第6話 少女が少年と出会うまで その1
私は世界が嫌いだった。
周りの全ての人が、『友達を作れ』『誰かを頼れ』『協力しろ』と言った。
一人で居ることが悪であるかのように、皆が口を合わせてそういう。
そんな世界を気持ち悪いと感じる。
だが、私も1年前までは、同じように考えていた。
そう。1年前までは。
* * * * *
私は小さい頃から、人の顔色を窺い話を合わせるのが得意だった。周囲で不穏な空気を感じれば道化を演じ、場を盛り上げた。
それだけで周囲の人は私に好意をよせ、気が利くいい子として見られる。
学校に通うようになってからは、学校でも同じように振舞った。
友達からは馬鹿な子だと思われたが、それでも道化を演じる。
喧嘩が始まりそうであれば他の話題を提供し、悩みを持っていそうな人から悩みを聞き出し、相談に乗る。
そんな風に過ごしていた。
そして、1年前。
私はいつものように友達のところに行くと、友達から覚えの無い事で責め立てられた。
『私の好きな人のことを言いいふらしたでしょ』、と。
私はそんなことしていないと伝えたが、聞く耳を持ってもらえなかった。
それから私は、秘密をうまく聞き出し周囲にばらす最低な人間として見られるようになり、友達だった人間やそうでなかった人まで加わり、いじめられるようになった。
なぜこうなったのだろう?
なぜ誰も私の事を信用してくれないのか。あれほど気を使い、ただ皆が笑顔でいられるよう頑張っていただけなのに。
そしてある日、元友達だった女の子が私に近づいて声を掛けてきた。
『私は信じているよ。本当は違うよね』と。
私はその言葉に救われた気分になり、その女の子に全てを説明した。
すると女の子が、話を聞き終わると同時に笑い出す。
その後女が言った言葉は、私の中に深く傷を残した。
「あははははっ、なに必死になって説明してるの? あなたを貶めたのは私なのに! あぁ面白い!」
「え……え? な、なんで? 私の事信じてるって……」
「そんなの嘘に決まっているじゃない。あなたの事なんて大嫌いよ。私が好きな先輩はあなたの事好きみたいだし、馬鹿そうなのに周りからは人気あるし、邪魔だったのよ」
そう女から伝えられ、私は絶望した。
「それにしてもあなたの表情最高だったわ、『信じてるよ』って言っただけなのにもうすごい嬉しそうだったわね。面白すぎて笑うのを堪えるのに必死だったわ」
そして私はその場で泣き崩れ、女は一言、じゃあね。と言って去っていった。
そこで私は泣きながら思った……。
あれだけ皆に気を使い、信用されようとしてもこんなことで容易く壊れてしまうのかと。
なら、そんなものはいらない。
信用も信頼も『友達』なんて形だけのものは信じられない。
もし信じられることがあるなら、私と同じような経験をし、私と同じように絶望を知る人だけ。
だが、そんな人間はいないだろう。いたとしても会える確率なんてないに等しい。
なら、私は一人で生きて見せる。
群れて自分の弱さを隠しながら生きている人間なんかに負けずに、これからを過ごして見せる。
そうして私は一人で生きていくと決めた。
* * * * *
そして、1年が経った。
一人で生きることを決意した日から、私は誰とも関わらなくなり、近づいてきた人間は私の目をみて何もしてこなくなった。
同じクラスの人間が『あいつ人を殺しそうな目をしてたぞ』なんて会話をしていたが、そんなことはもうどうでもよかった。
「はぁ」
今日もこのくだらない会話を聞きながら一日を過ごさなくてはいけないのかと憂鬱な気分になり机に伏せた。
すると、聞き覚えの無い声が聞こえてきた。
伏せていた私は、誰か知らない人の会話かと思い、そのまま寝てしまおうと思っていたが、そうはいかなかった。
なぜなら、眠るために必要な机と椅子が無くなったからだ。
「え? いたっ」
尻もちをつき、慌てて周りを見回す。
すると、とても広い広場のようなところにいることが理解できた。
「ここ、どこ? えっと、確か私は机で寝ようとしていたはずなのになんでこんなところにいるの?」
そんな疑問を抱いていると。あちこちに突然人が現れ、あっという間に人で囲まれてしまった。
そして……。
天から声が聞こえた。
私は興奮で高鳴る胸を押さえて、話を聞く。
天からの声の説明で事態を把握し、私はすぐさま次の行動に移った。
まず武器屋に向かい、剣と盾を買う。次に防具屋に向かい装備を整える。
ハイドローブというものが欲しかったので胴体以外の装備を整えて、都市を出る。
西門から出た少しのところでモンスターを狩り、レベルを上げる。
「これッ! これです! 私が待ち望んだのはこんな非日常です! あんな気持ち悪い世界じゃなく、こんな世界で生きたかった!」
この待ち望んだ、世界が変わる展開に湧き上がる高揚感をぶつけるようにして、狂ったように周辺一帯のモンスターを狩りつくした……。
それから1週間かけてお金をため、村を目指すための準備が整った。
「えっと、どこから行きましょうか?」
まだどこの門から出るか決めていなかったなと思い、どうやって決めるか悩む。
「あ、これでいいかな」
そう言って片手剣を投げた。
カラン、という音を立てて落ちる。
「左ですか。最初に向かったのも左ですし、何か縁でもあるんでしょうか?」
そう独り言を呟いて、西門へ向かった。