ep11・ヤンデレ彼女とお昼ご飯。
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俺への脅迫状を奪い取ったマヤちゃんは、それを綺麗に折りたたんでスカートのポケットへ。
「コウくんには絶対手を出させないからね。……さ、お話の続きしよ」
彼女が心の内で何を思っているのか、それは分からない。
だが、手を出させないという言葉は隠しきれない怒りのようなもの感じられた。
「……うん、そうだね」
なんかマヤちゃんと知り合ってから彼女に流されてばかり流されてばかりな気がする。
元々彼女はリア充、俺は冴えない奴と言う風にヒエラルキーの違いはあったが、それ以上にマヤちゃんの言葉は一つ一つが逆らえない威圧感のような物を帯びている。
特に『俺を守る』と言う一点に関しては顕著だ。
「ねぇねぇ、コウくん。今日は一緒にお昼食べれるよね?」
「うん、大丈夫だよ。でも、友達は良いの?」
「私以外にも彼氏優先してる子いるし大丈夫だよ! 私アレしたいな、はい、あーんってヤツ。コウくんとするの夢だったんだぁ!」
「わ、わかったからもうちょっと声のボリュームを下げて欲しいなっ」
流石にこの会話を人様に聞かせて何も思わない俺ではない。
マヤちゃんは一切気にしていない様子だが、こっちは先ほどのなでなで以降、顔からの熱が引かないんだ。
「もう、また他の人気にしてる……でも、コウくんがそう言うなら小さい声で話すね」
囁くような声音が至近距離で耳に届く。
「ま、マヤちゃん、近すぎる気が……」
「ぶー、朝はあの子ともっと近かったもん……」
子供の様に拗ねるマヤちゃん。
伏せ目がちになり、自分の袖をキュッと握りしめて唇を尖らせる。
正直、めっちゃ可愛い。
道行く小学生に『あれ俺の彼女なんだよ!』と自慢したいくらい可愛い。しないけど。
「でもここ人前だし、ね?」
「じゃあお昼休みに、屋上でいっぱいイチャイチャしよ?」
い、イチャイチャ、だと?
何だその甘美な単語は。
そんなけしからん行為、是非ともよろしくお願いします。
「うん」
「やった! コウくん大好きっ!」
返答すると、彼女はギュッと首に抱きついてきた。
結局人前でもイチャイチャしてるじゃねえか。
†
マヤちゃんはお昼休みまでの休み時間もほとんど俺の席にやって来て過ごしていた。
それ以外はトイレとか、たまに話しかけられた女子の対応とか。
男子は見事に無視である。
すごい、さすがマヤちゃんだ。さすマヤだ。
そんなこんなで時間が過ぎて、昼休み。
俺達は屋上――ではなく中庭のベンチに腰かけていた。
と言うのも、最初は屋上に行こうとしたのだが屋上は本来立ち入り禁止。
本日これでもかと目立っている俺たちが屋上に赴くことは不可能であったのだ。
結果、渋々と俺達は中庭に落ち着いた。
周囲には同様にカップルの姿が見えるが、それでも感じる視線の鬱陶しいこと限りなし。
「コウくんはいつもパンだよね?」
「ん、うん」
手に下げるコンビニ袋に視線を落としつつ返答。
「あ、あのね、その、今日は、その、材料とか、いろいろ足りなくて出来なかったんだけど、明日から私が作って来ても……良い、かな?」
「俺の弁当を?」
「うん、うん!」
それは願っても無い事だ。
正直コンビニ飯は食い飽きた感がある。
「じゃあお願いして良い?」
「やったっ! 楽しみにしててね! コウくんの好きな物いっぱい入れるから!」
「あ、ありがとう」
因みに俺からマヤちゃんに好きな食べ物を教えたことは無い。
すべてマヤちゃんのストーカーの成果である。
「それじゃあ食べよっか」
「そうだね」
二人そろっていただきます。
俺はパンを、マヤちゃんは弁当箱を開ける。
「おお、凄いねマヤちゃん」
「そ、そうかな? えへへっ、嬉しいなぁ。えっと、それじゃあ……はい、あ~ん!」
マヤちゃんはたこさんと化したウィンナーを箸で摘み上げ、俺の口へと運んでくる。
「ほ、本当にやるの?」
「うん! はい、あーん!」
有無を言わせぬ勢いに負け、ウィンナーを食う。
何処からどう見ても冷食な為、味の感想を聞きたいと言うよりは本当に「あーん」をしたかっただけなのだろう。
「やっぱり照れるね」
飲み込んでから頬を掻きつつマヤちゃんに視線をやると、彼女は箸の先端をパクッと口にくわえている所だった。
何かを食べたと言うよりは、ただ舐めているだけな気がする。
「えっと、マヤちゃん?」
「間接キスだね♡」
すでにキスは済ませているが、それでも直接言われると照れるものがある。
何とか顔には出さないように表情を取り繕った。
「あれ、あんまり気にしてない?」
「そんなことは無いけど、もうキスしてるしね」
「そっかぁ……それじゃあ」
マヤちゃんはお弁当を隣に置くと身体を俺へと向けて――次の瞬間両頬を抑えられて口を塞がれた。
「……っ!?」
驚きつつも何とか慌てずにやり過ごす。
すると最初は軽い物だったが、唐突に唇を何かが突っついた。
なにこれ、こんなの知らない!
俺の知ってるチューとは違うんだけど!
「コウ、くん……口開けて……」
マヤちゃんがキスを続けながら言ってくる。
何が何かわからず、言われた通りにすると、口内に何かが侵入してきた。
それは軟体生物の様にうねうねと動いて、俺の舌を探し当てると絡みついてくる。
こ、これ、噂に聞くディープな感じのキスなのでは!?
驚いて目を開きっぱなしにしている俺の視界にはマヤちゃんの顔がドアップである。
鼻息は荒く、頬は紅潮しており、どこか甘い匂いがする。
俺は息を止めて……しかしさすがに限界が来て彼女の背中を軽く叩いた。
するとようやく離してくれる。
「……はぁ、はぁ。ま、まま、マヤちゃん!? いきなりなに!?」
「恋人の愛の確かめ方だよ? コウくん気持ちよかった? 初めてだったけど、私上手だった?」
キスに上手とか下手とかあるのか?
なにぶんマヤちゃんが初めてだからわからん。
でもあえて言うのならば。
「き、気持ちよくは、ありました、です」
恥ずかしさから顔を直視できずにそっぽを向きながらの返答に、マヤちゃんは顔をパァ……! と輝かせせる。
相変わらず可愛いな。
「やった! もっと上手になるように、頑張るね!」
「ほどほどにしてくれると、嬉しいかな」
何て返しつつ、食事を再開しようとして……
「んっ、ん゛ん゛! お話良いですか?」
背後からお声がかかる。
うわぁ、見られた! と顔に熱が昇って行くのを自覚しつつ返答。
「はい」
振り返り、声の主を視界に捉えて――驚く。
声をかけて来たのは上級生の女生徒。
この学校では少しばかり有名人であるその人を、俺は知っていた。
「駄目、今は私とコウくん二人だけの時間だもん」
これに対し、俺の腕に抱きつきながら威嚇するような視線を送るのがマヤちゃん。
その姿を見て、声をかけた先輩は額に青筋を浮かべつつ、自身の右腕に嵌められた腕章を指さした。
そこには……。
「私は『風紀委員』で委員長を務める桐谷美知と言う者です。先ほどの不純異性交遊についてお話を聞きたいので、生徒指導室まで御同行お願いします」
確かに、学校の、それも昼休みの中庭でDキスは拙いよな。
それでも嫌だと抗議するマヤちゃんを宥めつつ、俺達は生徒指導室へと向かった。