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5.結婚してくれないだろうか

求婚されます。(妹が)









 名乗り出たのは、爽やかな栗毛の美男子だった。年齢は二十代半ば、瞳は淡い紫をしている。優男風の細身の男性だが、同じく騎士であるエドラから見れば、しっかりした体格をしているのがわかる。

 レンナルト・フルトクランツ。近衛連隊長であり、先ほどエドラが挨拶に行ったフルトクランツ侯爵夫妻の息子である。

 近衛騎士であり、魔導師としても優れる彼は微笑んでヘンリクソン伯爵を見ていた。フルトクランツが侯爵家であること、彼が国王の覚えめでたい近衛連隊長であることをかんがみ、納得したようだ。

「良かろう」

「ありがとうございます」

 レンナルトがうなずき、エドラに微笑みかけた。思わず彼女は顔をしかめたが、彼はどこ吹く風だった。ビリエルとマリーの間に立つ。婚約しているのはこの二人なので、契約を結ぶならこの二人の間で、と言うことになるのだ。


「では、二人ともよろしいですね」


 双方がうなずいたのを確認し、レンナルトが右の掌を上にして前に差し出す。その上に向かい合ったビリエルとマリーがそれぞれ手を差し出した。


『この契約は決して破ることは許されぬ。契約者となるビリエル・ヘンリクソンとマリー・ラーゲルフェルトの運命を定める。二人はここに誓いを立てる。過去に定められし古き結びの約束を破棄することを。この宣言をたがえることは許されれぬ』


 古代語での詠唱だ。通常、呪文詠唱は早口になることが多いが、ノルンの契約は一文でも間違えれば大惨事であるので、比較的ゆっくりとした口調だった。聞き取れた人は結構いるのではないだろうか。

「ビリエル・ヘンリクソン。誓いに相違ないか」

「ない」

「では、マリー・ラーゲルフェルト。この誓いを認めるか」

「はい」

 ここだけ現代語である。契約者同士の宣言がどうしても必要なのだ。また古代語に戻る。


『私は知っている。誓いはもっとも古き、強き魔法であることを。私は知っている。この誓いが、望まれたものであることを。ゆえに今、ここに運命ノルンの誓いは成立する』


 エドラは目を細めた。契約がうまくいったのだ。一般人には見えないだろうが、魔導師であるエドラにはノルンの誓いが正常に結ばれたことが分かった。同じく魔導師であるマリーにもそれは感じ取られたのだろう。スカートをつまんで礼をとる。

「レンナルト様。ありがとうございました」

「いいえ。あなたとは知らない仲ではありませんからね」

 エドラにはその後に「婚約者がいながら別の女に手を出すようなゲス野郎と縁を切れてよかったね」くらいの副音声が聞こえた。

 ひとまず、エドラも騎士の礼をとる。

「ありがとうございました」

「君に殊勝にされるとちょっと戦慄を覚えるよね」

「失礼ですが、お殴り申し上げてもよろしいでしょうか」

「丁寧に言えば敬語になるわけじゃないってわかってるよね?」

 なんかいらん会話をしてしまった。エドラの態度は基本的にこんな感じなので、みんな「そんなものか」と見ているけど。


「エドラ。マリーの婚約は破棄されたのだな」


 唐突にかけられた声に、エドラは「そうですね」と答える。

「あのバカに妹をくれてやらずに済んでよかったです。レンナルト様を貸していただき、ありがとうございました、殿下」

 しれっと野次馬にもぐりこみ成り行きを見ていたのはこの国の王太子アルノルド・ヴェイセル・フィリップ・エクストランドだった。いろいろあって、エドラは王太子とは顔見知りの関係である。アッシュブロンドに青緑のいかにも王子様然とした雰囲気の彼は尋ねる。

「ああ、いや……では、マリーには今婚約者がいなくて誰が求婚してもいいんだな?」

「……まあそう言うことですけど、何言ってんですか」

「そうか」

 アルノルドは嬉しそうに笑うと、エドラの側をすり抜け、マリーに近づいた。

「ちょ……!」

 エドラが驚いて止めようとするが、両肩をがしっとつかまれた。振り返ると、レンナルトが笑顔でエドラを拘束していた。

「いいから。ちょっと見ていようよ。面白いから」

「お前はな! 関係ないからな!!」

 単純に考えれば女のエドラより男のレンナルトの方が力が強いのは当たり前で、エドラが彼の手から抜け出すことはできなかった。その間にアルノルドがマリーの手を取ってひざまずく。

「え?」

 マリーが戸惑ったような声をあげた。叫ぼうとしたエドラはついにレンナルトに口をふさがれてしまったのでもがもがとこもった声がするだけだ。掌をかんでやろうかと思ったが、その前にアルノルドが熱のこもった声で言った。


「マリー、愛している。どうか私と結婚してくれないだろうか」


 一気にプロポーズしやがった!! 野次馬たちから歓声や悲鳴が上がる。ロマンチックな出来事に感動した者もいれば、今まで相手を定めていなかった王太子がたった今婚約者から婚約破棄された令嬢に奪われてしまうことへの嫉妬だったりするだろう。

「そんな……!」

 割と近くで少女の声が聞こえた。ビリエルの恋人のリータだ。彼女は驚愕の表情でアルノルドを見ている。ビリエルは彼女の気を引こうとしているが、残念ながら難しそうだ。

「何をしている! ビリエル、この隙に帰るぞ!」

 ヘンリクソン伯爵、馬鹿だが結構引き際はわきまえているようだ。


 それよりも。


 エドラは肘でレンナルトの腹のあたりをつついた。もう暴れる気も叫ぶ気もない。終わってしまってからでは意味がない。やる前なら、エドラが変人だー、と騒ぐだけで済んだのに。

 レンナルトがエドラを解放する。エドラは振り返って一瞬彼を睨んだが、まっすぐにマリーの隣に並んだ。アルノルドを見下ろす。かなり不敬である。

「え、エドラ。どういうこと?」

「私も知りたい」

 ささやいてきたソーニャに、エドラもため息交じりに言った。アルノルドはきらきら全力王子様モードである。マリーはじっとその整った顔を見ていた。

「……えと。わたくしですか?」

「もちろんだ。初めて会った時から、なんて可憐な人だろうと思っていたんだ。そして、会えば会うほど魅力的な人だと思った」

「……」

 どんな口説き文句なの? アルノルドはもう一度「結婚してくれないか」と言った。その後に妥協案を提示した。

「友人からでもいい。どうか私にチャンスをくれないか?」

 かなり下でに出たアルノルドに困惑したマリーは、戸惑い顔でエドラの顔を見上げてきた。いや、私を見ても仕方がないのだが、と思う。というか、早く返答をしないとずっと王太子殿下が跪いた状況となる。エドラは気にしないが、気にする人もいるだろう。

「マリー、何か言いな」

 エドラがマリーに囁く。常識的に考えて、王太子の求婚を断ることはできない。しかも、ここまで譲歩しているのだ。マリーはエドラの妹だけあって、少々ぶっ飛んでいるところがあるが、頭のいい娘だ。状況は理解しているだろう。


「えっと、その……お気持ちはとてもうれしいです。でも、もっとお互いを知ることが必要なのではないでしょうか!」


 宣言のように言ったマリーに、見守っていたレンナルトが噴出した。王太子が近衛騎士を睨み、エドラも白い目で見ておいた。

「では、前向きに考えてくれるということか」

 なんと。思ったよりもアルノルドの心は強かった。まあ、地位だけ見ればビリエルよりも条件がいいし、人間性も信頼できる。マリーがいいのならいいのでは? とエドラも思っていた。

「え、ええ。そうですわね」

「ありがとう」

 アルノルドは微笑むと、マリーの指に口づけた。マリーがびくっとし、周囲からは悲鳴が上がった。


 ……ひとまず、この場から退散したいのだがいかがだろうか。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


エドラ、苦労性なのかも。


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