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21.魔女だなんて









 カロリーナが到着したその日、晩餐会が開かれた。明日は歓迎の舞踏会が開かれるらしい。


 晩餐会は一部の人間だけで行われたが、明日の舞踏会には多くの貴族が参加する。エドラの妹のマリーや母ソーニャも参加する予定だが、エドラ自身は会場警備に着く予定だ。カロリーナの側ではないが、会場内にはいる予定だ。何でも、長身の美女である彼女は、騎士服を着ていても見栄えがいいし、威圧感がないので会場内の警備には最適らしい。あんまりうれしくない評価である。


 晩餐会の日はそのまま帰宅したエドラは、いつぞやのように妹たちに突撃された。


「お姉様!」

「エドラ姉様っ」

「うおっ」


 まだ若い女性らしからぬ声をあげたエドラであるが、戦争から帰ってきたと糸は違い、妹二人の突撃にも何とか耐えた。マリーは目的を持ってツッコんできているが、カーリンはマリーのテンションに引っ張られているだけのような気もする。

「カロリーナ姫が到着したのでしょう? ア、アル様とは……」

「いかに家族とはいえ、言えないこともあるよ」

 よしよし、とエドラはマリーの頭を撫でてそう言った。カーリンが「あたしも!」とせがんでくるので、同じように撫でてやった。エドラはひょいっとカーリンを抱き上げる。きゃあ、とカーリンが嬉しそうな声をあげた。

「まあ、マリー、心配し過ぎると体に良くないからね。王太子殿下を信じてあげなよ。明日には顔を合わせるのだし」


「そうですわね……というかお姉様。その細腕のどこからカーリンを抱き上げられるほどの力が……」


 十一歳とはいえ、それなりの体重がある。エドラも腕力だけで抱き上げているわけではないので、マリーに向かって肩を竦めるにとどめた。


「お帰りなさい、エドラ。アスガードの姫はどうだった?」


 ソーニャがリビングのソファから立ち上がって尋ねた。フランは資料を手にしたまま、「おかえりー」と間延びした声をあげている。

「噂通りの美貌ね。マリーにも匹敵するんじゃないかしら」

「それは身びいきと言うやつですわ」

 マリーが謙遜、というより本気でそう思っている調子で言った。実際、マリーは可愛らしいのだが、多少身びいきが入っていないとは言い切れない。


「……どうでもいいけどさ、エドラ姉上。姉上の体格でカーリンを抱き上げられるって、どうなってるの」


 フランが先ほどのマリーと同じことを尋ねてきた。そんなに不思議がるようなことだろうか。ひとまず、腕が疲れてきたのでカーリンをソファに下ろす。

「私の腕力はどうでもいいわよ。まあ、本気でカロリーナ姫が王太子妃の座を狙っているかはわからないけど、マリーも母上も明日は注意してね」

「わかっているわ」

「心得ておりますわ」

 一応、社交経験の長いソーニャはもちろん、マリーも何となく大丈夫そうな気がしたエドラである。

 マリーにはそう言ったが、エドラはいまいち引っかかる。カロリーナがレンナルトを見る目。どちらかというと、アルノルドを狙っているというよりは……。

 エドラは息を吐いて、その考えを隅に押しやった。

「私、明日も早くに出て行くからね。場合によっては、宮殿で泊まりこみになるから」

「はーい」

 返事をしたのはフランだ。一応、この中ではフランが伯爵で、一番偉い。そんな様子は見せないけど。

「何事もないというのだけど……」

 ソーニャがため息をついて言った。そう言うことを言うとたいてい何かが起こるものなのである。
















 翌日エドラが出勤したときには、すでにひと騒動起きていた。


「何々。どうしたの」


 エドラが今回の警備用の控室兼事務室として使っている部屋に入ると、空気がどんよりしていた。近衛連隊のヴィリアムが「エドラさんんんんっ」とちょっとエドラが引いてしまうような声をあげた。

「聞いてくださいよ!」

「聞くから落ち着きなよ」

 エドラはヴィリアムの肩をたたいて落ち着かせようとする。あまり意味がなかったようで、彼は興奮気味に言った。

「早速やらかしてくれました! 朝、朝食を運んできた侍女に手を上げました。野蛮な国の野蛮なものを食べられるかって」

「いや、昨日、晩餐会だったのでは」

「昨日はアスガード風の料理も出ていましたからね。というか、アスガードとうちではそんなに料理の傾向は違わないはずなんですけど」

「そうね」

 話してしまって少し落ち着いたらしいヴィリアムが冷静に言った。仲は悪いが、ニヴルヘイムとアスガードは文化が似ているし、民族も同じである。


 まあ、料理くらいなら、本当に合わない、食べられない、という人はいるので配慮するのは可能だろう。おそらく、国王も可能な限り配慮して心地よく過ごしてもらえ、というはずだ。それで付け上がられても困るが。

「まあ、元帥からもレンからも聞ける範囲でわがままを聞くようにって言われてるでしょ。穏便に帰っていただくのよ」

「さすがエドラさん。言うことが過激」

 さらっとヴィリアムがひどい。いや、ひどいのはエドラの方か?

 エドラは夜の夜会の警備に着く予定だ。そのまま珍しい夜勤に入るので出勤が遅かった。現状を確認する。

「今どうなってんの。陛下についているのは?」

「グレーゲル元帥です。殿下にはエーミル副隊長が付いています。……連隊長はカロリーナ姫が解放してくれなくて」

 そのおかげでちょっと予定が変更になったりしているが、大きく問題はないだろう。

「エドラ、ちょっとレンナルトと交代できるか行ってみてくれよ」

 などと言ったのは第一騎士団のエドラの部下である。まあ、もともとは先輩なので、遠慮がないのだ。


「ええ~。面倒くさい」


 レンナルトが請け負ってくれるならそれでいいじゃないか。わざわざ嫌味を言われに行きたくない。少し胸のあたりがぞわぞわするが、それよりも面倒に巻き込まれたくない。

「面倒くさがり過ぎ。とりあえず行って来い! アルノルド殿下も、エーミルと合わないみたいで参ってるからな。そのまま交代できるならして来い。本当なら、女性の護衛の方がいいんだろうからな」


「レン以外は女性でしょうに……まあ、一回行ってみようか」


 一回行って駄目ならみんなもあきらめるだろう。しかし、一言だけ言わせてほしい。

「ねえ。元帥やレンやエーミルさんがいないってことは、一応私が指揮官でいいのよね?」

「名目上はな。お前、こだわる方じゃないだろ、お嬢ちゃん」

 年かさの騎士に頭を撫でられ、エドラはむすっとしながらカロリーナが滞在しているゲストルームに向かった。

 敗戦したとはいえ、一国のお姫様が滞在するゲストルームは、最高級のゲストルームだ。部屋の外を守っているのは男性の近衛連隊の騎士だが、中にいるのは女性騎士。それにレンナルトだ。

「カロリーナ姫、失礼いたします」

 ノックをして声をかけると、内側から扉が開いた。一応入れてくれるようだ。

「王国第一騎士団エドラ・ラーゲルフェルトです。フルトクランツ連隊長の交代として参りました」

 騎士の礼を取って述べたエドラに、カロリーナはちらりと視線を向けただけでまるっと無視した。彼女の側で助かった、的な顔をしたレンナルトだが、カロリーナが無視するので口を開いた。

「カロリーナ姫様。どうやら用があるようなので、私は失礼させて……」

「わたくしよりも大切な用があるというの?」

 まあ、一応カロリーナは国賓だけど。普通、自分から言うだろうか。

「申し訳ありませんが、私も責任ある立場ですので。ラーゲルフェルト副長は私よりも優秀ですよ」

 レンナルトがエドラの名を上げるが、カロリーナはやはり無視。さすがにそろそろ腹が立ってくるのだが。


「たとえ優秀でも、あの女は嫌だわ。魔女だなんて」


 カロリーナの言い方だと、魔女が嫌いだという感じだが、そのニュアンスから、彼女はエドラ自身が嫌なのだろうな、と何となく察する。まあ、カロリーナに好かれたいとは思わないが、改めて突きつけられると結構ショックである。

 可能な限り、カロリーナの我がままには応える。そして、何事もなく帰ってもらいたいところ。

「……わかりました。レン、あなたの仕事はやっておくからそのまま護衛をお願いします」

「……」

 恨みがましくレンナルトがエドラを睨んだが、長居する気のないエドラは「失礼します」と部屋を辞した。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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