91 空耳
今回の執筆者は鵠っちさんです。
俺であって俺ではない存在。いったいどういうことなのだろうか。
「あの、大丈夫なんですか?」
「大丈夫……心配はいらん……」
なにやら遠くから声が聞こえるような気がして、声がするほうへ意識を向ける。
『目覚メヨ。健闘ヲ祈ル』
健闘を祈るといわれても、結局のところ謎は謎のままだ。
「まあ、目が覚めるのを待つしかないってことだねぇ。お、言ってるそばから、ほら」
「……あ、れ? 部長?」
なんだか久しぶりに部長の顔を見た気がする。視線を移動させればアヤノとアリスもいるようだ。みんな一様に心配そうな顔をしている。
「心配される側が心配そうな顔をするな。今回はたったの半日とちょっとだ」
「ほぼ一日でしたよ?!」
どちらが本当なのだろうか。外の様子を窺うことはできないようなので、今のところ知るすべはない。
というか、今更かもしれないけど、何故布団に寝かされているのだろうか。ここが風呂場からどれほど離れているかは知らないが、どのように運ばれたのだろうか、誰かとすれ違っていないだろうかと、少し心配になってきた。
「もう数日程度、どうなろうと構わん。話の途中で余所事に気をとられおって。もう一度向き合ってまいれ!」
「ま、待って待って!」
結局何日が正解なのだろうか……じゃなくて、なんでアリスは俺が外の声に気をとられたのを知っているのだろうか。
「聞こえるのに口出し出来ぬなど……。次はもうちょっとうまく術にかかれ」
そんなことを言われても、どうやったらうまくかかれるのか……だからそうじゃなくて、聞こえていたのか!
「何を不思議そうな顔をしている。お主が無意識に拒絶したのが悪い」
そりゃあ、だって、自分の中に何者かがいるだなんて、怖いじゃないか。緊張して当たり前だ。
「大丈夫です。アリスさんは最初、空耳かと思ってたみたいです。私たちには話の内容は教えてくれませんでした」
「遠い縁の仕業か……。まあよい。もう一度だ」
こうしてまた何の心構えもできずに、真っ暗な闇の中へと戻されてしまった。
次回の執筆者は、まーりゃんさんです。