第7話 趣味
妄想の産物第7弾。あまがやがナイスアシストします。
…死んだ。
控えめに言っても死んだ。
今、私は完全に腐女子モードだった。
こんな状態でゆうちゃんには絶対会いたくなかったのに…。
「あれ?ゆうかだったのか。こんなところで何してるんだ?」
同人誌買ってウハウハ(^q^)してました‼
…なんて言えるか!
頭が真っ白になる。何を言っても墓穴掘りそう。
目線だけであまがやに訴える。
そんな嫌そうな顔すんな!いいから助けて‼
ため息一つついてあまがやが一歩近づく。
「初めまして。私佑香の中学時代の同級生の雨谷はるなと申します。」
そしてこっちを向いて、
佑香、こちらの方は?
と聞いてきた。
完全に外行きの話し方、声だ。さらには笑顔もとって付けた感じだ。
端的に言うなら猫を被ってる。
ただ、笑顔に関しては知らない人が見れば穏やかな笑顔だが、私は知っている。この笑顔の時は大抵怒ってる。
いきなりフォロー頼んだからかね。
とりあえず、さっき話したゆうちゃん…とだけ答えた。今は余計なことは何も言うまい。
あまがやは
あぁ…
とだけ答え、キチンとした笑顔でゆうちゃんに向き直った。
「あなたがゆうちゃんさんでしたか。ついさっき伺ったところなんです。お会いできて嬉しいです。今度私もお店に伺わせていただきます。」
今のあまがやの笑顔は外面がいいってだけで済ませられない何かを感じる。
モヤっとする。
じーっとあまがやの顔を見つめる。といっても相手の顔を見ただけで考えていることを汲み取る能力なんて持ち合わせてないけど。
「私たちはアニメが好きな友達の誕生日プレゼント買いに来たんですけど…」
そう言って、私が持っていた青い袋をするりと奪う。
あまがやナイスっ‼
他の友達のためのものにすることで私は仕方がなく来たみたいな雰囲気を演出!
「ゆうちゃんさんはどうしてここにいるんですか?」
さっきゆうちゃんが聞いてきたことをそのまま聞き返す。
そういえばそうだ。
今日は21日。ありささんの月命日だ。
なのになんでここに…
「あぁ、今日は予約してたゲームのソフトを受け取りに。実はゲーマーなんだよね。」
まさかの同志。
ゆうちゃんゲーム好きなのか。
意外過ぎる。人は見た目によらないってこの事だ。
「そうなんですかっ?私も好きです‼」
あまがやを押し退けるように前に出る。あまがやが舌打ちした気がするが気のせいということにしよう。冷や汗が止まらないぜ。
「そうだったのか。バイオハザードとかはやる?」
ゆうちゃんが挙げたのは超人気のソフトだ。
バイオハザードとはいわゆるホラーゲームで、ホラーゲームというジャンルを確立したのはこのゲームだと言っても過言ではない。
内容はウイルスに感染した人や生き物を倒していくといった感じだ。
何を隠そう、私の大好きなゲームだ。
「それ大好きです‼最近はそればっかりプレイしてます。」
「あ、じゃあ、今度うちでプレイしないか?それまでにある程度慣れとくから。」
「じゃあ、今度お店へ伺った時にでも。」
同じゲームで遊ぶなんて同級生みたいだ。
じんわりと幸せが広がる。
と、ここでゆうちゃんが爆弾を投下した。
「店でゲームやると営業どころじゃなくなっちゃうしな…ゆうかさえ良ければ定休日に家でやらないか。」
ウチデ…うちで…家で?!
それは完全に二人きりってことですか‼
顔に血が集まっていくのが分かる。
今まではなんだなんだ田中さんやら山口さんやら斎藤さんやらその他にも常連さんが必ずいた。
それが!いきなり家で!二人きり!!!
流石にむりっす。心臓もたない。
でもここで断るのはもったいない。
「行き、ます…!よろこんでー‼」
「お、おう。テンション高いな。じゃあ…来月の21日なんてどうだ。」
え?21日?
ありささんのことは?
顔に出ていたのだろうか。ゆうちゃんがさらっと答える。
「ありさの所にはいつも午前中に行くんだよ。だから今もここに来てるんだよ。」
納得。
…だけどまただ。
ゆうちゃんはありさの所って言う。お墓なんて表現しない。
迂闊に発言できない。
「来月だったら21日は土曜だしちょうどいいんじゃないかと思うんだけど。」
「行きます。」
ゆうちゃんの目をまっすぐ見つめる。
くい気味に返したらちょっと驚いた顔をした。
「そっか。じゃあ予定とかは今度店に来たとき決めようか。じゃあ、また店で。雨谷さんもぜひいらしてください。それじゃあ。」
ゆうちゃんが軽くあまがやに会釈して立ち去ろうとする。
「あ、ちょっと待ってください!」
それをあまがやが呼び止めた。
え、どうしたの?そんな呼び止めなきゃいけない理由ある?
まさか惚れたとかじゃないよね?まさかのライバル出現ですか?
と、思ったら違った。
「実は佑香、しばらく大学の方が忙しいらしくて…もしかしたら来月の21日まで行けないかもしれないんです。よろしければメールアドレスかLINEのID教えてあげてくれませんか?」
そんな話一切してない。
口をはさもうとしてあまがやに脇腹を殴られた。痛い。
いいよーと言ってゆうちゃんがスマホを取り出している間にあまがやが耳打ちをする。
「店員と客じゃ連絡先交換する機会ないでしょ。この機会に交換しとけ。」
もう、あまがやなんなの?
神かよ。
あまがやのナイスアシストのおかげでゆうちゃんのアドレスとLINEのIDゲットだぜ‼
今度こそゆうちゃんと別れて、店外に出る。そしてくるりとあまがやの方に向き直った。
いきなり止まったためかあまがやが不思議そうな顔をする。
がばっ
「あまがや好きぃー‼流石‼あまがやと友達でよかった‼」
抱きついて喜びを伝える。
この子できる子すぎる。しゅごい。
あまがやは、私の背中をポンポンっと叩きながらそりゃよかったーと棒読みに近い言い方で流す。
もっとドヤってもいいのよ?そのくらい鮮やかだった。
なんでそんな何とも言えない顔なわけ?ちょっと、目を合わせて?
あまがやは言いにくそうに答えた。
「いや、あの言い方したからゆーかはしばらくお店行けないなぁって。嘘ついたみたいになるからさ。」
盲点。
「…それってどのくらい?」
「最低2週間くらいは空けてもらわないと…」
ちょっと待って。代償大きくね。
2週間もゆうきゃんに会えないとか。
天国から地獄へと突き落とされた気分だ。
さっきとは違った、ドンマイって感じで背中を叩かれる。
あまがや、笑うな…。
2週間なんてあっという間だ。
自分にそう言い聞かせて家路につく。