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6.父親の気持ちがわかる











 ラーゲルフェルト伯爵家の三人は、次女マリーが王太子に求婚されたあと、王族の私的スペースに移ってきていた。舞踏会はまだ続いており、国王と王妃、それに王国騎士団元帥であるグレーゲルはまだ会場に残っているので、ここにいるのは五人だけ。エドラたち三人のほかにアルノルドとレンナルトである。

 というか、この面子で大丈夫なのか? マリーはラーゲルフェルト伯爵預かりであるし、アルノルドは王太子だ。まあ、フランを連れて来い、国王を連れてくる、と言う話になったらなったで困るけど。


「マリー、受け入れてくれてありがとう」

「いえ……でも、まずはお友達から……」


 マリーが控えめに言った。そこにレンナルトからツッコミが飛ぶ。

「殿下、知ってますか。友達からって程のいい断り文句なんですよ」

「うるさいわ!」

「まあ、あの場ではぎりぎりの回答ですよね。普通、王族の求婚を断れませんし」

「うるさい、サディスト二人!」

 おっと。エドラもサディストにされてしまった。レンナルトは確実にサディストだと思うけど。

 エドラはソファに腰かけるマリーとソーニャの背後に、レンナルトは向かい側に座るアルノルドの背後に控えていた。二人とも騎士服なので妙にしっくりきている。


「あの~、でもどうしてわたくしなのですか。王太子殿下は、てっきり、お姉様のことが好きなのだと……」


 マリーが恐るべきことを言ってのけた。エドラだけではなくアルノルドも驚愕の表情を浮かべた。

「エドラを!? いやいやいや、それはない! どちらかと言うと男友達のような感覚だ!」

「殿下、それ、さすがに私に対してめちゃくちゃ失礼じゃありません?」

 確かに王太子相手に扱いは雑だけど、『男友達みたい』はないだろう。いや、王太子に友人だと思われていることに光栄だと思うべき? いや、やっぱり失礼だと思う。女性に対して。

「つまり、殿下は友達の可憐な妹に惚れたと。よくあるパターンですね」

 レンナルトもさらっと言った。いや、男性が友人の妹に惚れるって、たまに聞く話だし恋愛小説でも王道だけど、そう言うもの? そう言うものなの?


「……王太子殿下に求婚していただいたことはとてもありがたく、名誉なことですわ……しかし、マリーでよろしいのでしょうか。あ、いえ、この子に問題があるわけではなくて、家格の問題ですわ」


 さすがに母親であるソーニャはそのあたりが気になるらしい。まあ確かに、ラーゲルフェルト伯爵家は中堅くらいの家格であり、貴族界ではちょうど真ん中くらいか。王族と結婚できないほど低い家格ではないが、推奨されるほどでもない。父が生きていた頃ならこれほどためらわなかっただろうが、どうしても、今のままでは後ろ盾が弱いのだ。だって、ラーゲルフェルト伯爵は十四歳だし。


「……それでも、俺はマリー嬢を愛しているんだ」

「……殿下」


 マリーの声がちょっと切なげだった。エドラは後ろにいるから顔は見えないけど。

 エドラは顔をあげてレンナルトを見た。レンナルトも気づいてエドラと顔を見合わせる。

「……おそらく、僕の父が後押しに入ってくれるとは思いますが」

「私の方でも上官に掛け合ってみます」

 レンナルトとエドラが言った。エドラの上官はグレーゲルしかいないので、必然的に王弟に後押しを頼むことになる。だが、フランがまだ十四歳で成人していない以上、それくらいは必要だ。

「まあ、マリーが望むなら、ですけど」

「姉的には俺はありか?」

 などとアルノルドは不安げに聞いてきた。いや、何故エドラの許可がいるのだろうか。

「まあ、殿下のお人柄は存じていますし、信頼できると思っています。マリーが望むのであれば、これ以上ないよい話だと思います」

「……嘘くさいな」

「……言い方を変えましょうか。ビリエルなんかと比べ物にならないくらいマシです。あなたは身分や噂で人を判断したりしませんからね。私の時で実証済みです」

「!」

 アルノルドが感動した表情になった。それからレンナルトを振り返る。

「エドラに褒められたぞ」

「良かったですね」

 レンナルト、棒読みだった。いや、それよりもエドラは「殿下、ちょっとかわいい」とつぶやいている妹の方が気になったけど。マリー、このままほだされるのか?

「そう言えば、何故ビリエル・ヘンリクソンとの婚約が破棄されることに? いや、俺としては都合がよかったのだが……」

「ああ、それですね。どうやら、わたくしはあの方の恋人のリータに嫌がらせをしたようです」

「……は?」

 何故か嬉々として語るマリーに、他四人が間抜けな声を上げる。いや、そう言えばそんなような話をしていた気もする。


「どうやらあの方はアーネル男爵令嬢のリータと心を通わせるようになったらしく。その関係に嫉妬したわたくしが、リータに嫌がらせをした、とあの方の中ではそう言うことになっているらしいです」

「……もちろんそんな事実は」

「ありません。だってわたくし、あの方にそれほどの関心を寄せていませんし」

「……心にぐさりと来るな」


 アルノルドがため息をついた。マリーとビリエルの縁談は父が整えたものであるが、マリーがあまり彼に関心を寄せなかったから、破棄されてよかったのだと思う。まあ、マリーが関心を持たなかったからビリエルがリータに走った可能性は否定できないが、どちらにしろ、あんな非常識な男が義弟になるなど耐えられない。同じ失礼さでも、ビリエルとアルノルドでは方向性が違う。


「エドラはかなり怒っていたようだけど、やっぱり彼の非常識さに怒っていた?」


 レンナルトに尋ねられ、マリーたちの頭上を飛び越え会話をする。

「まあね。あの場で婚約破棄する! は、無いわ~。マリーにも自分にも評判に傷がつくじゃない。マリーは殿下が救い上げてくれたけれど、あの男はどうかしらね。まあ、地に落ちようと地獄に落ちようと、私には関係ないけどね」

「……めちゃくちゃ怒ってるね。ものぐさな君が」

 レンナルトの言葉に、エドラは「ふん」と鼻で笑った。実のところ、一番怒っているのはそこではない。『父親が早死にしたから』と言われたからだ。

 あの時、無性に腹が立ったのだ。舞踏会でなければ、ビリエルに決闘を申し込んだかもしれないくらい腹立たしかった。

「お姉様?」

 思わず物思いにふけっていたエドラだが、マリーの声に我に返った。何度か瞬きして頭を現実に戻す。

「ええと、ひとまず、保留でよろしいですか」

 マリーが大胆にも尋ねた。アルノルドは「考えてくれるのなら構わない」と鷹揚にうなずく。ソーニャが「国王陛下と王妃殿下はどう思われておいででしょうか」と尋ねた。

「二人とも、エドラの妹なら問題ない、と言っている」

「……エドラは信用されていますのね」

 ソーニャが言ったが、やや棒読みだった。いや、気持ちはわかるけどね。何故エドラは信頼を得ることができるのだろうか。


「しかし……デートに誘ってもいいか?」


 アルノルドの言葉に、マリーがさっと赤くなったのがわかった。思わずエドラは半眼になる。


「は、はい……」


 返答も少し照れているように聞こえた。エドラの顔を見たレンナルトがぎょっとする。

「エドラ……顔すごいよ」

「……今なら娘に恋人ができたと言われた父親の気持ちがわかる気がする」

 先ほどアルノルドに『男友達のようだ』と言われて憤ったが、あながち間違いではなかったかもしれないと思ったエドラだった。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ここまで結構話数かかりました…。


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