、休日の連続通り魔事件』。
「うわぁ、そういやこんなのあったね」
「人殺しなど言語道断。犯人は俺が滅法呪殺――」
「あー、はいはい。っと、でも犯人の橋本って人もう死刑執行済みだってさ。残念だったね、滅法呪殺陣」
そうして記事の話は流れて、場は笑いに包まれる。
「……そう言えばマヤちゃんはなんであいつと付き合ったの?」
ずっと話しに参加していなかった少女に、金髪ギャルが気を利かせて話を振る。
彼女とは以前にも交流があり、こうした人と人との潤滑油になるのが得意な性質の人だった。
ゆえにそこに一切の悪意はない。
ただ孤立しないように、取り持とうとしたにすぎないのだ。
が、少女はその質問に対して、一言。
「話したくありません。――コウくんの様子見てきます」
どこまでも他人行儀な態度で一蹴し、席を立つ。
「ご、ごめん。気に障った?」
「……別に、何とも思いません」
少女は教諭に一言告げてから、教室を後にする。
――あんな奴らはどうでもいい。
何と思われても一切気にならない。
でも、コウくんだけは……コウくんにだけは嫌われたら……駄目だ、考えるのは止めよう。
「コウくん」
マヤは一言呟いて、保健室への道を歩き始めた。