第1話 始まりの場所
「選ばれた方々には、上空に浮かんでいる浮遊塔を攻略していただきます」
俺は周りの人間と同じように、上空を見ていた。 唐突の出来事でただ上を、声の聞こえた方を向くしかできなかった。
そして、そこにあったものは、塔だ。
その美しく巨大な塔に俺の心は奪われていた。
塔を眺めていると、窓から見える街から悲鳴が上がった。
街にいる人たちが、ぽつぽつと消えていく。消えたところでは悲鳴が上がる。
あそこで消えた、あそこで消えたと人が消えたところを追っていると、唐突に意識が遠のいていくのを感じた――――
* * * * *
「うっ、頭がクラクラする……」
まだ意識が覚醒しきっていない頭を無理やり覚醒させ、状況確認に思考を巡らせた。
「ここは……どこだ? たしか、天から声が聞こえてきた後に、街の人が消えていって……うん、そこから記憶がないな」
とても広い広場のようなところに俺はいた。
周りを見渡せば、どんどん人が増えている。
「あの人はさっき街で消えた人だ……」
なるほど、つまり俺は選定とやらで選ばれたわけだ。つまりここにいるのが、全員選ばれた人たちということだろう。
続々と人が現れ、とても広かった場所があっという間に埋まってしまった。
今では少し手前さえ人混みで見えない。
「くそ、この人混みじゃすり抜けてほかの場所に行くこともできやしない」
俺が人混みを抜けて落ち着ける場所を探そうと試行錯誤しようとしていたところに、天から声が聞こえた。
「この場にいる皆様は、選定により選ばれた方々です」
「現在、このエリアからは出ることができません。この塔について説明がありますので、しばらくの間ご静聴ください」
その感情のこもっていない声は、驚き戸惑っている人たちや、この状況に説明を求める声などの全てを静まり返した。
そして……。
「ここは浮遊塔の第1層、始まりの都市クウェスタットです」
「皆様にはこれから『冒険者』となって、この200層ある浮遊塔を攻略していただきます。200層のボスを倒せば、ここから解放されます」
「それ以外、この塔から元の場所に帰還する方法は一切ありません」
ほんの少しの間続いた静寂が、天から聞こえた理不尽な話で、崩壊した。
少し遠くの人が、当然の不満を口にした。
「なんで勝手に連れてこられて、こんな塔を攻略しなけりゃいけないんだよ!」
誰かが不満をぶつければ、その不満の声は連鎖的に広がっていく。
「そうだ! ふざけるな!」
「なんで……なんで私なの?!」
「今すぐ元の場所に返してくれ!」
10万もの人が一斉に大声で不満を口にする。
俺はその恐怖や絶望の入り混じった声に、自分の精神が乱れていくのを感じた。
これはやばいと思ったそのとき、今までとは違う声が天から聞こえてきた。
今回はいつもと違い、声に感情が乗っていた。
「クッククク……アッハッハッ!」
その笑い声に、10万の人は静まり返った。
「いやぁすまんな、君たちの反応が予想通りすぎて笑いを堪えることができなかった」
「まぁそんなに憤るな、私はこれから『大切な話』をする。興味があるだろう?」
こちらの憤慨を感じ取ったのだろう。大切な話という部分を強調させ、怒声を上げていた人たちをおとなしくさせた。すべての人が「大切な話」とやらを聞く態勢になった。
「うむ。よろしい、ではまず一つ、ここから出るには最上階のボスを倒さなければならない。これはさっき聞いているな」
「では二つ、君たちはこの塔に入った時から『冒険者』となっている。冒険者にはレベルというのが存在し、これは敵を倒すことによって経験値を獲得し上昇していく、自分より格下の敵を倒しても経験値は入らないので注意するように」
「それとレベルが上がればステータスを上げられる。ステータスは自分好みに変更できるが、一度変更すれば元には戻せない」
「三つ、ここでは時折、天災と呼ばれる敵が出現する。天災は一筋縄では倒せない、天災が提示した謎を解くもの、天災を打倒するもの、そのほか様々な種類がある。天災を撃退または討伐した場合には、特別な報酬が与えられる」
「四つ、この塔ではスキルと呼ばれる必殺技のようなものも出せる」
「それと、無一文じゃ可哀想だから全員に1000cp用意しておいてやったぞ、以上」
「それでは解散だ、精々足掻いて最上階にたどり着くことだな」
そして天からの声が消え、広場からは少しずつ人が減っていった。
それでも広場には、泣いてうずくまる人、腰を抜かして立ち上がれない人、仲間を募集しグループを作ろうとする人などがいた。
俺はそんな人たちを横目で見つつ、今後のことについて考えた。
スキル、必殺技みたいなものって想像つかないな、これは使ってみたらわかってくるだろう。
それと1000cp、これは武器と防具に使おう。
あぁ、これからが楽しみで仕方がない! 俺はこんな非日常が欲しかったんだ!
大声を出すのが恥ずかしかったから心の中でだけ叫んだが、一通り興奮したところで、冷静に思考を巡らせる。
「レベル上げやステータスについてもよく考える必要があるな。あとは、武器だな、どんな武器で行こうかな」
俺はこの非日常に胸を躍らせながら武器屋を探し始めた――――。