95 職人の街を目指して
今回の執筆者は、企画者の呉王夫差です。
そして更に時は流れ数日後。ある時、マキナが氏澄にある提案を持ち掛けた。
「氏澄。今度、ペトラスポリスに行ってみないか?」
「ぺとらすぽりす、にござるか?」
「ああ。ここから東に何日か歩いた所にある街でね。あそこには職人さんも沢山いるって話だ」
ぺトラスポリス、これまた聞き慣れない地名が出てきたな。
『ぺトラスポリス……エグザルコプロス子爵ノ領地デアル』
つまり、ヨルギオス達の先祖も居るということか。
どうやらエグザルコプロス子爵家はシュトラウス公爵家よりも歴史があるようだ。
「それは興味深き話にござるな。しかし何の用向きで?」
「一応、俺達も歯車とか作っただろう? でも上手く作れなかった道具や部品もあってさ。ぺトラスポリスの職人に、色々コツとか教わろうと思って。それに職人なら、俺達の気づかなかった活用法も思いつくかも」
「なるほど、拙者も本格的な職人ではござらんからな。だが、理由はそれだけでは無かろう」
「ははっ、見抜かれてたか。実はちょっとばかし大きな野望があってな」
「野望、とな?」
マキナは自分の心の内に秘めていた「争い無き世界の構築」という願望を氏澄に伝えた。
世界中の人々の力を平均化する構想に氏澄は一瞬理解が及ばなかった。
が、「争いを無くしたい」思いは同じだったようで、マキナの野望に乗っかることに決めた。
「されど、コロナ殿やエルネスタは如何致す? 長い間離れる訳にもいくまい」
「明日荷物を纏めて一緒に連れていく。長年住み慣れた村を離れるのは寂しいけれど、世界平和のために一肌脱いでみるさ」
「ふむ、左様にござるか」
そして翌日、シュトラウス一家と氏澄はモントドルフ村を後にした。
最初、コロナは「生計をどう立てたら良いのですか」と反対していたが、夫の熱意のこもった説得に最終的に折れたようだった。
◆◆◆◆◆
それから数日後。マキナ達は目的地・ペトラスポリスの近くに来ていた。
「あの城壁の中が、ペトラスポリスの街だよ」
「かなり頑丈な壁にござるな。それに高さも相当なものだ」
「この地は交通の要衝で戦が多かったと両親から聞かされています。その過程で城壁も高く厚くなっていったのかと」
「去年も北方の遊牧民が襲撃したらしい。領主の手腕もあって追い払えたようだけど」
つまり、昔から数多くの人々の血が流されてきたということ。そんな話を聞くと、マキナが平和を真に願う気持ちも納得できる。
似たような話も1つや2つではないだろうから。
「親近感が持てる話にござる。拙者の国も見知らぬ異国の黒船の来航に、混乱をきたしておるから」
結果として歴史の流れは日本に味方したが、氏澄はその事実をまだ知らない。彼も遠い祖国を心配していることだろう。
彼もこの世界に幾分馴染んできたとは言え、心は日本の武士だからな。
「氏澄さんの国には大きな湖でもあるのですか?」
「否、大海原にござる」
「海か。本物は見たことないから想像つかないな……」
そうして城壁の外で話し込んでいると、近くの森から女の子のものらしき声が突然聞こえた。
「た、助けてー!」
「女の子の悲鳴?」
「何事にござるか?」
声のした方向を見ると、そこにはイオカスタにどこか似た女の子が。
だが服装は高級そうな生地の白いワンピース。今までのパターンから察するに、エグザルコプロス一家の先祖の可能性が高い。
もっともこの4人が思い当たるべくも無いが。
「ま、魔物があたしを襲って……」
「よしよし、俺達がいるからもう大丈夫」
「う、うん……」
泣きじゃくる女の子だったが、マキナに慰められるうちに徐々に泣き止む。
恐怖のあまり、パニックになっていたらしい。
「魔物?」
「はい。普通の動物と違い、その身に邪悪な気を纏っているものです。倒せば邪気は無くなるのですが……」
「物の怪、妖の類にござるか」
一方、氏澄はコロナから魔物ついて説明を受けていた。
「ところで、お嬢ちゃんのお名前教えてくれないかな?」
マキナの問いかけに女の子は頷いて答える。
「アタナシア……」
「アタナシアちゃんだね、わかった。俺達が魔物を追っ払ってあげるから、早く城壁の中に戻りな」
「え……?」
「ちょっとあなた!」
一瞬反対しかけたコロナだったが、マキナに片手で制される。
「コロナ。エルネスタとアタナシアを連れて、先にペトラスポリスで待っててくれ。俺は氏澄と一緒に魔物を退治するから」
「でも、魔物のことを良く知らない氏澄さんに戦わせる訳には……」
「心配には及ばん。拙者にも武士としての意地がある」
「ですが……」
「コロナ、ここであれこれ思い悩む時間はない。さあ早く。氏澄も腕の立つ男だし」
「物の怪ごとき、この刀で斬り伏してくれよう」
「……」
返す言葉もない様子のコロナ。結局彼女はエルネスタとアタナシアの2人を城壁内に避難させた。
「じゃ、いっちょやってやろうぜ」
「心得た」
そしてマキナは槍、氏澄は刀を構え来たるべき魔物の襲撃に備えた。
次回の執筆者はまーりゃんさんです。